「中島くん」として生きた話
ニコラス・ケイジです。
僕の名字はご存知の通り「鈴木」なのですが、今までの人生で一瞬だけ「中島くん」として生きたことがあります。
そんな高校時代のアルバイトの時の話をします。
よろしくぅー。
1.近所のおばちゃんにアルバイトに誘われる
まだ部活をやっていなくて家と学校を往復する日々を送っていましたが、近所のおばちゃんから相談を受けます。
ババア「きょうってアルバイトしてるの?」
鈴木亨「してないよ。部活もしてないから暇してる。」
バ「うちの工場でアルバイトの子が一人辞めて人が足らないの。うちでバイトしてくれない?」
涅マユリ「いいヨ」
ここでバイト先の情報をまとめると、
・バイト先は「スジャータ」という乳製品を扱う会社
・給料は日払い
・バイトの子が辞めた(飛んだ)がまだその事を上層部には伝えておらず、新たに面接等をすると人員の補充までに時間が掛かる為辞めた「中島くん」として働いて欲しい
ん?
最後のがちょっとおかしい。
中島くんがどんな子かは知らんけど、急に別人に入れ替わってたらバレるだろ。
あと「ナカジマくん」じゃなくて「ナカシマくん」なんですねぇ。
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僕の疑問に対しておばちゃんはこう答えた。
バ「現場の何人かはこのこと知ってるし、中島くんって割とすぐ辞めちゃったからあんまり色んな人と関わり無いから大丈夫!」
全然関係無いけど、その時のおばちゃんの歯がタバコのヤニで黄色くなってて、きったねえな口くさそうだなって思いながら聞いてました。
ホントに別人になっていけるもんなのか?
とモヤモヤが晴れる事はありませんでしたが、おばちゃんの歯の汚さに免じて中島くんとしてアルバイトをする事にしました。
2.中島になるために
ハイッ!今日からあなたは別人です!!
って言われて何人の人がその通りに振る舞えるのでしょうか。
ましてや鈴木亨(中島くん)は高校に入学したての童貞。
プロの中島になる為には準備が必要です。
①情報集め
中島くんになるのはいいが、そもそも中島くんのフルネームって何だ?
おばちゃんがコピーしてくれてた中島くんの履歴書に目を通します。
「中島 文人」
おいっ!フリガナの欄空欄じゃねぇかこいつっ!!
「ふみひと」なのか「ふみと」なのか「ジェファーソン」なのか分かんねえじゃねぇか!
履歴書なんだから空欄無く出せよだからお前は無断で飛んだりするんだよアホ!
しかも待てよ。
万が一中島くんとめっちゃ仲良い人がいて、もしその人が名前に由来しないあだ名とかで呼んだら反応できるのか?
無理無理絶対に無理。
あーバイトするの嫌になってきたー。
と問題は山積みでしたが、その時リビングのテレビに映っていた世界仰天ニュースが面白くていつの間にか考える事をやめてました。
②中島の印鑑買いに行く
働く
↓
タイムカード打刻
↓
印鑑押す
↓
守衛のおじさんに渡す
↓
おじさんがお金を計算して、支払い
という流れで給料を貰う為、中島の印鑑が必要になります。
今思い返すとバイトお願いしたいんなら印鑑くらい用意しとけよ山姥がって思いますが。
一応、念の為、母親に聞きます。
き「うちって中島の印鑑ってないよね?」
母親「ないよ。」
母親「でもお母さんの旧姓の岡村の印鑑ならあるわぁーハハハハ。」
なんかこの会話の感じすげえ母親だなって感じしますよね。
なんで俺はバイトする為に知らんやつの印鑑買ってんだよ。
そう文句を垂れながら100均で中島の印鑑を購入。
3.中島、潜入
準備も整い、迎えたバイト当日。
心臓がドキドキしすぎて肝臓になりそうになりがらバイト初日を迎えます。
ちなみに言い忘れましたが、このスジャータが鈴木亨(✕中島)の初めてのアルバイトでした。
緊張しながら歯が終わってる山姥から紹介されます。
「しばらくお休みしてたけど、今日から中島くん復帰するからよろしく!」
