5ws+1n 夢をあきらめない 第4話
〇新橋演舞場・城山の楽屋
リア王の衣装に着替え、鏡の前で化粧をしている城山。
付き人がスマホを差し出す。
付き人「先生、お電話です」
城山「誰?」
付き人「星プロの阿部社長からです」
城山「スピーカーにして」
付き人がスマホをスピーカーに変える。
城山「(着替えながら)城山だが・・・」
阿部の声「あ、先生。ご無沙汰しておりますが、ご活躍のほど心よりお喜び申し上げます」
城山「挨拶はいい。要件は何だ? 手短に願う」
阿部の声「はい、大変申し訳ありませんが、エドガー役を賜りました慶喜ですが、昨夜、四〇度の熱が出まして」
城山「なんだと、早々に休むのか」
〇星プロダクション事務所・社長室
うろうろ歩きまわり、汗を拭きながらスマホで城山と喋っている。
阿部「本人は這ってでも舞台に上がりたいと言っているのですが、万が一途中で倒れでもしたら、皆様にご迷惑をかけてしまいますので、大変恐縮ですが、しばらく休ませていただければと思います」
城山の声「まさか、昨日の失敗で尻尾を巻いて逃げ出そうという腹ではないのかね」
阿部「滅相もございません。昨日も熱があって、慶喜はうわ言で出たい出たいと言っているんですが、何分ドクターストップがかかってしまいまして、本当に残念です」
城山の声「その言葉、長年の付き合いだから信じよう。ゆっくり静養してくれ」
阿部「ありがとうございます。関係者の皆様にはこれから私が連絡と謝罪をさせていただきます。まず第一報は先生からと思いまして、お忙しいとは存じますが、連絡させていただきました。では、失礼いたします」
電話が切れる音。
阿部がため息をつく。
阿部「どこへ行ったんだ」
〇新橋演舞場・城山の楽屋
城山「もう少し気骨のある奴かと思っていたが・・・」
〇ネットカフェ・ブース内
インターネットのニュースを見ている慶喜。
〇PC・ニュース画面
見出し『SAKURA、大麻使用中に死亡か』
昨夜死亡が確認された人気モデルのSAKURAさん(本名田代ゆかり・33)の体内から大麻の成分が検出された。警察関係者の話では、14日23時頃にSAKURAさんの住むマンションのエレベーターでマネージャーとすれ違った男性がこの事件に関係しているとみて、男の行方を捜している。
〇PC・ニュース見出し『エドガー 二日目で降板』
今年で20周年目となり、ロングラン記録を更新し続けている城山リア王のエドガー役に抜擢された俳優慶喜(29)が、舞台二日目となる七月二日(水)から降板している。事務所によると初日終了後、高熱、悪寒、嘔吐が続き、ドクターストップがかかったという。代役には前回エドガー役を演じた野村正則(32)が立てられた。
〇星プロダクション・社長室中
阿部が座って電話をしている。
ノックの音がして、女性秘書が入ってくる。秘書の姿を見て、出て行けという仕草をするが、秘書が阿部に名刺を渡す。
名刺「警視庁 湾岸警察署 刑事 末永義男 仲村英二」
阿部「あ、ちょっと待って、後でかけ直すから(電話を切る)」
末永義男(55)と仲村英二(31)が社長室に入ってきて、阿部に警察手帳を見せる。
阿部から出ていくように手でサインを送られた秘書が、部屋を出ていく。
阿部「何事です、まあ、どうぞおかけください」
三人がそれぞれソファに座る。
仲村「こちらの所属の慶喜さんですが、今、どちらにいらっしゃいますか?」
阿部「あ、慶喜は今日体調が悪くて休んでおります」
仲村「では、自宅に?」
阿部「あ~、そうです」
末永「それでは自宅の住所を教えていただけますか?」
阿部「慶喜が何か?」
仲村「少々お尋ねしたいことがありまして」
阿部「何でしょうか?」
仲村と末永が目配せする。
末永「実はモデルのSAKURAさんの件で。以前お付き合いされていましたよね」
阿部「あ~~~、そんな時もありましたが、今は関係ないと思いますよ。まさか、SAKURAの自殺に慶喜が関係してるって思っていらっしゃるんですか?」
末永「いや、関係しているかどうかは直接お話を聞いてみないと・・・」
阿部「先程も申しあげたとおり、慶喜は急病で今は話ができる状態ではありません。具合がよくなりましたら、こちらから連絡をさせていただきますので、今日のところはお引き取りください」
