深夜、シューマンに向き合う

練習していたらうっかり1時15分。
ついでなので、練習していた曲について、ノートも書いてしまいます。

10月のトリオのコンサートでは、三重奏曲以外にもピアノのソロ、そしてヴァイオリンとチェロの曲をそれぞれピアノ伴奏で弾きます。
ヴァイオリンのえりな先生とは、シューマン(クライスラー編曲)の「幻想曲作品131」を弾くことになりました。
大のシューマン好きとして、大事な試験にはシューマンの大曲を弾いて乗り切ってきましたが、この「ヴァイオリンの幻想曲」は、実はえりな先生からのご提案で初めて知ることとなりました。

シューマンの幻想曲といえば、初期に作曲されたピアノ曲の「幻想曲 作品17」があまりに有名で、ロマンティックで心奪われる大曲です。
一方、このヴァイオリンの幻想曲は作品131で、晩年の作品となります。
シューマンはピアノ、歌曲、室内楽曲、交響曲などに渡って素晴らしい作品をたくさん残しながらも、ある時から精神を病んでしまい、発狂したとみなされ精神病院に入れられ亡くなりました。
初期の作品が文学的で内容が深く、時にエキセントリックでも、前向きで活力があるのに対して、晩年の作品は精神が破綻したせいもあり、難解な曲だという「イメージ」があります。
こんなことを書いたら、聴きに来てくださるお客様を
「ど、どんな曲?」と不安にさせてしまうかもしれませんが、、、
安心して下さい。
とてもロマンチックで、随所にシューマンらしさの散りばめられた魅力的な曲です。精神が破綻したとは思えないほど生き生きしていて、逆にこんなに良い曲が晩年にあったのか!と、新たな発見になりました。
多くの天才と言われる芸術家たちは、実際ほとんど病んでいたけれど、作品にはたいして影響していませんものね。

今回の演奏会で弾くのは、シューマンのオリジナル版を、クライスラーというヴァイオリニストが編曲した改訂版です。
クライスラーはかつて、ブラームスとヨアヒム(シューマンやブラームスと親交のあったヴァイオリニスト・指揮者・作曲家)が、シューマンのヴァイオリンのための幻想曲について議論している場に、たまたま同席していたと言われます。
実はこの幻想曲は、ヨアヒムの依頼を受けたシューマンが、彼のために作曲したものでした。
ヨアヒムは、自分の死後はこの曲が忘れられてしまうのではないかと言い、ブラームスは「幾分か手を加えればこの曲は救われるはずだ」と主張し、この曲が生き残るようにヨアヒムに改訂することを勧めたのでした。
しかし、ヨアヒムはそれをする前に亡くなってしまったので、クライスラーがその意思を引き継いで20年もの年月をかけて改訂版を完成させ、更にもう20年かけて最終的な改訂版を完成させたのだそうです。
(白水社のフリッツ・クライスラー:ルイス・P・ロックナー著にこのエピソードが載っているそうです。こちらの書籍は図書館にあるそうですが未確認情報です)

今回えりな先生には「クライスラー版で」とのはっきりした意志があり、私もオリジナルと両方聴いてクライスラー版の方が良いと思いますし、こちらを演奏します。
当時の音楽家同士の強い繋がりと意思によって、今日まで残されてきたこの作品に向き合い、コンサートで演奏できることを、自称シューマニアーナとして嬉しく楽しみにしています。
聴いてくださる皆様にも、この作品に関わった音楽家たちそれぞれの想いが伝わりますように!

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