J2視覚化計画2023〈第19節〉
◎今節のアナリスト◎荘家久 まどか
早いもので、街角に咲くあじさいの花がいつもの通り道を彩る季節になりました。漢字では「紫陽花」と書きますが、根を張る土が酸性ならば花はサンフレッチェ色に寄り、アルカリ性ならばサンガ色に寄るそうです。藤枝MYFCは、紫ではなく藤色ですね。
さて、Jリーグは毎年5月25日前後に クラブ経営情報 の先行発表を行っています。この発表によって前年度、つまり昨シーズンの各クラブ別の売上高や収入、人件費等が明らかになり、私たちは「昨シーズンの答え合わせ」ができるのです。
今回は「トップチーム人件費(以下、人件費)」に絞って答え合わせをしていきますね。
プロスポーツですから、いい選手を揃えるほど、それから有名な監督やコーチを雇うほどにお金がかかります。かんたんに言えば、人件費が多いチーム=戦力が大きい、という構図になります。ですから、最も客観的に戦力を可視化できるのがこのクラブ経営情報内の人件費の数字なのです。
リーグが発表した上記の表がわかりやすいですね。昨シーズン(2022年度)のJ2では、最も大きな“戦力”を持っていたのが横浜FC、最少がブラウブリッツ秋田だったことがわかります。
緑色でハイライトした数字が、自動昇格を果たしたクラブの人件費です。
おおむね8億~10億くらいの“戦力”があれば、自動昇格を狙える陣容だということがわかりますね。
もちろん、昇格クラブよりも多く人件費を費やしたものの、涙をのんだクラブもたくさんあります。プロですからもちろんお金が重要なのですが、お金だけがすべてではないのが、特に下位カテゴリーの面白いところだと思います。
昨シーズンの人件費と勝点について、もう少し詳しく見てみましょう。
横軸が右に行けば行くほど人件費を多く使ったクラブです。つまり右にいるほど“戦力”が大きかったという答え合わせです。
縦軸は最終勝点です。
私の方でざっくりと人件費ごとにグループ分けしてみました。
・15億以上が1クラブ《→戦力:特大》
・10億~14億が4クラブ《→戦力:大》
・5億程~9億が8クラブ《→戦力:中》
・2億~4.5億が9クラブ《→戦力:小》 でした。
こうして表にしてみると、人件費をかければそれに見合った勝点が取れるとは必ずしも言えないことがわかるかと思います。
一方で、それ相応の人件費をかけなければ、自動昇格にひっかかるくらいの勝点には到達できない、とも言えるかもしれません。アルビレックス新潟のコストパフォーマンスは驚異的ですが。
そしてJ2にはプレーオフというレギュレーションがあるので、《戦力:小》グループからでも昇格を目指せることをロアッソ熊本が証明しましたね。昨季の熊本は“快挙”のレベルだったと思います。ただ、現実的には6位以上をねらうには5億以上の“戦力”は必要なのだということも、ぼんやりと見えてきます。
繰り返しますが、人件費がたくさんあるからといって昇格できる訳でも、上位に行ける訳でもありません。
そして今回の「答え合わせ」でいちばん衝撃的だったのが、大宮アルディージャの人件費半減ではないでしょうか。一昨シーズン、昨シーズンまでは10億台を維持していましたが、昨季は蓋を開けてみるとほぼ半減の5億8000万。元々はJ2では屈指の富めるクラブで、J2降格年の2018年には約19億もの“戦力”を誇っていました。そこから順位は5位(2018)→3位(2019)→15位(2020)→16位(2021)→19位(2022)と推移。
私たちは前年度の人件費しか知り得ないので、「どうして?」と思ってしまいがちですが、実はここまで苦しい台所事情だったのですね。(しかしながらまだ中位くらいの財力はあるのですが…)
今節は水戸ホーリーホックとの下位対決でしたが、セットプレーからの手痛い失点もあり、1-2で落としてしまいました。クラブとしても「声明」を頻発するなど、かつてないほどの危機感を持っていると思いますが……「プレーオフ争いに加われる一桁順位を目標」と言わねばならないのは、苦しいところですね。
繰り返しになりますが、J2は必ずしもお金が結果に結び付くリーグではありません。ただ、リーグを観る上でのひとつの参考として、どれだけの人件費をかけているのかを知っておくのも、J2を楽しむひとつの手立てかなと思います。(しかし清水エスパルスの去年の人件費を見ると…卒倒してしまいますね)
大みやの どこもとどろに渋る波
分けてこぼして 裂けて散るかも (まどか)