”物語”は細部に宿る 「知ってる」は「わかってない」の入り口?
「わかる/わからない」の視点で、アートに関わるお話を、思いつくままつらつらと綴っています…。
「あ、これどこかで観たことある!」
学校で教わったかどうかは定かではなくても、何か記憶にあるアート作品ってありますよね。《モナリザ》ほどではないかもしれませんが、こちらの作品も、かなり有名です。
《雪中の狩人》
ピーテル・ブリューゲル
1565年
117×162㎝ / 油彩・板
「あぁ、これねぇ」ということで、作家の名前や、作品のタイトルまで知っている方も結構いらっしゃるのでは。こういう”お馴染み”の作品に出会うと、意外にも、私たちは自分の想像力を発揮することが少ないようです。長い歴史の中で評価を受けてきた「名画」ほど、「あ、知ってる」の確認作業だけで終わってしまうことが多いのではないでしょうか。
認知症の方向けに対話型鑑賞のプログラムを実施する機会があるのですが、この《雪中の狩人》を観ていただいた時のことです。
「何が見えてきましたか? 気づいたことなどありますか?」
とのこちらからの問いかけに、
「あらぁ凄くがっかりしてるわねぇ」
とお話してくださった方がいました。風景画の先駆としてこの作品を”知っていた”私には一瞬びっくりのコメント。どのあたりからそのように思われたのかをお聴きすると、
「みんな首をうなだれてるじゃない。何も獲れなかったのよ…可哀そうに」とのお答え。
そう、こちらの猟犬の様子を見て、しみじみとお話してくださったのです。確かに元気なさげに描かれていますよね。
他にも、「子供たちが楽しそう」とか「私は真ん中(の鳥)から見た景色が一番いいと思う」とか…。自分の気に入った”細部”を眺めて、感想を物語のように語ってくださいます。「知っていた」自分が、ほとんど作品を楽しめていなかったことに気づかせてくれました。
「見知った作品」に出会った時には、細部をじっくり眺めて、新しい物語を発見するのもよさそうですね。
*対話型鑑賞プログラムの一つ「アートリップ」に関心を持たれた方は、こちらの書籍、URLご参照ください。