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さよならは冬の青空のなかに。

先週の金曜日、父方の祖母が亡くなった。97歳だった。
幼い頃に会った祖母の印象は「気難しくて気安く話しかけられない」だった。それくらい厳しい人だったので、正直あまり楽しい思い出があった訳でもなく、近年は飛行機でしか行けない場所に住んでいたこともあり、結局生涯で5回くらいしか会わなかった。

しかし、時折届けられる近況はもはや"季節の便り"のように当たり前となっていたし、このまま100歳を超えても生きるような気すらしていたので、突然の知らせに一瞬口ごもってしまった。

祖母との記憶で唯一いつまでも忘れられないことがある。それは祖母の髪の毛のことだ。美しく銀色に輝く髪。祖母のことを思い出すと真っ先に思い浮かぶ。
最期に会った時、「隔世遺伝で自分もこんな風になれたらいいなあ」。そう思わず感じるくらいに祖母の髪の毛は美しかった。今から何年も前の出来事だ。訃報を聞いてやはり思い出したこともやはり祖母の髪の毛のことだった。

晩年は自らの息子達のことも分からなくなっていたそうなので、孫の自分なんてもっと分からなかったはずだ。
けれど、いざいなくなってしまうとやはり寂しい。
祖母が生きているということ。それが無意識のうちに自分にとっての支えになっていたのかもしれない。そんな風に思う。

"自分はいつまで生きられるだろうか?"
"自分はいつまで正気でいられるだろうか?"
"自分が死んだ時、誰が自分の死を悲しむのだろうか?"
祖母の死をきっかけとして、ここ数日はそんなことばかり考えている。

祖母が荼毘に付された同時刻、目の前に広がっていたのは真っ青に澄み切った冬の青空だった。まるで祖母の髪の毛のように美しい空。あまりに美しい青空を見ていたら少し寂しい気持ちになった。
けれど、その青空に祖母がいるような気がしたので、「また会おうね」とつぶやいた。冬はもうすぐ終わる。そして春がまたやって来る。

当たり前のようだった"季節の便り"が届くことはもう二度とない。

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