大学進学をためらっている高校生へー就職と進学を「併願」できる数少ない方法ー
はじめに
文部科学省「令和2年度学校基本調査(確定値)の公表について」(2020 年12月)によると、2020年度の大学進学者数は2,623,572人、大学進学率は54.4%である(注1)。この数値は、統計を取り始めた1948年以来過去最高である。大学進学率は、近年毎年過去最高値を更新してきたが、コロナ禍の影響により、学費の捻出が難しそうな家庭の事情を察し、自ら諦める高校生がいるという声を、高校の教員等から聞くようになった。
高校生の中には、保護者から進学を諦めてほしいと告げられ、泣く泣く進路変更を余儀なくされる(された)人もいるかもしれない。これまで大学進学を目指して努力してきたことは何だったのかという、何ともやりきれない思いを抱き、受験する友人たちがやけに眩しく見えることもあるのではないだろうか。
遡ること約30年。私もそのような高校生の一人であった。高校2年生のある時、家庭の事情により、大学進学を諦めてほしいと親から切り出された経験をした。その時の絶望感は筆舌に尽くしがたい。実に惨めで悔しくて、同時に怒りも湧き上がってきたあの頃の感情は、数十年経った今でも忘れることはない。
ところで、高校卒業時の進路として、大学進学と就職を「併願」することはほぼ不可能である。私自身は、高校の担任の先生に、家庭の事情で大学進学と就職を併願したいと言ったところ、「それはできない」と告げられたことで初めて知った(詳しくは後述)。
当時、ショックというよりは、絶対に併願できる方法を見つけてみせるという思いの方が強く、とにかく毎日進路指導室に通い、進路関係の本や資料を片っ端から見た。その結果、大学受験と就職を併願できる方法を探し当てたのである。
なお、この方法について、2020年秋、母校(高校)に公務で訪問をさせていただいた際、進路指導の先生にお伝えしたところ、「その方法は知らなかった。聞けてよかった。でも(知らなくて)悔しい」とおっしゃっていた。その方法は、高校の進路指導の先生方にも広く知られていない情報のようなので、ひとりで悩み、苦しんでいる高校生にぜひ届けたいと思って書くことにした。
注1:大学のうち、学部への進学率を指す。
私に課せられた大学進学の5つの要件
高校2年生の秋、大学進学を諦めてほしいと言われ納得がいかなかった私は、どのような条件なら大学等の進学が許されるかを親に確認した。その条件とは、
・国公立大学
・現役(浪人厳禁)
・自宅から通学可(一人暮らし不可)
・私立大学の受験は一切不可
・奨学金は絶対に借りてはダメ
を満たすものであった。
兄弟が多くかつ長子だったこともあって、元々親からは上記のうち、「国公立大学・自宅から通えるところ・現役」という3つの条件を満たすことを言い渡されていた。その3条件も自分にとっては厳しかったが、大学進学自体は許されていたため、高校入学時より自分なりに勉強の時間を確保し、覚悟をして高校生活を送っていた。それなのに、まさか大学進学をすること自体を否定されるとは、夢にも思っていなかったのである。
その日以来、その条件に合致する進学先や受験方法を徹底的に探った。当時(1990年代前半)は今とは違い、インターネットが手軽に使える時代ではなく、高校生が卒業後の進路の情報を得るのは、高校の先生や高校生向けの進路情報誌が頼みの綱である。そこで、来る日も来る日も進路指導室に通い、進路に関する資料を隅から隅まで徹底的に見たのである。
探し当てた数少ない希望➀ー国立大学は最大4回受験可能ー
執拗に高校卒業時の進路について調べまくった結果、私にとって「希望」となる方法を2つ見つけた。一つは国公立大学へ何があっても進学すること、もう一つは就職して進学もする、つまり不可能と言われている就職と進学を「併願」することである。前者はこの記事の主題ではないが、結果的に自分が選択した方法でもあるので、紹介しておく。
私の場合、唯一許されていたのが国公立大学への進学だったため、国公立大学は最大何回チャンスがあるかを調べた。一般的には2回(当時は前期・後期、A日程・B日程の組み合わせ)、うまくいけば3回(前期・後期とC日程)である。C日程をやっている大学は少なく、進学したい(できる)学部等があるとも限らない。2回では厳しいと思い、1回でもチャンスが増やせないか、とにかく情報誌をめくっていった。すると、一部の国公立大学に「推薦入試」があることを「発見」したのである。
つまり、➀推薦入試、➁前期日程(またはA日程)、➂後期日程(またはB日程)、➃C日程 と最大4回受験できる。当時のセンター試験の受験料は13,000円、推薦や2次試験は1回当たり14,000円だったため、まず一番早い➀を受け、センター試験に申し込む許可を得た。計27,000円は支出してくれる約束を取り付けた(もしだめだったら、バイト代で賄おうと思っていた)。
