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ニセコレポート・ダミアンの話

「Kyokoも、ちょっといかが?」

キッチンが一番混雑して、ワイワイガヤガヤする8時頃、小腹が空いたなと覗いたところで、こうダミアンに尋ねられた。

最近入った、新入りのフランス人。
 
「何作ってるの?」

「マフェだよ。」

「マフェ??(パフェじゃなくて?)」

「そうだよ。マフェだよ。」

まるで、世界中の人が知っているかのように、自信たっぷりに言う彼。
調べると、セネガルの家庭で食べられている料理だった。

「でもどうしてフランス人のあなたが、セネガル料理なの?」

「妹がセネガル人と結婚して、僕も何度か行ったからね。現地で食べるマフェは、そりゃぁ美味しいんだ!」

そう言いながら、彼は手にしたピーナッツバターを開封しだした。

「それ・・全部入れるの?」

「そうだよ。本当は3つがいいんだけどね。でも今日は2つでいいや。」

日本で、ピーナツバターを1食で2瓶消費する家庭を、私は今までに聞いたことがない。栄養価、高そうだな。笑
 
私と、招待されたもう一人のハーフコリアン・ハーフ日本人のKaiは、彼の話を聞きながら、なんとなく落ち着かない。

彼は話を続けた。

「僕、もうすぐ誕生日でね。だから、アルフレッドを迎えにいくんだ。」

「へぇ、おめでとう!で、アルフレッドって誰?」

「僕の新しいバトラー(執事)さ。」

「は??バトラー??」

「そうだよ、ほら、見てごらん」

嬉しそうに微笑みながら見せられた携帯には、なんとも形容し難い、不思議な生物が映っていた。

「ちょ、ちょ、ちょっと何よ、これ?!」

「”これ”なんて、言わないでくれよ〜。僕の大切なアルフレッドを」

「いやごめん。でも意味が全くわからないんだけど。」

* * *

聞けば、かれこれ6年前、このヘアレスキャットなるものの存在を知った彼は、この生物に一目惚れし、以来、いつかこの猫を手に入れようと、心に決めていたらしい。

が、「いつか」は、放っておけば、永遠の「いつか」なのだ。

それで、今年の誕生日こそ、彼を迎えようと決意し、もうブリーダーとも連絡を取り合い、この山の仕事の契約終了と共に彼を迎え入れ、その後は肩に乗せて、日本中を旅して回るらしい。

* * *

「ちょっとちょっと、そんなに簡単に動物は順応しないってば。」

「いや、絶対大丈夫。」

「トイレはどうするのよ。猫はテリトリーの生き物だから、知らないところを連れ回されるのは、ストレスなのよ!」

「いや大丈夫。トイレは僕がちゃんと仕込む。ほら見てご覧」

彼の携帯の中の写真には、ちゃんと人間のトイレで用を足す、お母さんの猫が写っていた。(嘘でしょう!?)

私は、自分の聞いている話、見ているものが信じられず、そんな馬鹿なことがあって良いものかと、何度も彼に挑むものの、その度に、自信たっぷりに大丈夫だと言い切るダミアン。

そして、その様子を、一言も口を挟まず黙って(固まって?)見守るKai・・・
 
そうこうするうちに2瓶のピーナツバター入りマフェは、無事出来上がった。

お味の方は・・そうですね。一言では説明し難しい、なかなか興味深いお味でございました。

でも、なんでもそうだけど、その場で食べたら絶対美味しいと思うのよね!

はてさて、そんなこんなで、世の中には色んな価値観が存在し、まだまだ知らないこと、驚くことがあるものだと再確認した夜。
 
あなたの街で、ヘアレスキャットを肩に載せた青年を見かけたら、ぜひ、声を掛けてあげて下さいね!何なら、ご自宅のトイレをアルフレッドに貸して差しあげたなら、ことと次第によっては、美味しいセネガル料理を振る舞って貰えるかも。笑


追伸:今、ハッと思いつくに、彼、日本に働きに来たのではなく、主目的は、アルフレッドを手に入れる為だったのかも。高級そうなネックレスに指輪。マフェも鍋いっぱいに作って、他のみんなにも振る舞っていたし、今朝なんか、山の上では1個300円もするアボカド(私は食べたいと思いつつ勇気が出ず、日本ではまだ一度も買えてない)を、スプーンで救って食べていた。
 
もしかしたら、「○△・ドゥ・◆×」なんて名前の公爵の息子だったりして!



 

 


 


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