雑感ノ門 ~前半戦終了。HUNT3してる?
フロンターレはなぜ強い?
「川崎フロンターレはなぜこんなに強いのか?」という疑問を抱きながら試合中継を見たことがあるだろうか。自分なりの結論としては、「まずは相手の出方を観察した上で、最適解をチューニングしながら能力を発揮しているからでは?」という見解に至ったことがある。相手の太刀筋を見極めた上で弱点を突いたり、相手の得意技の一段上の技を繰り出して心を折りながら最終的にはこてんぱんにやってしまう剣の達人…みたいな。
相手に合わせているというより、相手の力・戦術を理解した上で自分たちの力と相対させ「じゃあこのゲームはこういう戦い方で応戦するね。上回っていくからね」という感じ。相対的な基準を持つサッカーなのだが、その上で絶対能力値の差で制圧してしまう。相対的な強さと絶対的な強さを兼ね備えている。
相手関係なく「オレたちのサッカーはこれだー!個の能力だー!」と絶対的なサッカーだけでゴリ押したりしないから、フロンターレは現在国内最強なんじゃないか。そんなことを考えたのは去年のことである。
相対的サッカーへの開眼?
本稿は京都vs長崎について書くつもりだが、もうしばらく脱線する。前節の京都vs岡山の話である。キックオフ直後から岡山が予想外のハイプレス&ミドルプレスを浴びせかけ、京都に時間とスペースを与えないという展開となった。15分ばかり厳しいプレッシングに耐え続けた京都は、次第に前線へのロングボール、大きなサイドチェンジを繰り出してプレスを外すようになった。そして押し込まれながらも、相手の連携ミスを衝いてピーターウタカが先制ゴール。その後は岡山の運動量が落ちるのを待って「プレス勝負上等!」とばかりにハイインテンシティの渦に引きずり込んで、プレス、パス、ラン、ロングボール、ハイボール、ルーズボール…あらゆる局面で相手を上回る強い勝ち方をした。
それがちょうど川崎フロンターレが去年よく見せていた試合運びに似ている気がしたのだ。相手の出方を観察しながら、臨機応変に戦い方を調整しつつ、最終的には自分たちが有利な土俵に上げて押し切ってしまう。これは相対的な眼を持つサッカーへの開眼か?とうとうそういうチームになったのか!?と思っていたのだが…1週間前までは。
オレたちのサッカーを貫く
長崎戦はキックオフ直後から京都がガツガツとプレスをかけ、相手から時間と空間を奪い取り、HUNT3のHことハイインテンシティで相手を凌駕する展開に。オレたちの武器はこれだ!これがオレたちのサッカーだ!とばかりに。長崎は前節磐田戦で磐田のプレスに苦しんでいたのもあり、最もストロングな部分をぶつけていったのだと解釈するが、長崎も想定していたのか最初の20分を粘り強くしのいだ。
すると京都MF川﨑颯太が自陣深くでボールを即座にクリアせず生かそうとした一瞬の迷いから都倉賢にガッチリ保持されてしまい、そこから失点。その後、長崎はボールを動かして京都のプレスをいなしつつ体力を吸い取り、リスクをかけずに守備に軸足を置くことでボールサイドのバトルに専念できた。攻撃では手数をかけずに効率的なカウンターから能力も年俸も高いFW陣が京都陣地に侵入できるという展開に。
京都はオレたちのサッカーを貫こうとした結果、ちょうど岡山戦の裏返しのような形で相手のやりたい舞台で踊らされるような格好になってしまった。岡山戦で「ちょっとフロンターレみたいじゃん」と思ったのは、あれは嘘だ。即時の前言撤回である。
再び向き合うべき問題点
このゲームの2失点は、いずれもボールデッドにして相手にボールを渡すのを嫌い、ボールを生かそうとして相手に譲ったり、厳しい位置でGKにプレーを強いた結果のミスが起点だった。5節までで2敗した時の失点と同じような構図。このあたりの〈リスキー/セーフティー〉プレーの選択は一旦乗り越えていったはずだったが、小さな糸口こそチャンスの芽とする松田V・ファーレンはこうした綻びを逃さなかった。たぶんJ1チームも逃さないだろう。
むしろ問題は無失点に終わった攻撃面か。押し込んだ序盤はもちろん、その後もチャンスになりそうな場面はあったものの、シュートの一手前くらいで長崎守備陣に止められたり、気の焦りから連携にズレが生じたり。京都はピッチに混沌(カオス)の状況を作り出すことを得意とするが、長崎はそんな誘いにも乗ってこなかった。吉田監督時代はカイオセザールあたりが好き勝手に動いては誰も塞がずに大きな穴作っていたのに…。
