「一億人に使われるウォレット」より「100社に導入されるウォレット」(ウォレット事業戦略について)
加熱するウォレット開発合戦
各社によるウォレット市場への参入は加熱する一方だ。
中でも大企業は「マスアダプションを目指したウォレット」を掲げて、スタートアップは「AAウォレット」を開発する傾向にある。
しかし未だ成功事例はない。今後も道のりは険しいことだろう。
「一億人に使われるウォレット」(Product)の見通しの厳しさ
共通して言えるのはMetaMaskに真正面から挑もうとしていることだ。すなわち、toCのシェアを狙っている。
もしも僕がウォレット事業をリードする立場なら、toC市場は見ない。
代わりに、「MPCウォレット」というニッチな法人需要を確実に抑えにいく。例えば「一億人に使われるウォレット」(Product)は具体的な姿を思い描くことが困難だ。その答えが見えている人間もいない。web3の申し子のような天才でさえ。
「100社に導入されるウォレット」(Solution)
一方「100社に導入されるウォレット」(Solution)は解決すべき課題が明確で、明日にでも要件定義に着手出来る。
たとえ天才ではなくても、一定の能力があるweb3のPdMやリードエンジニアなら設計することができる。
国内大企業とウォレット戦略
日本人としてSBIやDocomoのウォレット戦略は心から応援しているが、逆に言うと彼等に匹敵するリソースがないと土俵にも上がれないような激戦区だ。少なくともスタートアップが単独で戦うフィールドではない。スタートアップとして最高峰のチームを組成した上で、エンタープライズとの緊密なアライアンスを得て初めて参戦する資格が得られる。
もっというとエンタープライズ複数社と資本業務提携を結ぶことが望ましい。
日本人としてSBIやDocomoのウォレット戦略は心から応援しているが、逆に言うと彼等に匹敵するリソースがないと土俵にも上がれないような激戦区だ。
少なくともスタートアップが単独で戦うフィールドではない。
スタートアップとして最高峰のチームを組成した上で、エンタープライズとの緊密なアライアンスを得て初めて参戦する資格が得られる。
(もっというと「複数」のエンタープライズと「資本業務提携」を締結することが望ましい)
MPCウォレットとMultiSigウォレット
勘の良い方は「MPCではなくMultiSigでも良いのでは?」と思われることだろう。
確かにMPCに対してMultiSigはHOW(=技術的アプローチ)は異なるだけでWHY(=解決課題)の大部分が重複する関係性にある。
ではなぜMPCを推すかというと、MultiSigはもう席が空いていないというだけの話だ。
日本国内というローカルマーケットに限ってもNSuiteが既にシェアを伸ばしている。
djt社の提携先や資本関係を見れば一目瞭然だが、彼等は主要な商流を抑え切っている。将棋で喩えるなら17手詰めで、既に趨勢は決している。商流を抑えるとはそういうことだ。
すなわち後発企業がNSuiteからシェアを奪うのは至難であろう。
ましてグローバルマーケットは本家GnosisSafeはじめ、技術力・資本力共にTop-tierなプレイヤーがひしめき合っている。
つまりMultiSigは典型的なレッドオーシャンなのだ。
一方MPCはFireblocks以外の有力な選択肢が未だ存在しない。
例えば、Fireblocksの下位互換だとしてもプライシングだけで一定のシェアは獲得する余地があるだろう。
MPCの開発には極めて高度な暗号学の素養が必要であり、技術的難易度は高いものの、他のルートを進むよりは易しい道のりに見えてこないだろうか?