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夜走る
※主張とかではなく、読み物として書きました
突然、走ってみることにした。
入念に準備体操をし、「イケるかも」と思い大きくジャンプしたら攣りそうになったから慢心だった。
いつもは走ったことがない道を行こうと思い、通学中に横目に過ぎ去るわかれ道を選んだ。
新鮮な景色で走るのが楽しい。緩やかな坂道を登っていることにも気づかなかった。
しばらく進むと、神社らしき階段と坂があった。神社特有の、不思議なくらい急な上り坂には一瞬辟易したが、若者らしく駆け上ってみた。
登ったところの開けた場所は暗くて静かだった。
神聖で、厳かな雰囲気があった。夏夜の神社はそれだけで、お化けや怪物などの怪談話を想像してしまうが、そんな自分の考えすらも汚く淀んだものもように思えた。
しばらく走ると、住宅街の中に新しい舗道があった。平らで、左右には並木があり、綺麗なレンガ調の道はずっと続いていた。
暗いため、終わりが見えない。吸い込まれるように思いっきり走ってみたくなった。
途端、徐々に加速し自分の体は2年ぶりの全力走をしていた。
全力で走ると、左右の景色は流れ視野は一点に集まる。
途中で息をしていないことに気づき、膝をついて呼吸をした。息が上がっている。10歩歩いて、再び全力で走った。夜風が体に当たり爽やかだった。何人かの通行人と犬とすれ違ったが気にならなかった。ハムストリングが限界を迎える感覚があったがそれでも走った。蝉の断末魔が後ろで聞こえたがすぐに聞こえなくなった。
しばらく全力で走り、行き止まりの壁に当たったので息を切らして再びもとの道を全力で走った。
自分の生命を使い、視界を前に前に進めた記憶は走馬灯に似ていると思った。
舗道を抜けたところに出た。息は切れ、喉に血の味がして、心臓の近くが痛んだ。もう全力では走れなかった。
今日はダッシュがしたかった日だったと思い込み、家に帰ることにした。
家の近くのピザ屋の前を通ると油が焼けたいい匂いがした。外国人とすれ違ったが、夜道で困憊の形相をしている日本人は怖かったかもしれない。
家に入る直前に雨が降り始めた。トツトツ、と自分のランニングと日ごろの行いを祝福しているようだった。