僕の音楽的ルーツ18 METAFIVE『環境と心理』

6人のエリート達が産み出した、宝石のような音楽。それらに続きが無いことを、僕らは受け止め、前を向かねばならない。

1. 『環境と心理』

僕がMETAFIVEを認知したのは高校〜大学1年の頃だ。高校の頃バンドで一緒だったギターのN君が、格好いいグループがあるんだよ、と教えてくれた。YMOのドラマー・高橋幸宏を中心としたグループだという。ただ、その時は話を聞いた後でバンド名を忘れてしまい、スルーしてしまった。

METAFIVEと再会したのは2020年、僕が(二回目の)大学2年生の時だ。Apple Musicのプレイリストかラジオか、もしくはYouTubeのMVで、『環境と心理』を聴いた。

この曲が僕にはものすごく刺さった。
まずタイトルと歌詞。「環境」「心理」という単語の掛け合わせからは、身近に起こる様々なことが連想された。

なんとなく気分が ちょっとだけ晴れてく
変化する景色や 環境と心理

METAFIVE『環境と心理』(2020)

この曲を聴いた当時、僕はちょうど留年を経験したタイミングで、またコロナ禍でもあった。多くの変化に飲まれながら、様々な感情が渦巻いてた自分にとって、『環境と心理』はある種救いのような力があった。

歌詞は全体として、自然界で起こる大きな事象を描きつつ、それに伴う街の様子、自分自身の変化を、素朴な言葉遣いで映し出している。

南風 頬を優しく撫で
足元が 少しだけ軽くなる

METAFIVE『環境と心理』(2020)

そのため、まるで誰かの日記を読んでいるようでありながら、普遍的で哲学的な雰囲気も漂う。そういう奥深さが良かった。

そして、「夕暮れ時赤く染まる」の後の小山田圭吾のギターソロはあまりにも美しい。

ギターに限らず、『環境と心理』はサウンド面でかなりウェットな質感を持っている。この部分を聴いてもらっただけでも分かるように、電子音楽特有の冷たさみたいなものはあまり無く、ゴンドウトモヒコの奏でるホーンサウンドや小山田圭吾のエレキギター、ボコーダーを通さないボーカルの雰囲気が、独特の暖かさを提示しているように思う。そういう部分がこの曲の魅力であり、革新的な部分だと思う。

2. 変化する景色

2021年、彼らが8月のフジロックに出演することが分かった。

METAFIVEの出演が発表された当時のフライヤー。

フジロックは本来、海外アーティストの出演が多いフェスだ。だが2021年はコロナの影響を受け、国内アーティストのみでの開催が発表されていた。そのため、結果としてジャンルを超えた大御所級の国内アーティストがひしめく、前代未聞の大型フェスとなった。

僕はN君に、METAFIVE見に行こうぜ!とフジロックに誘った。ただ彼は彼で7月のワンマンライブに行くらしかったので、結果他の人と行くことにした。いずれにせよ、お互い別々に、METAFIVEのライブを心待ちにしていた。

しかし状況は一変した。ギターボーカル小山田圭吾が、東京オリンピック開会式の音楽を担当したことを契機に、過去のスキャンダルが掘り起こされ、大炎上した。詳細はここでは割愛する。

スキャンダルによる炎上は小山田圭吾本人のみならず、擁護的な言動をとった他のメンバーにも飛び火した。それに加え、中心メンバーの高橋幸宏の体調が芳しくなかったこともあり、N君が行く予定だったライブは中止、フジロックも正規メンバー6人のうち2人のみで出演する運びとなった。僕はフジロックにこそ行ったものの、やはりメンバーの揃った最善の状態が良かったので、観には行かなかった。

3. 2ndアルバム『METAATEM』

ただ、前向きな話もあった。
N君が行く予定だった7月のライブの日、実はMETAFIVEの面々は予定通り会場に集まり、無観客・非公開でライブ収録していた。そしてその映像のストリーミング配信が決まったのだ。
しかもその配信チケットには、発売中止が発表されていた2ndアルバム『METAATEM』のCDもしくはレコードが付属することになっていた。つまりチケットを買った人だけが、新譜を聴くことができるというわけだ。

僕はN君と共にレコード付きの配信チケットを買い、各々でライブ映像を観た。収録当時、小山田圭吾氏の炎上は既に起こっていたはずだが、それでも彼はファンの前でライブを(画面越しではあるが)してくれた。最後に披露された『環境と心理』で初めて彼がメインボーカルを取った時には、グッときた。

そして2021年の年末、『METAATEM』のレコードが届いた。僕は年明けの間何度もこのアルバムを聴いた。

個人的に気に入ったのは、4曲目の『Ain't No Fun』。冒頭でLEO今井が「ワカチコワカチコ」と繰り返すのは、高橋幸宏が元々組んでいたバンド、サディスティックミカバンドの楽曲『Wa-Kah! Chico』のセルフオマージュだろう。

アルバムの出来は素晴らしかった。ライブを観たファン以外にも、届いてほしいと思った。

4. また会えるまで

ただ、アルバムの曲目が少し気になった。最後の曲のタイトルが『See You Again』だったからだ。歌詞もなんだか意味深な感じだった。

街をくぐり抜けて
運命を飛び越えて
蓮の花に乗って
またね またね その流れで

METAFIVE『See You Again』(2021)

ライブを観れると思っていた数ヶ月前から、状況は大きく変わっていた。遠くない未来、別れが来てしまうということなのか。

それから少しして、2022年。
幻に終わりそうだったこの2ndアルバムも、ついに9月に正式リリースされることが発表された。

しかしそれは悲しい知らせでもあった。発表では、これが「ラストアルバム」だと表記されていたからだ。僕がこのアルバムを手にした時点では、そんな表記は無かったはずだ。それに、フジロックで出演した時の4人編成で、TESTSETという新たなバンドが始動することも発表されていた。METAFIVEは、もうやらないのだろうか。

そしてこの年の9月18日、高橋幸宏さんの活動50周年ライブが行われた。しかしこのイベントに、幸宏さん本人は出演しなかった。もちろん元々は出演予定だったのだが、結果的には幸宏さんとゆかりのあるアーティストのみでの演奏が行われた。体調面がやはり厳しく、参加できないようだった。

そして2023年1月、彼が亡くなったことが報じられた。

僕は彼の活動を全て追えているわけではないし、生粋の大ファンと名乗れるほどの人間ではない。しかし、僕はミカバンドやYMO、METAFIVEでの彼のドラムサウンドに、何度も魅力されてきた。彼にしか、彼のドラムプレイにしか無い格好良さがあった。間違いなく日本の音楽界を変えた一人だったと思う。

もう2年近く前にはなるが、改めて哀悼の意を述べたいと思う。どうぞ安らかに。また会えるまで。

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