仲村「仕方がありませんね。わかりました」
阿部「慶喜が疑われているとのこと、はっきりするまではくれぐれも内密にお願いいたします。万が一、週刊誌にでも漏れたら大変なことになりますから」
末永「わかりました。ではご連絡をお待ちしています」
末永と仲村が頭を下げてから、社長室を出ていく。
阿部がデスクの自分の椅子に腰を下ろして、深いため息をつく。
阿部「どうなっているんだ・・・」
〇新宿駅東口付近の路上
慶喜が背中を丸め、人混みに紛れ歩いている。
〇翼のマンション(夜)
翼、春樹、阿部が飲みながら話をしている。
阿部「本当に何も連絡きてないんだな」
翼&春樹「はい」
阿部「警察が慶喜を本気で探し始める前に、奴に話を聞いて、警察に行かせたいんだ」
春樹「関係あるにしてもないにしても、行方不明はまずいですね」
翼「のぶ、何やってんだよ~」
阿部「警察が待ってくれるのはせいぜい三日ぐらいだと思う。それまでに慶喜を見つけないと」
翼のパソコンにビデオ電話がかかってくる。
翼「大輔からだ」
大輔の顔が画面に映る。
大輔の声「遅くなってすまん。瞳がなかなか寝てくれなくて。今、車に移動してきた」
〇駐車している車・中(夜)
大輔がビデオ電話で話をしている
大輔「社長、お久しぶりです。ご無沙汰して申し訳ありません」
〇翼のマンション(続き)
阿部「ああ、大輔。元気そうだな」
大輔「はい、お陰様で、みんな元気です。いったい何があったんです」
翼「のぶがいなくなっちゃったんだよ」
大輔「ええ?」
春樹「リア王の初舞台がひけてから、有楽町の駅近くで車から降りて、そのまま行方不明になっているらしい」
阿部「もしかしたら、お前には連絡が来たんじゃないかと思ってな」
大輔「ないです。典子にも聞いてみましたが、何も・・・。翔太は?」
翼「知らないって。随分話してないって」
典子が車に近づき、窓ガラスをノックしてからドアを開けて、助手席に乗り込む。
大輔「あいつ、リア王の舞台、すごく意気込んでてやる気満々だったはずだけど。インスタも急に更新されなくなって、急病だってニュースでやってたから心配してたんだ。まさか行方不明になっていたなんて知らなかった。なあ(典子に相槌を求める)」
典子「私たち、毎日慶喜のインスタ読むのが楽しみだったの。いつも頑張ってるな~って。瞳も慶喜のファンで、よっちゃんよっちゃんて言って。もしかして、SAKURAさんの件と何か・・・」
阿部「今日、事務所に刑事が来て、SAKURAの件で慶喜に事情を聴きたいって言うから、病気だって誤魔化したんだが、いつまでもつか」
典子&大輔「(驚いて)ええ!」
春樹「早く見つけないとまずいことになる」
翼「のぶが行きそうなところ、心当たりは探したんだけど」
典子「(大輔に向かって)ねえ」
大輔「何?」
典子「音楽室じゃないかな?」
大輔&春樹&翼「音楽室?」
春樹「青中、去年廃校になったんじゃ」
大輔「そうだ、きっとそうだよ」
翼「うん、間違いない」
阿部「ファイブウイングスの原点か・・・」
典子「大輔、行ってみよう」
大輔「そうだな。子どもたちが起きると困るから、典子は家にいて」
典子「え! 私も行く」
大輔「いや、いい。のぶが居たらすぐに連絡する。連れて帰ったら美味しい飯でも食わしてやってくれ」
典子「そうだね、そうする。慶喜の嫌いなほうとう、作っとくから」
翼「のぶ、ほうとう食えるようになったって言ってた」
典子「ええ? ほんとなの?」
翼「喜ぶよ、きっと」
典子「そうだね」
典子が車を降りると、大輔が車を発進させる。車を見送る典子。
〇南アルプス市立青山中学校・校門前(夜)
大輔の車が停まる。車から降りた大輔が校門の鉄柵を乗り越える。
〇同・正面玄関前(夜)
懐中電灯をかざした大輔が門を開けようとするが、鍵がかかっている。
大輔「もしかして・・・」
〇(回想)同・調理室・外(夜)
中学二年の大輔(14)と慶喜(14)が外に面した調理室ドアについているダイヤル鍵の番号を合わせている。
大輔「2・5・9・1」
鍵が開く音がする。
慶喜「開いた!」
大輔「よし、入るぞ」
靴を脱いで、忍び込む大輔と慶喜。
〇(回想)同・廊下~理科準備室
真っ暗な廊下を進む大輔と慶喜。
慶喜「夜の学校ってちょっと不気味だな」
