イケる女の恋愛遍歴:case_1.硬派な爽やか先輩編

たった5ヶ月の留学準備期間で、4ヶ月間付き合った先輩がいた。
出会った当時4回生で、森山未来そっくりの、テニスサークルらしく程よく日焼けして、スタイルもよく、おしゃれにそこそこ気を遣ういわゆる雰囲気イケメンだった。

モリヤマ先輩とは新歓コンパで会った。
雰囲気であろうが、イケメンに免疫のない私は、印象がよくても声をかけれず、そんなに話した記憶はない。
たぶん、わかりやすく「アゲアゲぶち上げー!」とか言ってる先輩男子に猛烈アタックされていたのを見て、興味を持ったらしく、一緒に行ってサークルに入った友だち経由でメールがきた。 
(一応補足すると、この時期まだLINEはない)

もともと遊び程度ではあるが、小中高と続けていたテニスをたまにはしたいなという気持ちはあって、友だちの情報と手帳を照らし合わせて、やっぱ行けない〜というのが続いて1ヶ月は経った頃だった。

「香子ちゃんとしゃべったやつ(初対面で猛烈アタックしてきた先輩)がぜひ来て!と言ってるから〜」みたいな、自分は好きにすればいいと思うけど、みたいな淡白な印象のメールだった。
じゃあなんで貴方が連絡してきてんの?って感じだが、そりゃあ初めから彼が落としたくて連絡したきたのだと思うし、カッコつけていただけだろう。

サークルの時間がちょうど授業と被ってて、どうにも行けないと返すと、じゃあ、とにかくみんなで遊びに行こうという流れに。
テニサーだけど、飲みサーのイメージのが強いと専らの噂だったので、まあ結局遊べりゃいいのか、と納得し約束をすると、やりとりの間に、そもそも誰かもわからなかった「みんな」は消えてなくなり、二人きりの初デートになっていた。

そんな初デートの思い出といえば、京都の繁華街が四条河原町だと覚えたばかりなのに、「藤井大丸」で待ち合わせと言われ、あの大きい百貨店ね!と張り切って少し早めに待っていたにも関わらず、モリヤマ先輩には一向に会えなかったことだけ。

四条には「大丸」と「藤井大丸」が存在していて、知らずにずっと「大丸」にいて、話がずっとズレていたのにお互い気づかなかったので、なんやかんやと謎解きをする羽目になり、やっと会えた時には、なんだか吊り橋効果のようなものを感じるほどだった。
ただ会ってデートするのに、こんなに苦労したのは初めてで、二人の関係性も一気に、一山越えてしまった気分だった。
モリヤマ先輩も北陸出身だったので、もう少し気が使えても良さそうなものだが、もしこれが彼の戦略なのだとしたら、この作戦の勝率をぜひとも知りたいものだと思う。

正直、この時にどこで何をしたのか、他の記憶が全くない。
というか、記憶にあるデートが初めての時だったか、確証がない。
そのくらいデートそのものは大したものじゃなかった。
しかしとてつもなく気持ちが盛り上がっていて、すぐにでも告白タイムへ突入できそうな気分だったのは確かだ。

そのままホイホイ家に上がって、身体を許してしまいたい。
そうしたら最高に気持ち良いだろうな…

そんなことを思うほど、一気に高揚していた。
こちらも最短距離で落とす気ではいたのだけど、それまでのメールでの塩対応ぶりと、友だち曰く、サークル内では「硬派な爽やか系」だと聞いていただけに、それなりのお膳立てを用意していたつもりだ。

ただ馬鹿なフリをするまでもなく、頭をお花畑状態に持っていかれ、期待通りに彼の家に上がると、急に冷静になってきた。
せっかく1日でこんなにも気分が上がる稀有な人と出会ったので、ひとまずこの人とは長続きさせたい。
でもモリヤマ先輩との生活における共通項は皆無なので、今日をうまいこと繋げなければ、もう終わりだ。
彼のゴールがなんであれ、セックスして満足してしまっても、終わる。
この瞬間の選択を失敗するのはまずい。

やはり硬派だと言われてるだけあって、家に上げたくらいでガッツいてはこなかったが、今日、何かしらの結果が出されるのは明白だった。
私個人の欲望はさておき、セックスはしない方がベターだろうと心に決めていたので、雰囲気が甘くなったところで、渾身の、申し訳なさそうな、自信のない声でこう言った。

「ねぇ、私、初めてだから…重いよ?」

実際のところ、私にまともな経験はなかった。
2人の男性と、それぞれ1回ずつトライしたが、お互い緊張で強張りすぎて、なにがどう上手くいかなかったのかすら定かじゃなかった。
それでも未知の行為だったので、その時はこんなものかと思ったが、後々の経験から考えると、いわゆるB止まりだった。

