共同親権×共同養育に必要な父母の心得とは
現在、民法改正で「共同親権」という言葉をニュースなどで耳にすることが多くなりました。また、現在調停中の方や離婚している方は「面会交流」という言葉の方がなじみがあるかもしれません。
離婚後共同親権が導入されると何がどのように変わっていくの?共同養育と面会交流は何が違うの?離婚しても父母で子育てをしなくてはいけないの?など、疑問や不安がおありな方も多いかと思いますので、ひとつずつ整理していきましょう。
1. 親権とはなにか
親権とは、未成年の子が一人前に社会人になるために養育する、親に認められた義務であり、権利です。そして、親は子の利益のために適切に親権を行使しなければならないとされています。
親権の内容は、財産管理権と身上監護権(しんじょうかんごけん)とに分けられています。
身上監護権とは、子を監護・教育する義務・権利をいいます(民法820条)。子に対して住む場所を指定できる居所指定権や、子に対して働くことを許可する職業許可権も含まれます。
財産管理権とは、子の財産を管理し、子の財産に関する法律行為について代理する義務・権利をいいます(民法824条)。
なお、親権がなくても親子関係が存在する事実に変わりはなく、子どもは、その利益に反する場合を除き、双方の親と継続的に関係をもち、直接接触する権利があります。(子どもの権利条約9条3項)。
2.離婚後共同親権制度の導入
現在、離婚後共同親権導入に向けて法改正の動きがあります。これまでは離婚をすると一方の親が親権を持つ単独親権でしたが、法改正が成立すると、婚姻中と同様に離婚後も双方が親権を持ち続ける共同親権を選択することも可能になります。離婚する際には、親権を双方が持つか一方が持つかを必ず決めなくてはなりません。
父母間で意向が異なる場合には、親子関係や父母の関係などの事情を考慮した上で、子どもの利益を害すると認められる時には、一方が親権者になることを裁判所が判断することになります。
また、親権を父母双方が持つ際に、一方を、子どもの身の回りのお世話をしたり教育方針や住む場所を決めたりする「監護者」に指定することができますが、強制ではありません。
ただ、一方を監護者に決める時には、もう一方の親は監護者のやり方を妨げないようにする必要があり、決めない場合は、監護方法はフェアでありお互いのやり方を尊重することになります。
なお、監護者を決めない=共同監護=物理的に日数を半々にして子どもが父母の家を行き来するような印象を持たれがちですが、これまでと同様に、メインで暮らす親(同居親)と離れて暮らす親(別居親)を決めることは問題ありません。
まとめると、離婚後共同親権導入された場合には、
①共同親権&監護者を決めない
②共同親権&監護者をどちらかに決める
③単独親権&監護者を決めない
④単独親権&監護者を他方に決める
という4つのパターンになります。
3.共同親権 or 単独親権の基準
さて、円満に離婚できる夫婦は問題ありませんが、離婚するほどの夫婦ですから親権でもめることも容易に想像できます。そんななか、今回の法改正で「婚姻関係の有無に関わらず、子どもの利益のために父母は互いに人格を尊重し協力しなければならない。」という文言が追加されます。
この「互いに尊重し協力する」を紐解いていくと、数多く高葛藤な父母に介入し支援しているなか、「この夫婦は共同親権でやっていけるだろうな」「ここは単独親権じゃないと難しいな」と明確にわかる基準があります。
無論、子どもへ危害を及ぼす場合は単独親権一択ではありますが、父母間の関係性という切り口では、あくまで個人的な見解ですが、「自分も悪かったという視点を持てるか」ということがポイントになるのではないかと考えます。
精神的なDVにより相手からの攻撃や支配から逃れるために別居や離婚を決意している方にとっては、「離婚後も共同親権だなんて論外」と危惧されているであろう心中をお察しします。
実際支援をしていても、「自分は悪くない。相手が悪い。社会の仕組みが悪い。」という論調で、他責思考であり続けている方も少なくありません。また、相手が歩み寄っているのにもかかわらず頑なに拒み続ける場合も、離婚後も尊重や協力は困難であることが容易に想像できるため、共同親権は困難だと推察します。
自ら内省し相手の立場を考えて「ごめんね」が言えるかどうか、子どもの喧嘩ではありませんが、これに尽きるわけです。裁判所がどのような基準で共同親権か単独親権かを判断するのかは見守るところではありますが、行き着くところ「親同士として争わない姿勢を保つことを継続的にできるか」が大事な判断基準なのではないでしょうか。
実際、支援をしているなかでも、子どもを連れて別居した同居親に対して、「なぜ家を出たのか」を振り返り歩み寄るスタンスを持ち続けた別居親はそれ以上関係が悪化せず子どもとの交流も拡充し、離婚はやむを得なかったとしても夫婦から父母の関係を再構築できている方もいます。
また、相手の歩み寄りによりわだかまりが解消し、子どもの養育を父母で行うことに前向きになれている同居親もいます。このような方々は、ぜひとも共同親権で父母で協力しながら子どもに関わり続けてほしいと願います。
相手の意向で単独親権になってしまうのではないか?と危惧するのであれば、共同親権でいられるように、共同で親権を行使しやすい相手に自分自身がなることに注力することをおすすめします。
