”動画”のように眺めてみる?
「わかる/わからない」の視点で、アートに関わるお話を、思いつくままつらつらと綴っています…。
「あなたが大金持ちだとして、この作品をいくらで買いますか?」
ワークショップのアイスブレークなどで、こんな質問から始めることがあります。金額とその理由をお聴きすると、その人のお金に関する感覚や、価値観などが垣間見えて、なかなかに興味深いです。
では早速こちら。あなたなら幾らで購入しますか? あ、勿論買わないという答えもありで、その際には買わない理由を、ちょっと考えてみてくださいね。
《Number 17A》
ジャクソン・ポロック
86.5(H)×112.0 cm(w) / 1948年
油彩・ファイバーボード
アートファンの方にはお馴染みの作品ですが、初めて見ると「何のこっちゃ?」って感じですよね。この作品をお金を出して買う人がいるのかなぁ…という感想もありそう。
そんな印象の作品ですが、2015年に実際に購入されていて、その金額はおよそ2億ドル(200億円!)。なんでそんなに高い価格がついたのかと言うと、この作品が床に置いたキャンバスに、絵具缶から絵具を直接滴らせるドリッピングと呼ばれる手法で描かれた、作者ポロックの初期の作品だからだと思われます。
”キャンバスをイーゼルなどに直立させて描く”というそれまでのアートの常識を覆したわけですね。”静止画”として描かれている結果を見てもらうのではなく、製作途中のプロセスを”動画”のように感じてもらうという、新しい鑑賞の方法を初めて提示してきたとも言えそうです。このポロックのドリッピング手法は、アクションペインティングと呼ばれる新しいアートの制作スタイルのトレンドにつながっていきます。
「何が描いてある…?」という作品に出会った際には、製作の時の”動画”を想像すると、面白いイメージがわいてくるかもしれませんね。
ちなみに、200億円で所有者になったお金持ちは、アメリカのファンドマネージャーのケネス・グリフィン。相場の”動き”がわかる…ってことで、この作品の良さを感じたのかどうかは、勿論不明です。
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