4回チャンスがあることを知って、かなり安心することができた。ただし、高2の時に見つけた推薦入試がある大学(A大学とする)は、自宅から通うのに片道3時間くらいかかり、自分の学力を考えても難しかった。その時自分にできることは、とにかく学校の勉強(定期試験)をちゃんとやることだった。一般受験を考えている高校生はここを疎かにしがちだが、どんなチャンスが巡ってくるか分からないため、絶対に手を抜かないでほしい(注2)。
だが、残念なことに、A大学には、その年度自分が進学したい学科(コース)に推薦入試がないことが判明。1回チャンスがなくなったと失望していたが、高3の2学期始めに別の国公立大学(B大学とする)に公募推薦(今でいう総合選抜型入試(旧AO入試)のようなもの)があることを知り、条件を調べたところ、何とかクリア。晴れてB大学の公募推薦を受験できたのである(幸運にも合格し、進学)。
注2:中高の教員時代、特に高校生には口を酸っぱくしてこのことを伝えてきた。その結果、高3の夏に突然進路変更しても、評定平均が良かったことで、出願締め切りが近づいた時期に気づいて受験できたケースが多々あった。
探し当てた数少ない希望➁―就職と進学を「併願」する
高校生の就職協定(民間企業)の関係で、内定が出る時期に鑑みると、大学受験との併願は不可能である。その理由は、高校生の就職の場合、学校の推薦で1社毎受けるため、内定をもらったらその企業に就職しなければならないからである。ある企業に内定をいただき、大学に合格したから内定を取り消したいということはできない。
高3の1学期に担任の先生と面談した際、家が厳しく国公立大学しか受験できないので就職と併願したいと伝えたら、「それは絶対にできない。おまえは進学すると思っていたが、どうしても就職試験を受けるなら、2学期の最初までにどちらかに決めろ」と言い渡された。もう、正直どうしていいか分からなかった。
・目指す職業がはっきりしていて、大学を出ることが必要だから進学したいのに・・・。
・勉強だけでなく部活も頑張り、資格などもあるのに(いわゆる内申がよかった)・・・。
・私大なら指定校推薦取れる成績だったのに・・・。
自分が頑張っていることが無意味にされそうで、本当に悔しくてたまらなかった。普通ならここで諦めると思うが、持ち前の諦めが悪い性格からか、絶対にここで泣き寝入りはしたくなかった。
高3の夏休みに補講があり(公立なので無料)、それに日々通い、帰りに進路指導室に足しげく通い、とにかく調べる日々。そこでとうとう見つけたのが、就職して大学にも行ける方法である。具体的には、
大学の職員になると同時にその大学の学生になる
という方法である。その大学の正規職員(ただし、在学期間である4年間)になり、昼間は職員として勤務し、夜間の授業を受けるという制度である。授業料は免除(1990年代前半当時は全額免除。現在は半額免除)。つまり、学費は自分で賄うことができ、かつ生活費も稼げるのである。
なお、当時自分が調べあてられたのは、東洋大学のみだった。なお、東洋大学は今でも同等の制度がある。10名程度しか採用されないが(2021年実績は8名)、評定平均が4.3以上の者に受験資格があるので、該当する方はぜひ検討することをお薦めしたい。
東洋大学「独立自活」支援推薦入試https://www.toyo.ac.jp/nyushi/undergraduate/evening/self-support/
たとえ家庭の事情が厳しくても、諦めない
以上、私の個人的な体験に基づき、大学進学と就職を併願できる数少ない方法を述べた。大学の職員になることができ、自分で学費を稼ぎながら自立して学べる制度があるのは、家庭の事情等で進学を諦めようとしている高校生にとって一縷の希望である。東洋大学の制度はとくに優れていると思うが、他にも高校の成績や入試の点数等によって学費が免除(全額または一部)になる制度、仕事をしながらでも授業等が取りやすく学びやすい制度がある大学もある。また、就職することが前提で進学を諦められない場合は、公務員試験と夜間や通信制の大学の両方を受験し、日中は公務員、夜または休日は、夜間または通信制の大学生として、就職と進学を両立する方法もある。進学したい大学や分野に、どんな制度があるかを根気よく調べることが大事である。
私が上記に紹介した方法を見つけられた最大の要因は、「諦めない」ことだったと思う。私の場合、東洋大学の制度に強く惹かれていたが、高3の2学期時点でB大学が第一志望となり、東洋大学はB大学同様推薦入試のため「併願」できないことから、無謀にも国公立大学を4回受けることを選択した。
家庭の事情で親に大学進学を反対されたり自らためらっている高校生が、高校の先生をはじめ、周りの大人が教えてくれないなどと悲観することはない。私の拙い経験から伝えたように、大人だってなんでも知っているわけではないのだから。信念を持って、自分がやり遂げたいという思いがあって行動すれば、道が拓かれることが多い。大人からの「制限」に屈せず、学びたいという思いを貫くことで、必要な情報は届くはずであろう。
最後に、本記事に目を通してくださった「大人」の皆さんへ。一人でも多くの高校生に、自立しながら大学で学べる方法があることを届けたいと考えています。何からのかたちで届けていただければ、こんなに嬉しいことはありません。