さて、ここでひとつ勘違いしないでおきたいのが、親権を持っていないからといって親ではなくなるわけではないということ。
たとえ親権がなかったとしても子どもにとって親であることは変わらないので、単独親権だからといって養育費を払わなくていい、親子交流をしなくていい、ないしは親子交流をさせなくていいということではありません。親権の有無に関わらず親子であることは婚姻中同様になにひとつ変わらないのですね。
4.共同養育とは
共同養育の定義は「離婚後両親が子育てに関わること」であり、親権の有無とは関係ありません。先ほど説明した①②③④のどのケースにおいてでも、各ご家庭の状況によって関わる頻度や方法をカスタマイズしながら共同養育することはできるのです。
また、面会交流という言葉を聞いたことのある方もいるかと思います。面会交流とは、「子どもと別居親が交流すること」であり、交流方法や頻度を父母間で決められない場合には、裁判所で面会交流調停という方法で決めることもあります。最近では親子が会うことを「面会」という表現という表現が適さないことから「親子交流」と呼ばれるようになってきました。
面会交流は、共同養育と似た意味合いではありますが、共同養育の方がより広義の意味での子どもの養育への関わりを意味し、親子交流(面会交流)は共同養育のひとつの手段であり共同養育に内包されるような位置付けになります。
5.共同養育が適さないケース
「共同養育はできる人がすればいい」「相手がDV夫だから共同養育なんて絶対無理」「相手を子どもに関わらせたら危険」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。
さきほど共同親権は、「親子関係や父母の関係などの事情を考慮する上で子どもの利益を害するかどうか」が判断基準だとお伝えしましたが、共同養育においては、子どもに直接的な危害があった場合、父母の関係が悪化している場合に、共同養育をするかしないかはどのような判断をしていくのがよいのでしょうか。
まず、親から子どもへ暴力など直接的な危害があった場合には、親は適切な更生プログラムを受けるなどし時間をかけて更生することが必須です。
そのうえで、子どもの意向を尊重することを大前提とし、子どもが会ってもいいということであれば、親子交流支援を利用するなどして交流を少しずつ再開するのもひとつです。暴力をした親は二度と会ってはいけないということではなく、子どもに謝ったり改善された姿を見せたりする機会はあるに越したことはありません。
子どもは暴力をされたことで「自分が悪かったのではないか?親に愛されていないのではないか?」という思いから、親のことを憎んで生きていくことにもなりかねません。であれば、関わる機会を閉ざすのではなく、親が謝罪する場を設けることは子どもの利益になるとも考えられます。
次に、父母間の関係性が悪化していることが理由で共同養育をしないのは、本当に子どもの利益になるのでしょうか。もちろん直接関わることが困難な父母もいるでしょう。その際には、直接やりとりしたり顔を合わせなくても子どもが父母間を行き来できるに支援団体を利用するなどして、関わり続けられる環境をつくることが大事になります。
決して仲良く協力しなくてはいけないわけではなく、親子関係を途切らせないことに注力しできることからやっていけばよいのです。
自分が相手に酷いことをされたとしても子どもにとっては相手は親であることは変わりません。むしろ会わないでいると、最初は同居親の感情と同様に相手を憎む気持ちが養われるかもしれませんが、成長とともに同居親の感情に同調し続けることなく、「なぜもうひとりの親に会えないのだろう」「同居親の感情に振り回されたくない」「もうひとりの親はすごくいい人なのではないか?」と逆に神聖化してせっかく育ててきた子どもが謀反を起こし、相手側と一緒に暮らしたい!と言い出すなんてことも少なくありません。
自分にとっては二度と関わりたくない相手でも、そこは感情と切り分けて子どもと別居親が関わる環境と整えること、そして相手の悪口を子どもに伝えないことが大事になっていきます。
頭ではわかっても感情がついていかないこともありますが、感情を切り分けて行動する姿を子どもは必ず見てくれています。逆にいうと感情と切り分けずにいる親のことも子どもは冷静に見ているということです。
6.共同親権になると共同養育できるようになるの?
共同親権と共同養育は混同されがちですが、共同親権はあくまで親権を父母が持つことであり、共同養育は離婚後も父母が養育に関わること。親権制度がどうであれ共同養育は親の心得次第で実践できるのです。
共同親権が導入されると、離婚するとひとり親という固定観念が払拭され、ふたり親という価値観が社会に浸透するため、共同養育しやすくなるのは大きなメリットといえます。
共同養育を実践するのに大事なのは親同士が争わないこと。親権を持っていてもいなくても子どもの父母であることは変わらないのですから、権利を振りかざして対立することだけは避けなくてはなりません。
共同親権は法律という仕組みでありいわば「ハード」、共同養育は人の心「ハート」です。ハードは自分で変えることはできませんが、ハートは自分次第。
共同親権になっても自分自身が相手との協力体制を築けないのであれば円滑な共同養育を行うことはできません。法改正や相手の変容に期待する前に自分自身が共同養育しやすい相手になることを心がけることがなにより大切ですね。