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2021京都サンガF.C.シーズンレビュー~破壊と創造のサッカー~

HUNT3

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 今季の京都を総括しようとするとき、シーズン前に曺貴裁監督がパネルを無愛想に掲げて出してきた「HUNT3」というキャッチフレーズは避けては通れない。4つのフレーズの頭文字を繋ぎ合わせたようなフリをしているが、その本質は「HUNT」という英単語そのものに他ならない。Hunt=狩る。あるいは追い求める。相手ボールを狩ることこそが今季の京都のゲームプランの中心にあった。ボールを狩り獲ることは、すなわち相手の戦術を「阻む」ことであった。

秩序立ったサッカー

 J1ほど個人能力で解決できる選手を用意できないJ2では、それを集団戦術で補う傾向が年々強まっている。たとえば、今季の序盤のJ2をリードした新潟。アルベルト監督が率いたチームは、ざっくりと言えばボールを握り、自陣敵陣問わずボールを巧みに動かすことで相手にエラーを起こしやすい状態にし、ズレや穴を見つければ瞬時にスピードアップする。いわゆるミス待ちのサッカーではなく、意図的に相手のミスやズレを誘導する仕掛け=戦術を持っていた。

 そんな秩序立った理論を備える新潟に対して、守備的にレーンを封鎖して穴を作らないという我慢の方策で対抗したチームも現れる(=第13節・松本/0-0)。極端な話、失点もしないが、得点もできない。これはボールを動かす秩序に対処療法的な秩序を当てて打ち消した例だが、そうした秩序を真っ向から破壊しようとしたのが、曺貴裁京都だった。

破壊するサッカー

 サッカーはボールを動かして陣地を進めるゲームであると同時に、相手の思い通りにボールを進ませることを阻止するゲームでもある。この「阻止」の部分に、今季の京都は強烈なエネルギーを費やした。

 首位新潟と対戦したのは第15節。当時首位(新潟・33pt)vs3位(京都・32pt)。京都はピッチ全面でプレスを浴びせたが、とりわけ最終ラインの千葉和彦には厳しい圧力をかけ続け、新潟のポゼッション戦術の生命線を破壊した。

 例として新潟を挙げたが、京都はどんなチーム、どんな戦術であろうと球際に素早く寄せて相手が判断する時間と場所を奪おうと試みた。相手のチャンスクリエイトの何手か前で破壊してしまうサッカーだ。そして相手の秩序を破壊した瞬間にこそ、京都が次の一手を打つチャンスがあった。

創造するサッカー?

 局面を破壊し、守→攻を切り替えた時、少なからず混乱が起きる。切り替えのスピードが速ければ速いほど混乱度は増すし、攻めに転じる人数が多ければ多いほどピッチ上にカオスが起こせる。カオスに乗じてゴールまでの活路を創造しようとしたのが、今季京都の攻撃の基本線だった。

 守→攻を切り替えてから一気にゴール攻め落とした例としては、(以前にも挙げたが)第9節東京V戦の1点目がわかりやすい。

 中盤でボール奪ったウタカよりも前に川﨑颯太がいる段階でポジションは縛られておらず、これが相手の混乱を増幅させる一手に。ウタカの背後から外へとレーンを変えるように上がっていた武田将平、中に動き直したウタカのあたりはもちろん個人能力の高さもあるが、「相手を混乱させた上で、ボールを速く動かして崩す道筋」が明快だった。

 奪った瞬間からポジションに縛られないまま各自最適ルートを選択し、前線に人数をかけ、一気にカオスの局面を作り出してチャンスを創造したシーンは今季数多くあった。一時的にポジションを崩していても、同じレーン並ばないような暗黙の秩序も共有できていた。ただし、こうしたチャンスからゴールを決め切った場面は思ったよりも少ない。松田天馬と宮吉拓実のコンビネーションなどは伸びしろを予感させるものだったが、最後まで未完成だった。

31節栃木戦の2点目は典型的な破壊からの創造。松田と宮吉のコンビネーションはもっと伸びそう。

対策されゆくサッカー

 上位に立ったことで、当然ながら相手からの対策も進んだ。「破壊」に対しては、表裏一体として起こる「バイスの裏」が恰好のターゲットに。サイドまで潰しに出てくるヨルディバイスが空けたスペースにすかさずボールを送り込むというごく単純な作戦だ。バイスだけでなく、麻田将吾や武田もボールサイドに突っ込んで裏を取られたりしたが。このパターンで落とした勝ち点も多い。

 京都の攻撃面=切り替えからの「カオス/創造」に対しては、各チーム切り替えの速さを警戒するようになり、シーズン後半にさしかかると「降格枠4」という現実も加味され、後ろに人を置いてセーフティに構えるチームが増えていった。終盤になるほど「混乱の中を複数人数が絡んで崩す」シーンと「それに伴う武田のアシスト」が激減したのは相手のスタンスと無関係ではない。

 ただ、相手に対策を講じられても、強引な形でも勝ち点3を奪ったり、最悪勝ち点1を死守できたのは「90分サボらず走りきる」「気持ちの面で絶対に相手に遅れを取らない」というブレないメンタルベースがあったから。たった一度だけ、この両方ともが伴わなかったのが第28節甲府戦(0-3●)の完敗。さらに中2日で戦った松本との延期試合(2-2△)のところは今季最大の危機だった。だからこそ、そのあと中3日で迎えた29節琉球戦(○2-1)の劇的勝利の価値ははかりしれない。