いや無理だろって思いながらも、この時の僕は僕のイメージする中島にふさわしい表情を作っていたと思います。
従業員たち「は〜い、よろしくー。」
イケマシタ。
中島よ、お前どんな生き方したらこんなにも人に関心を持たれない事になるんだよ。
でもいけたよありがとう。
ですが、
「〜〜くん、〜まくん、、、中島くん!!」
と、名前を呼ばれても反応できないことが多々ありました。
だって俺中島くんじゃないもん。
4.バイトの内容
この工場では色んな生産部門があって、それらを時間ごとにローテーションしていく働き方です。
ラインを流れてくる牛乳パックに破損が無いかをチェックする作業、通称「パック」
破損があればボタンを押してラインを停止し、取り除く。
よくSNSとかで中国の工場でおっさんが片手間に仕事しながらこんなんでも給料もらえてすげえみたいな動画あるじゃないですか。
まさにあれです。
僕も空中見つめながらこの作業やってました。
循環しながら高速で流れてくる鉄のちっちゃい箱にコーヒーミルクのポーションを2個入れる作業、通称「新幹線」
この新幹線という作業がとにかく嫌いでした。
すげえスピードで箱が流れてきて少しでもタイミングを間違うと手が鉄の箱に「ザリッ!」って巻き込まれて手の皮が持ってかれます。
先輩が笑いながら
「中島くんは新幹線が下手だねぇ」
って言ってきます。
そんな言葉この世にねえよ。
重さ15キロの塩の袋をかついで階段を登り大きな釜に塩を入れていく作業、通称「塩」
奴隷がピラミッド作る為に物を運ばされて疲れ果てて倒れると
「てめぇ!何、休憩してんだ!」
ってムチでビシビシされるやつあるじゃないですか。
あれです。
僕もよくムチでビシビシされました。
他にも色々な作業があり、時間が来るまでローテーションするというバイト内容でした。
5.塩の先輩
と僕が心の中で呼んでいる先輩がいました。
先輩は何故かいつも「塩」にいました。
「この塩はねぇ、中国の福建省から取り寄せてる特別な塩なの。」
が口癖の変な人でした。
一度だけ、何が特別なのかを聞いてみた事があったのですがすごい悲しい顔をされたのでそれ以降は聞くのをやめました。
6.ガーディアン、復活
いつものように退勤をし、タイムカードを持って守衛のおじさんのところに給料をもらいに行きます。
き「おつかれさまでしたー」
ガ「はーいおつかれー。今計算するねー」
ガ「ん、、え、中、、しま、、くん、、?」
まずいっ!
今まで難なくいけたのに!
これはバレるのか?!
「オツカレサマデシター!!」
と言い給料袋を奪い取りすぐさま自転車に乗り逃げます。
逃げてる最中遠くでガーディアンの声が小さく聞こえます。
「きみ中島くんじゃないだろーーーー!!!」
どうやらこのガーディアンは本物の中島くんを知る数少ない人物で、長期の休みを取っていた為今まで会うことが無かったが今日復帰したとのこと。
じゃあだめじゃん。
初日にこのおじさんいたらそもそもアウトじゃん。
明日もバイトあるじゃん。
どうすんのこれ、
行きたくねー。
そう思いながら晩ごはんを食べてるとテレビに映る上戸彩がかわいくて全部忘れました。
7.中島の終わり
重い気持ちを抱えながらバイトに向かいます。
工場の扉を開ける時、僕は僕のイメージする中島よりもいつもより中島な感じで
「おつかれさまでーす!」
と言い、入りました。
すると大人たちが数名集まって深刻な空気になっていました。
その中には山姥もいて僕を見つけると
「ごめぇーん、きょう。バレちゃったー。」
と半泣きになりながらそう言いました。
僕はその時半泣きの山姥の顔よりも、横のおじさんよりも高い山姥の身長の高さが気になりました。
若い男の子たくさん食べたのかな。
それからは制服を返却してそのまま家に帰りました。
こうして僕の中島くんとしての生活は終わりました。
明日からは誰になろうかな。
おしまい。