大輔「この辺り、昔平家の落人狩りがあって、死んだ平家の武士の幽霊が出るって」
慶喜「やめろよ」
大輔「俺は幽霊なんか信じないから(笑)」
慶喜「俺だって」
〇(回想)同・理科準備室前
大輔と慶喜が中に入る。
慶喜「翼の奴、どうしてこんなこと思いつくんだ」
大輔「怖いのか?」
慶喜「そんなんじゃないけど」
大輔と慶喜が骨格標本の前に立つ。
慶喜がシューズ袋から右手首の骨標本を取り出して、本体に着ける。
大輔「よし、ミッションクリア」
親指を立てて、拳骨を突き合わせる大輔と慶喜。
慶喜「大したことなかったな」
突然、ドドドドドドという太鼓の音が聞こえる。
驚いて腰を抜かす大輔と慶喜。
大輔&慶喜「うわ~~~~~」
逃げ出そうとするが立てないで、ハイハイして出ていこうとする。
笑い声がする。
部屋の電気がついて、翼と春樹が笑いながら出てくる。
大輔&慶喜「な、なんだよ~」
翼「おっかなかったべ(笑)」
大輔「翼、おめえ~」
春樹「なかなか来ないから、怖くなって途中で引き返したのかと思ったよ(笑)」
回想終わり
〇青山中学校・調理室(夜)
大輔が調理室の外扉のドアに手をかけ、扉を開ける。
大輔「やっぱり」
大輔が靴を脱いで、中に入っていく。
〇同・廊下(夜)
大輔が暗い廊下を懐中電灯で照らしながら歩いている。
大輔「のぶ~、居るんだったら返事してくれ。俺だよ、大輔だ」
〇同・音楽室(夜)
大輔がドアの前で立ち止まり、声をかける。
大輔「のぶ、入るぞ。俺だ、大輔だよ」
大輔がゆっくりとドアを開けて、室内を懐中電灯で照らす。
ベートーベンやモーツアルトなどの肖像画と並んで、ファイブウイングの優勝した時の写真が壁に飾られている。
部屋の隅に、お菓子と栄養補助食品の空き箱が放置されているのが見える。
大輔「やっぱり、ここにきたんだ」
部屋中をくまなく懐中電灯で照らす大輔。
大輔「おい、のぶ。居るんだろう。出て来いよ。うちで典子も瞳も、みんなお前が来るのを待ってるから」
ガタンという物音がする。
大輔が慌てて、廊下に出る。
大輔「のぶ、おい、待て。なんで逃げるんだよ」
大輔が音のした方へ走っていく。
大輔「のぶ、俺だ、大輔だよ。みんな心配してよ~」
校内を探し回るが、慶喜は見つからない。
車に戻る大輔。
その姿を校舎の陰から見ている人影(慶喜)。
〇車の中(夜)
大輔がスマホで翼と電話している。
大輔「あ、翼、俺。たぶん学校の中にいると思うんだけど、見つからなかった。明日、昼間にもう一度探してみるから」
翼の声「そうか、俺も春樹も明日、そっちに行くよ」
大輔「ええ! 仕事は大丈夫なのか?」
翼の声「俺は大丈夫。春樹も何とか調整するって言ってた」
〇星プロダクション(朝)
社員が仕事をしている中、阿部が急ぎ足で出勤してくる。
社員達「おはようございます」
阿部「おはよう」
秘書が阿部に近づき、耳元で
秘書「警察の方が中でお待ちです」
阿部「うん、わかった」
社長室の中に入る阿部。
〇同・社長室
末永と仲村、阿部がソファに座って話をしている。
仲村が写真を阿部に渡す。
〇写真
マンションのエレベーターから出てくるフードをかぶった男の写真。
〇星プロダクション・社長室(続き)
仲村「これ、慶喜さんですよね」
阿部「・・・」
末永「慶喜さんの住所、教えていただけますよね」
阿部「いや、ちょっとまだ・・・」
仲村「このままだと、重要参考人として公表することになりますよ」
阿部「わかりました。ご案内します」
阿部と末永、仲村が立ち上がる。
〇慶喜のマンション・廊下
阿部が鍵を開けて、末永、仲村が中に入る。
〇同・リビングルーム
白手袋をはめて室内を物色している末永、仲村の様子を見ている阿部。
仲村「(窓からベイブリッジを見ながら)いいとこ、住んでますね~~」
部屋の中を探し回る仲村と末永。
末永「本当に行先はわからないんですね」
阿部「はい、こちらも困ってるんです」
仲村「隠さないほうが本人のためなんですがね」
阿部「行き先がわかったら、すぐにお知らせします」
末永「おい、鑑識を呼んで指紋を採取してもらえ」
次の話は、こちらから↓
5ws+1n 夢をあきらめない 第5話|和世 #note #創作大賞2023
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