見出し画像

欧州 EU意匠制度改正、料金改訂(2025年5月1日施行)

欧州連合理事会(European Council)に提出されていた意匠制度改正案は、規則改正指令2024/2822(規則改正部分) と2024/2823(改正規則)として2024年11月18日の官報に公示され、それぞれ20日後の12月8日に施行される。
 欧州意匠法改正は、現在の3D印刷やデジタル技術などとその経済情況に適合するよう大きく近代化するもので、現行法での課題を解決し、法適用や解釈を改善し、クリエイターや企業に大きな利益ことを期待しているもので、主に4つの改革を目的としている。つまり、意匠権保護範囲を現代化し明確化と強化、保護の利便性の向上、保護制度の相互運用(商標規則との整合性)による調和、及びEU全体で異なるスペアパーツ保護を調和させることにある。
 この改正指令が12月8日に施行されることを受けて、改正指令2024/2822の意匠規則改正は、
第1段階、その4か月後の初日である2025年5月1日に基本的な改正が施行され、
第2段階、その18か月後の2026年7月1日その他の改正である新たに保護対象となる意匠出願などが施行される。
また、第3段階として、改正指令の無効手続きやスペアパーツの法的保護について、欧州連合加盟各国は36か月以内、つまり2027年12月9日までに国内法を改正することが求められる。
 意匠法の実質的な改正は、欧州連合商標規則の構造に合わせるため、規則全体の条項が削除または再配置されている。第1段階での主な改正は以下の通り;
1.名称、定義の変更
 共同体意匠(Community design)を欧州連合意匠(European Union design、EUD)に;
 共同体意匠裁判所(Community design court)を欧州連合意匠裁判所(EU design court)に;
 共同体意匠規則(Community Design Regulation)を欧州連合意匠規則(European Union Design Regulation、EUDR)に改正する。
・定義Art.3
(1) Designの定義は、最後のits ornamentation をits decoration, including the movement, transition or any other sort of animation of those featuresと追加改正され、動き、変遷、やそうした機能をもつその他の種類のアニメーションも含まれる装飾と拡大された。アニメーションは、幅広い用語であり、段階的に変化するものであり、デジタルに限らず動きや変遷も含まれる視覚的効果などからなる設計と理解できます。
 この改正は、デジタルの意匠設計と視覚的効果をより広範囲に網羅する目的がある。しかし、従来からGUIやアニメーションデザインの出願を受理しており、これを追認する改正であるからそうした見方からは大きな変化でないと思います。なお、動画で提出するような場合に、一義的に決まらない動きや変遷については、複数の意匠として出願する必要があると理解します。
(2) Productの定義は、in a physical object or materialises in non-physical formとデジタル形式から非物理的形式(デジタルであるかどうかを問わず)と改正し、コンピュータプログラムを除く物理的物体に限らずあらゆる工業製品や手工芸品になり得ることを明確にして、デジタルの設計を保護することを意識しています。さらに、(a)項は物品について、or exterior(外部の)を追加し、spatial arrangements of items intended to form an interior or exterior environmentとすることで、店舗設計や仮想空間での設計を対象としていると理解できます。(b)項はGUIや表面設計などの形状を明示し、欧州意匠でかなりの部分を占める技術や自動車分野での画像、ロゴ、GUIなどの保護を明確にしています。
 Product(製品)の定義の拡大は、組物、空間配置、内装・外装の設計に加え、人の経験や仮想環境などまで広く保護されるようになりました。

2.権利と制限
・保護対象Art.19の2項のd号を改正し、侵害対象に新たに3D印刷に対する権利行使を可能とする表現に変更した。
・制限事項Art.20の1項にd号を設け、意匠権者の製品であると識別や参照する目的で行われる行為、e号を設け、コメント、批評、パロディを目的として行われる行為を追加した。
・修理目的製品の意匠を権利対象外にするため新たにArt.20aを設け、1項で、組立製品(Complex Products、例えば自動車)の構成部品の意匠で、組立製品の元の外観を回復するように修理のみに使用することを目的する場合、権利を付与しないと規定した。2号、3号に適用除外がある。
・意匠権保護の認知度を向上に意匠標識を導入するため新たにArt.26aが設け、意匠権者やライセンシーは意匠権を適用した製品に〇にDを入れたⒹ記号を表示することができることを規定した。
・製品がEU域内で販売されない場合でも、EU域外の国からEUを経由して侵害品が輸送される場合は保護を受けることができるようにした。
3.出願と審査
・受理窓口Art.35の1項を改正し、各国での受理を廃止、EUIPOのみが受理する。
・出願日確保Art.35の4項を改正し、手数料の納付を条件とした。欧州商標制度と同様1か月の猶予期間がある。
・複数意匠一括出願Art.37の1項を改正し、単一性(単一クラス)の要件を廃止し、同じ種別の製品に限定されることなく、異なるロカルノ分類に当該意匠を複数の意匠出願できるようにした。ただし、複数の意匠出願は最大50 件までの制限がある。
・物理的見本の提出は廃止された。
・公告延期Art.50の5項を改正し、公告料の支払いを条件としなくなり、公告延期期間満了後、公開を望まない場合は自発的に放棄する必要がある。なお、出願時に延期手数料を支払わなかった場合、出願は却下される。
・更新Art.50dの3項を改正し、納付期限日を満了日のある月の月末から満了日とし、6か月前から納付できる。6か月の追納も満了日から起算する。
・権利帰属及びその効果Art.15及び16を改正し、権利帰属手続きによる所有権の変更及び無効手続き前に変更手続きが可能となる。
・出願ガイドラインが2025年3月ごろ公示予定、新しいガイドラインを確認ください。
4.出願手数料、更新費用
・出願手数料は付属書として、指令に含まれるようなった。その他の改正があるので、具体的料金発表時に確認することをお勧めする。
・出願費用は、基礎出願1意匠の料金は、現行を維持€350、複数意匠の2件目以降は€125に減額
・公告延期手数料€40,2意匠目以降€20/件
・公告、登録料の廃止
・更新費用の大幅な値上げ 別の記載を参照。
5.その他の注意点
・非登録意匠(Unregistered Design)の保護は、従来と変わらず発表後3年間の保護と新規性例外の適用(優先権主張含む)の12か月は変更ないが、域内での開示を条件とするため、イギリスはすでにEUを離脱しており、イギリスやスイスで公開した場合に、保護を受けることができないことに注意が必要で、特にイギリスでの展示などをする場合は、意匠出願を同時に行うことが必要である。

参照サイト:官報 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/2822/oj
欧州知財庁公示 https://www.euipo.europa.eu/en/designs/design-reform-hub/terminology-procedural-changes

■著作権表示 Copyright (2024,2025) Y.Aizawa 禁転載・使用、要許諾

いいなと思ったら応援しよう!