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子供の頃に戻った時間ー映画『バスターのバラード』より
昨夜、『バスターのバラード』という映画を鑑賞した。コーエン兄弟の映画を観るのはおそらく初めて。彼らの代表作の多くはマイリストに眠ったままだ。(見出しの画像の引用元です『The Ballad of Buster Scruggs』Courtesy of Netflix)
本作はアメリカ西部開拓時代を題材とした6作の短編によるオムニバス形式。どこか不思議で皮肉の効いた、淡々と展開されながらも美しさや深みがあるような。そんな作品だった。
鑑賞中に思い出したのは小学校時代の「語り聞かせ」だ。読み聞かせと違い、本は使わず語りのみ。私の小学校では2週間に1回ほど、授業時間に周辺の図書館から来られたボランティアの方々による語り聞かせがあった。
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暗い空間で聴く不思議な物語、淡々と広がってゆく物語の世界に吸い込まれていくような。そんな語り聞かせの時間が大好きだったのを覚えている。
本作を観ているとき、当時の気分をもう一度味わえたような気がした。思い出せたとでも言うべきか。暗い空間での鑑賞も理由の一つだが、単純に物語を楽しむことが出来たのが久しぶりだったのだろう。忘れたらいけないのが、ひとつの物語前に本を捲りながら流れる音楽。これがまたいい。
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本作は予想することも野暮なら希望を持つことも野暮。ただ淡々とした態度が求められる。よく考えてみると私にとってはここが新鮮。単純に映像、物語、音楽の世界を味わった。完全に子供の眼差しだったと思う。物語の始まりと終わりなどは特にだ。
西部劇は自分にとって全く知らない世界(映画くらいでしか触れてない)。子供の頃に聴いていた北欧の物語(が多かった記憶)にも通ずるところがあるのかな。
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ここまで子供の頃を思い出したという話だったが、本作の内容は当たり前だが全く子供向きではない。全編が残酷且つ滑稽。その滑稽さもなかなかセンシティブ。特に人間の死について扱う物語が多かったが、その描かれ方がまた一味違う。
突然のように誰にも訪れる終わり。それがいかに不条理でも、いかに無意味でも。その死に対してだけでなく、それまでの生き方をも徹底的にシニカルに描く。残るのはニヒルのみ。そして次の物語へ。この連続。
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一味違ったのが四つめの「金の谷」だ。
「大地のどこにも人の気配や細工は見当たらなかった」
こんな言葉から始まるこの物語。まずこの文面の美しさに惚れる。文字通り山奥の美しい自然風景が映し出されるところから物語は始まる。登場人物は金を探し求めるひとりの老人。そんな物語のラストに映し出される風景と冒頭の言葉。扱われているテーマは死だけじゃなければ西部開拓だけでもない。現代にも通ずると実感する。
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他の話もそ西部開拓期と死を絡めつつ、それぞれが独自の展開を見せる。どれもクスッと笑ってしまいつつも虚無感に襲われるという不思議な感覚。展開的には胸糞というやつなんだろうが、そんなことは微塵も感じられない。それどころかどこか美しさすら漂わせている。
各話を薄く薄く引き伸ばした、簡単な、本当に簡単な感想たちを投下して終わろう。
「バスターのバラード」…盛者必衰ミュージカル。オープニングに最適。
「アルゴドネス付近」…不条理な死。「First time?」で笑った。
「食事券」…テーマが一番重い。この話があることで作品全体が締まっている印象。
「金の谷」…大自然と人間。どこか後味悪い。
「早とちりの娘」…早とちったな。こちらも不条理。
「遺骸」…会話が面白い。続きが気になる。
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こんな映画、他にないのかな。見つかるまで毎晩寝る前にこの映画みたいくらい。とりあえずコーエン兄弟の作品は見てみようと思いました。