失敗したにしろ、すでに行為に及んでもいいと思った時点で、私にとって、もう処女に特別な意味はなくなってしまっていた。
だからこの瞬間を渋る唯一の理由は、先輩との関係性を特別なものへと持っていくために他ならなかった。
そしてこう言ったときの私に対する反応はもう何人かで実証済みだったが、彼も例に漏れず、こう言った。

「え?またまた〜」

これだけガードが緩く、派手な見た目をしておいて、そんなわけないだろ!
と彼(ら)は思うのだろうが、そんなことは私が一番感じている。
自分でも自分の処女性が信じがたいくらいだが、奪ってくれる人がいなかったのは事実だ。

だけど知っておいてほしいのは、今の世の中、どんなにガードを緩めても、積極的な態度をとっても、男性は初めての重さや面倒臭さに怖気づくし、「やだ」と言われたら、全力で引いてしまう、意気地なしばかりだ。

私が親しんできた少女漫画では、男性は一度その気になれば止まらないものだけど、愛の力があれば我慢できる。主人公が「怖いの」といえば、我慢して踏みとどまることが、大切にしている証拠だというのが定石だった。
止める、止められない以前に「男性はその気になったら止まらない」という刷り込みがここにはあって、生物的興奮状態にさえ持っていければ、ちょっと「やだ」とか「怖い」とか言ったところで、どうにか丸め込んで致してしまおうとするだろうと、私は信じていた。

しかしながら実際、私に近づく男性たちは、どんな子どもよりも素直に言葉を受けとる純粋さを持っていて、強引に事を押し進めるなんて全く頭になかった。
こんなに性に積極的な私であっても、最後の一押しは男性にしてほしいと強く思っている。その一押しで、こちらの感度が絶対変わるから。
昨今の女性向けAVでは、男性側がもうどうにも我慢できないとか、女性側がそんなつもりじゃなかったのに、みたいなレイプまがいのコンテンツが多いのは、女性のそういう心理の反映だろうと思う。

それはさておき、私の処女発言に面食らったモリヤマ先輩は、服を脱がしかけた手を止め、冗談だろと笑っていたが、切ない顔を続ける私の空気を察し、神妙な面持ちで、じっとこちらを見た。

「そっか。
盛り上がっちゃって、順番逆になったけど…彼女になってくれる?
ごめん、先に言えばよかった。」

「私こそ、騙し討ちみたいに、ごめんなさい…
でも嬉しいです…♡」

ミッションコンプリートの瞬間である。
こうしてめでたく言質が取れ、交際がスタートしたものの、およそ付き合っているとは思えないほど、会う時間は少なかった。
就活をはじめていながら、サークルは全く休むことなく、バイトもして、4回生とは思えない忙しさを発揮していたモリヤマ先輩と、競うほど忙しさを極めていた私は、次の日の朝に余裕のある日の夜くらいしか会えないので、必然的に先輩の家でお泊まりコース。

そして驚くべきは、ほとんどがお泊まりコースのおうちデートを重ねていたにも関わらず、一回もまともにセックスしなかったのである。
モリヤマ先輩は、初デートの私の言葉を信じ、手取り足取り指導することにし、そこに情熱を燃やしていた。

「みんなしてるから。」

そう言い切られ、毎回フェラをするように指導されたときには、さすがに「AVの見過ぎだ」と言ってやりたかったが、私の中にも漠然とした処女膜への恐怖があり、それで丁寧に扱ってもらえるなら、と大人しく応じた。

彼は律儀に一つ一つの段階を儀式のようにこなして、やっとセックスが成立するのだと思っているようだった。
そのため「指で慣れてくるまで、入れないから。」という気遣いの宣言をして、数回は慣らすだけ、彼は口や手で果てた。
問題は、私にもあって、一種の尖端恐怖症みたいなものかもしれないが、その指で慣らすという行為が怖くて、気持ちよくなくて、毎回体が強張るので「今日は入れれそうだ」という日が一生やってこないような気になるほどだった。

指導の割りにフェラは上手くならないし、指で慣れる様子もないので、私たちにとってのセックスは、とにかく時間がかかり、疲れるものになっていった。
残念ながら、試行錯誤をできたのも4〜5回ほどで、ついぞセックスが成立することはなかった。

学生のお付き合いで、この部分が満たされずに、よくも気持ちが続いたと思うが、先輩は存外に私を気に入っていて、留学前にお別れするつもりだったが、「別れたくない」と粘られた。

また気持ちが盛り上がって、私も遠距離恋愛を続ける気で渡航したが、先輩の就活が最悪の状態で、冬まで続いたようで、あっという間に音信不通。
一時帰国でも会うこともできず、フェードアウトしたのだった。

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