絶体絶命の淵から蘇った29節琉球戦の勝ち点3がなければ、昇格はなかった可能性も。

例外になったサッカー

 相手ボールをHuntする(狩る)ことがゲームプランの中心になった今季の京都だったが、相手の回避能力が高く、そもそも論としてボールを上手くHuntしきれない相手には苦戦を強いられた。具体的には磐田と長崎。磐田には個の判断能力で優位を取られ、長崎には個の能力+チーム戦術のレベルで球際=争点をズラされるような格好に。特に長崎にはホーム、アウェイともに攻撃意識の高さを逆手に取られるパターンで苦杯を舐めた。

32節長崎戦の2失点目はバイスが攻撃参加で不在→武田のカバーミスが連続。

 このことは、J2ならばどうにかなっていたことがJ1だと通用しなくなる可能性を示唆している。J2では例外だったような相手が、スタンダードになってくるのだ。

絶対的なサッカー?相対的なサッカー?

 J2でも年々、相手チームの力量や布陣、ストロングポイントに応じて人数を合わせたり(逆にズラしたり)、それを利用しようとする相対的なサッカーが主流になってきている。どんな相手でも同じ布陣、同じ戦術で貫徹する「絶対的なサッカー」は今や少数派。今季J2なら秋田がそうだっただろうか。

 京都はスタートの布陣はずっと同じで、ゲームの入り方も基本的に同じだったので一見、絶対的なサッカーに見える。ただ、ゲームの途中から中盤の底を2枚にしたり、前線の人数や組合せを変えることもしばしば。ベンチからの指示と思わしきこともあれば、選手の判断の場合もあったはずだ。

 今季の京都は、絶対的に揺るがない「型」は持っているが、相手の出方によっては陣形も戦い方もシフトできる柔軟性も持ち合わせていた。局面的な相対的優位(たとえば4枚で守る相手に対して5枚で間を衝く等)は個々で意識して流動していたフシがある。ウタカは必ずしも中央にいないが、代わりに宮吉なり武富孝介なり誰かがいた。ポジションに縛られるのではなく、機を見てブレイクするのは日常茶飯事。スペースが空けば味方がちゃんとカバーリングする(→時々間に合わなくて事故を起こす)。「決まり事」と「臨機応変」の掛け合わせは、まだまだ成長出来る余地があると見ている。

39節秋田戦の2点目は、秋田がボールサイドに片寄ることを観察した上でウタカが逆サイド大外に張っていた。まぁ一連の個人技もスゴいが。

曺貴裁サッカー2021を戦ったメンバー

 最後に今季のメンバーについて。出場時間とともに書きだしてみるとわかりやすい。

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 チームで唯一出場時間が3600分(=90分換算40試合)を超えたのがバイスで、2700分超え(=30試合換算)が8人いる。1800分超え(=20試合換算)が宮吉と福岡慎平で、これで合計11人。+900分超え(=10試合換算)は三沢直人、白井康介、本多勇喜の3人。第2GKの清水圭介を加えて、ここまでが主力だったと考える。

 中でも面白いのが三沢の存在。前述の通り、今季は相手に合わせて布陣を変えることはなかったが、実は相手に合わせて「三沢に変える」ことがあった。特にフィジカルや空中戦のバトルが予想される相手には前線or中盤に配置する三沢が貴重だった。ボールをHuntするのは何も足元だけではない。空中で「狩る」時には、武田と三沢しか有効な駒がなかったのだ。

 一方で一目瞭然なのが、右のFWの苦労ぶり。宮吉を含めて怪我も多く、主力がなかなか固定できず。左のFWについては武田を中盤に固定できて松田が前で使えるようになったのは大きかった。意外だったのはCBのところ。本多も怪我をして決して層が厚くなかったところに麻田が台頭し、最終盤にバイスの離脱を長井一真が埋めるなど、若手が急成長。ただし、J1で戦うとなるとFW(左右だけでなく中央も含む)と最終ラインは特にしっかりと整える必要がある。

今季MVPは…

 今季の京都は「誰が出ても同じサッカーができる」ようなチームではなく、人によってできるプレーできないプレーがあることを踏まえた上で推進力が発揮しやすい組合せを模索した。そこにウタカがいた。ウタカがある意味「何でもできる」オールマイティな手札だったので、比較的スムーズにチームビルディングは進んだのではなかろうか。今季MVPは誰か?と聞かれたならば、「ピーターウタカだ」と言っておけば間違いない

 でもみんながMVPはウタカだと言うのなら、違うことを言ってみたいお年頃。本稿が「相手ボールを狩ることこそが今季の京都のゲームプランの中心」というところから出発しているのだから、そういう選手こそふさわしい。相手の秩序を前で後ろで「破壊」しまくって、カオスの中で数多くのチャンスを「創造」した選手。そしてこの駒がピタッとハマったからこそ全体の布陣も固まって、連勝と負けなしが始まった。そう…

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今季の個人的にMVPは武田将平選手!

監督・コーチ・選手・スタッフのみなさん、1年間楽しくてエキサイティングで、ハラハラドキドキなサッカーを見せてくれてありがとう。J1?もうJ2に慣れすぎてまだ実感ないですね…。



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