旅立ちの前に
夏の帰国に向け、住んでいた家を一旦closeすることにした。
暑さの中に暮らしつつ、クーラーがなかったり、生活もパンデミック以来すっかり変わったりで、どこかで一度、区切りをつけなきゃなと、思ってた。
クラスはオンラインに変わり、毎回出かける必要がなく、楽になった反面、画像越しのコミュニケーションは、触れ合ったり、一緒に場を共有できない分、近くて遠い。
共に学び、成長していく場から、触れ合いや活気が減り、再会できたと思いきや、今度はマスクにより、コミュニケーションが取り辛くなった。
以前のように、みんなを盛り上げることもできない、倦怠感。
よくわからない。不思議な時代。
それで全てを止め、しばらく自分を空にしようと決めたのだ。
***
現在、絶賛身辺整理中。
ミニマリストと豪語してた割に、いかに多くのものに囲まれていたか。
電子ピアノ、お気に入りのテーブル、コピー機、アイロン、ジューサーに、日本語教材。
次々と貰ってくれる人に引き渡しつつ、それでも部屋は片付かない。
中でも、私の最大の関心事は、部屋の片隅の祭壇に眠る、亡き猫の遺骨。
半野良で、私同様、可愛がってくれていたご近所さんに、引き取ってくれないか聞いてみたが、返事がない。
そうか、だったら・・
昨日の午後、意を決して、遺骨の箱を開け、彼が生前活動していたエリアに、撒いて回ることにした。
”ありがとね”
”ありがとね”
”色々楽しかったね”
”また会おうね”
御近所さんの家の前に着いた。
出かけているのか、敷地内は、しんと静まり返っている。
彼、日中は、よくここで昼寝してたな〜。
そこで、少し多めに灰を掴んで、宙に撒いた。
”ありがとう”
もう一度撒いた。
”ありがとう”
”ありがとう、マシュー!”
あ・・・
午後の日差しに、宙に一度は舞った灰が、キラキラと反射して見えた。
なんだ。
彼は、光の中にいた。
**
当たり前だけど、野良猫は生涯、紙切れ一枚、ペン一本すら所有しない。
日中は、日陰で眠り、夕方になると起き出して、野原を散策して、虫を捕まえたり、他の猫と喧嘩したり、じゃれあったり、子孫を残したり、一生涯を、そうやって過ごした後、時が来ると、何も持たずに土に帰っていく。
お見事だと思う。そして美しいな、とも。
いつか、自分が旅立つ日、私は何一つ残さずに、軽やかに行けるだろうか?
言葉も、思い出も、何一つ残さずに。
持ちものは減ったけど、彼らには、多くのこと・を学んだ。
私は顔を上げて、次の章を歩いていくだけだ。
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