「組織としてリスクを冒さない秩序型」に生まれ変わった長崎に先制点(さらには追加点まで)を与えてしまった時点で、得点できる可能性が低下するのは当然のこと。初っ端からラッシュをかけて得点を奪って、勢いに乗って崩し切るという当初の目論見が外れた時点で、秩序を崩さずリスクもかけず、集中を切らさない相手に対してどうやって一太刀浴びせるのか、次善の策は見いだせなかった。サブの選手が、交代で入って流れを変えられるほどの攻め手は、まだ確立できてない。
16~21節の総括
16節 Home △0-0vs甲府
17節 Away △0-0vs栃木
18節 Home △2-2vs群馬
19節 Away ○2-1vs金沢
20節 Home ○2-0vs岡山
21節 Home ●0-2vs長崎
前回(15節後)、「チーム全体としてもコンディション面がピークアウトして不調気味かも…」と書いた。案の定というか、その後得点力不足に陥って16節・17節がスコアレスドロー。18節群馬戦は下位相手に2-2と手痛いドローだったが、エース・ウタカの久々の得点もあってようやくチームの復調の兆しが見えた。19節金沢戦はトリックプレー等で「ウタカ以外でも点が取れる」ところを見せ、前節(20節)岡山戦は完勝に近い快勝。そして再び長崎を崩せずノーゴール。
チーム自体は復調の気配が感じられるものの、この期間は負傷やコンディション不良が出続けているようで、使える手駒は多くない。スタメンを脅かすサブが台頭してチーム力向上!というシナリオのはずが、甘かった。スタメンの中でもウタカや福岡慎平はコンディション不良を明かしているし、宮吉拓実も怪我の離脱があり、復帰早々の武富孝介は再び負傷した。他にも複数怪我人はいるのだろう。一方、この16節~21節の間に主力を脅かすほどの突き上げもなかった。天皇杯2回戦(vsFC今治)で李忠成と上月壮一郎が名乗りを挙げたと思ったのだが…。
印象としては、最初に字固めした地盤に軟弱箇所を見つけ、建屋の部材も想定通りにいかなかったため、一部基礎工事の見直しも必要となっているような状況だろうか。もう一度足元をしっかり固めるべきことに気づけたことはネガティブなことではない。と同時に、岡山戦で顕著だったような臨機応変さを選手たちが身につけつつあるのは「伸び代ですね ©KeisukeHONDA」。
全チームと一巡して…
フロンターレを引き合いに出すのはおこがましいが、相手がどんな出方で臨んでこようが正面から渡り合えるくらいの対応力と全方位型の基礎能力は備わっていると感じている。HUNT3のTことタフさはリーグ随一。全チームと一巡してみて、圧倒的な力差や戦術的劣勢を感じるチームはなかった。むしろ向き合うべきは自分たちのミスと、自分たちの力を最大限に発揮できないゲームがあったこと。
このチームの本質が、勇猛果敢に獲物をHUNTするということは誰もがわかっている。しかし長崎戦はそれが裏目に出た。ハイテンポはローテンポがあってこそ強調される訳で、勇猛果敢であるのならば、フロンターレがそうであるように、「しっかり相手を見る」という観察眼に磨きをかけたいところ。
もうひとつの課題は戦力構成。フィジカルへの負担が大きく、怪我も出やすいスタイルなのもあるのか、前線の駒はウタカ以外の稼働率が芳しくなく、依然センターバックは層は薄い。川﨑颯太、麻田将吾、若原智哉ら若手の成長著しいが、さらにのし上がってくる存在がほしいところ。HUNT3のNことニューボーンだ。もちろん、足りないところは補強というカードを使うのが手っ取り早いが、さてどうなりますか。
折り返し地点は過ぎたものの、今季はあと2節やってオリンピック中断期間なので、そこまではまだ前半戦が続く…というイメージ。中断前最後の23節がHome新潟戦。そこでひとつの集大成を、HUNT3のUこと究極の勝負を見せてほしい。
結論として前半戦を通じてそこそこHUNT3してたと思う。足りない部分は伸び代。
個人的な前半戦のMVP
まぁ、この人でしょう。
ピーターウタカ。正直、ここまで曺貴裁監督にフィットするとは思わんかったし、ここまで真面目にプレスに走るとは思わんかった。周囲が使えるスペースを生み出す能力も高い。プレッシングの役割は夏場モードでちょっと変えてる印象。去年とは違う意味で依存度高いが、だからこそスペアは欲しい。切実に。
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