テストと、アイスと、夏と。
夏期講習の帰りに私はコンビニに寄った。
汗ばんでいる体にキンキンのアイスが溶けてゆく。
その快感を味わうことが大好きだった。
ある日の帰り、仲良しの美和が提案した。
「今日やった小テスト一番点数が低かった人が、アイスをおごるのはどう?」
皆は、明日の小テストの結果楽しみで、ワクワクしていた。
その中に一人、不安そうな顔をした私がいた。
なぜなら私はカンニングをしたからだった。
いつもいつも、隣の美和の答えを写した。
前回のテストで点数を聞かれたときはヒヤッとしたけど、回答を見せなければ美和にカンニングしたことはバレない。
なのに。
明日の帰りコンビニで、同時にテストを見せるというのがルールなのだ。
皆もきっと美和の答えが私のに似ていることを気づくと思う。
美和はとっても頭がいいから、美和とおんなじ点数なんて実力でとれるわけない。
「じゃ、そゆことで!私はお母さんにお使い頼まれてるからここでー」
「「「はーい」」」
皆の声が重なった。
なんだか気が重くて今日はコンビニに寄るのもやめた。
お母さんとか塾の先生にもばれたらな、私犯人みたいに逃走しようかな。
家に着くとお母さんが玄関に仁王立ちしていた。
いつものことだ。
「今日の小テスト、手ごたえはあったの?」
「う、うん!良くできたと思う。明日の結果発表が楽しみだよ!」
「そう、お母さんも首を長くして待っているから。」
なるべく会話を続けたくなくて、私は自分の部屋に駆け込んだ。
やっぱり明日、みんなに正直に言おう。
その前にしっかり自分の実力を信じてみないと。
私の部屋の電気が深夜までついていることに気づいたお母さんが、すごい顔で部屋に入ってきた。
「こんな時間まで、、、何してんの?!」
「ご、ご、ごめんなさい」
「え、、勉強?ごめん、李衣菜はてっきりゲームしてるのかと。こんな勉強熱心だとは思わなかった。でも切りがいいとこで寝なさいね」
お母さんが戻っていくといつのまにかいていた、冷や汗をぬぐった。
次の日の塾、小テストの返しが配られた。
私はもちろん、高得点。満点に近い95点。
隣の美和と間違えているところも同じだった。
あ~あ。これはばれちゃうな。
でも正直、スカッとしている。
これからは自分の力でやらなきゃな!頑張ろう。
帰り道、コンビニの前で私はテストを見せた。
美和が目を見開いた。
「ごめんね、私ずっと美和のやつカンニングしてた。今まで、本当にごめんね」
「そうなんだ、、、でも正直に言ってくれて私も嬉しい!」
「私、今度からは自力でやっていこうと思う。皆は当たり前だと思っちゃうけどなんか妙にやる気になっちゃったの!」
「わかった。私たちで応援するよ」
「今日のアイスは私がおごる!みんなが応援してくれてるなら、今までサボってた分も頑張るから!」
家に帰ると、お母さんの仁王立ちが待っていた。
そうだ、お母さんはどうしよう、、、
「テスト、どうだった?」
「95点、だけど実は私これカンニングしちゃったの、美和ちゃんのを」
「え?!」
「ごめんなさい。罪悪感があって今日謝ってきた。それに自力で解くって決めて昨日から深夜まで勉強してるの」
「お母さん、すごく怒っている。だけど、そうやって李衣菜が行動したことはすごいとおもう!」
その日から、私は勉強に明け暮れた。
夏休みのプールのお誘いも、親戚で行われるお祭りもやめた。
お母さんは許してくれたようだったけど、私はそれでも勉強をつづけた。
夏休み最終日の塾。
「今日は夏期講習最後の日だから、またテストの点数でアイスおごるのやろうよ!」
美和ちゃんが言い出した。
今回は私も乗り気だった。
「「「「せーの!じゃん!」」」」
皆が一斉にテストを見せる。
90点、95点、93点、そして、、、100点!
私はガッツポーズをして、それでも収まらないのでお母さんにも電話した。
日葵ちゃんがアイスをおごってくれたけれど、美和の分は私がおごることにした。
「本当にありがとう!」
夏期講習の仲間はそれぞれ別の小学校。
この夏が終わるときっとまたこのメンバーで会うことはない。
「この夏楽しかったーーーー!!!」
私が河川敷で叫ぶ。するとうしろから皆も付いてきてくれた。
皆でキンキンのアイスをかじって、また歩き出した。