有機酸さんの音楽
私とボカロ
私事だが、最初に自分とボカロとの出会いについて書こうと思う。
自分とボカロとの一番最初の出会いは、小学生の頃の校内放送だった。校内放送でボカロを流しちゃいけない、なんて声も聞く中で、自分の通っていた小学校では、普通にボカロが流されていた。
しかしながら、当時はボカロが嫌いだった。特に電波系の曲が、である。その時流れていたのは『ぽっぴっぽー』であったと記憶しているが、そういう曲が自分には合わなかったのだ。ちなみに今もそんなに親和性は高くない。
そんなボカロへの意識が変わったきっかけは、「太鼓の達人」だった。Wiiでプレイしていたが、そこには『千本桜』と『マトリョシカ』、そして『初音ミクの消失−劇場版』が収録されていた。
これらの曲は、自分の琴線に触れた。ボカロを「好き」になるまでにはいかなかったものの、ボカロへの見方はガラリと変わったのである。
そして今のように、ボカロをしっかり聴くきっかけになったのは、前回とりあげたバルーンさんの『シャルル』であった。
この曲はボカロへの立ち位置を「好き」に押し上げてくれた曲である。そして今まで様々な曲に出会えたのも、この曲があったからだろう。
これを皮切りに様々な方の曲を聴いていくことになるのだが、その次に出会ったのが有機酸さんの曲だった。というわけで今回は有機酸さんについてのお話である。
イントロダクション
有機酸さんは現在「神山羊」名義でも活動されているボカロPさんである。主に初音ミクを使用されており、打ち込み系の音楽が特徴的なボカロPさんでもある。DJとしての活動をされていたこともあり、その音使いは見事である。
自分が有機酸さんと出会ったきっかけは、前回のバルーンさんの記事で取り上げた『facsimilie』というアルバムである。こちらで有機酸さんの『krank』『退紅トレイン』がバルーンさんによってアレンジされていたほか、『シャルル』『雨とペトラ』のアレンジが収録されていた。個人的にこの『雨とペトラ』のアレンジが非常に好きである。『雨とペトラ』は、本家のバンドサウンドも大好きだが、このようなしっとりしたアレンジもよく映えると思う。
ボカロPをされていた時代は、表に出てくることこそ少なかったものの、確かな人気を誇っており、『ミライ』で復活されたときには、界隈が沸いた。『ミライ』を引き出したプロジェクトセカイの功績は計り知れないところがあろう。これについてもまた別の記事で触れたい。
音について
有機酸さんのサウンドは、切ない。
特にそれを感じたのは『カフネ』という曲だった。この曲を聴いた時、胸をぎゅっと掴まれるような、それでいてどこか懐かしいような、そんな気持ちになる。打ち込み主体で、切ない音楽で、などと言った言葉で分解しきれない何かがそこに残っていた。
有機酸さんの音に魅せられた私は、アルバム『troy』を買うことになるのだが、そこで『鉛の冠』を意識して聴くことになり、また度肝を抜かれることになる。美しい音だな、と思った。ただ切ない、美しい、だけじゃなく、どこか芯があるのが、有機酸さんの音の魅力なのかもしれない。『鉛の冠』では、曲全体にかかる部分だけでなく、最後の英語スピーチ部にもそれは表れている。
初音ミクの声がその音楽に寄り添っている、というのは書くまでもないことだろう。聴いてみればわかる。まあこんなことを言い出すと、ここに書いてある全てが「聴いてみたらわかる」ことだし、ある意味それを全て書き出しているのは野暮なのだが。
初音ミクにも色々な音があるが、有機酸さんのこの使い方を私は結構気に入っている。線の細い初音ミク、というのは一つの美しい形なのだ。
そして最後に『krank』。これもそうだが「ノイズ」の部分の使い方が上手いと思う。この曲ではイントロ部とか。「ノイズ」は本来、不安な気持ちを想起させるものだが、こういう使い方をされると、安心感を覚えるような気もしてしまう。感情がぐちゃぐちゃにかき回されるのだ。そしてそれは、決して不快なものではない。バッキングの荒立たせ方も見事である。
きっと私には分かりえないけれど、鋭く気持ちを掻き立てるその音の使い方は、まさに「藝術」であろう。
言葉について
音の使い方と同時に、言葉の使い方も非常に芸術的だな、と感じられる。しかしこちらの方は、単に「訳がわからない」のではなく、その裏にあるストーリーが想起されるような気がしてやまない。
有機酸さんの歌詞はどこか、どこか引っかかる。印象に残った歌詞を上げると、
脆い僕は街の餌食になった
間違いばかりの人生だったなら 君はその命の被害者だ
曇りガラスと陽の影が 映し出す雨 戸惑い
上からそれぞれ『krank』『spray』『ミライ』の歌詞である。このような「心に引っかかる」歌詞が有機酸さんの魅力の一つであろう。
そしてもう一つ、歌詞のメロディーへの載せ方も見事なのだ。例えば『krank』の
終わらせてbabylon
戦慄
脆い僕は街の餌食になった
部分。ここは音の引っ掛け方が見事というか、耳に残る演出だな、と感じられる。押韻なども含めて、リズムと言葉、メロディーの3つの要素がうまく絡み合って、このような魅力的な曲ができているのだろう。
曲紹介
有機酸さんの真骨頂と私が勝手に思っている曲である。上にあげた曲の魅力、歌の魅力、歌詞の魅力がふんだんに詰め込まれた素晴らしい曲となっている。モチーフはとても暗いが、聴いていて心地の良い曲。
・カフネ
初音ミク×flowerのデュエット曲である。「歌詞の魅力」で挙げられた押韻をふんだんに生かし、まるでラップのような仕上がりになっている。しかしながらそれがメロディアスな旋律に乗っているため曲自体はとてもゆったりとさせられる。切ないラップである。
koyori(電ポルP)さんの『愛に奇術師』のアレンジ版。ジャズテイストでとてもかっこいい仕上がりになっている。有機酸さんの引き出しの多さに感服させられると共に、有機酸さんの魅力であるピアノもうまく生かされている。
書いていてなんだか懐かしい気持ちになった。
またね。
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