中国 広州知識産権法院2021年度知財事件の総括と10大典型事例
広州知識産権法院は、2月22日午前、新聞発表会を行い、2021年度の知的財産権紛争の総括と科学技術イノベーションを保障する10大典型事例を発表した。広州知識産権法院が2021年に受理した各種特許事件は5,403件、法院全体の受理総数の35.4%を占めた。なお、審決は5,555件と前年比+102.8%である。この内、発明特許事件は受理408件、審決363件、実案特許事件は受理906件、審決1,030件、意匠特許事件は受理3,976件、審決4,059件、その他の特許事件は受理113件、審決103件である。なお、他に営業秘密38件、独占禁止4件、コンピュータソフトウェア158件の受理がある。外国企業(香港、マカオ、台湾含む)の関与する事件の受理は397年、審決325件である。
併せて、以下の10大典型事例を発表した。内訳は、特許侵害事件6件、コンピュータソフトウェア著作権事件1件、営業秘密事件1件、技術委託開発契約事件1件、植物新品種権紛争事件1件である。
1.深圳天源中芯半導体有限公司vs佛山市藍矢電子股份有限公司、上海国芯集積回路設計有限公司の集積回路配置設計専有侵害事件 [(2018)粤73民初2321号]
原告の天源社は藍矢社と国芯社が許可なく自社の集積回路配置設計の3つの独創的部分を複製しチップを販売したとして300万元の賠償と侵害停止を求めて提訴した。裁判所は国家知識産権局に登録された配置設計との対比を行った評価機関の実質的に同一との判断を受けて侵害と認定した。パッケージングを請け負った藍矢社は侵害を知らずに製造しており、原告の立証不足もあり、非侵害と認定した。なお、現在二審での審理中である。本件は広州知識産権法院開院後初めての集積回路配置設計専有権事件であり、チップという最先端技術分野の「卡脖子:ボトルネック」技術課題で、知的財産権司法保護レベルの向上における重要な位置づけであるとしている。
2.済寧市羅盒網絡科技有限公司vs与広州市玩友網絡科技有限公司、深圳冠准航科技有限公司、深圳奥斯坦科技有限公司、祥運実業(深圳)有限公司のコンピュータソフトウェア著作権侵害事件 [(2019)粤73知民初207号]
本件はソフトウェア開発のプラットフォームGitHubにアップロードされ、オープンライセンスであるGNU一般公衆利用許諾(GNU General Public License V3)が適用されていたVirtualAppのソースコードであったものが後日掲載をやめ通常の著作物に転換されたソフトウェアの侵害事件である。羅盒社は当該オープンライセンス対象であったソフトウェアの譲渡を受けて所有者となり、被疑侵害品WeChatアプリを開発しソースコードをオープン化せずに販売している玩友社と料金回収をしている3社に損害賠償の支払いを求めて提訴した。裁判所は羅盒社の提供するアプリは派生物として提供されており、GPL契約の規定に違反するとし、50万元の賠償と提供の停止を命じた。他の被告3社の収集行為には過失がないとして連帯責任を認めなかった。中国は諸外国のオープンライセンスを自由に使って発展してきており、コンピュータプログラムは「卡脖子:ボトルネック」技術である。また、中国にはオープンソースソフトウェアに関する法律、司法解釈はなく、オープンソースソフトウェアに関する事件や裁判規則もないところ、本判決は、アメリカ、ドイツなどの外国の裁判所のオープンソース契約の事件を参考にして、判決が下された。
3.OPPO移動通信有限公司、OPPO移動通信信有限公司深圳分公司vsSISVEL International S.A.(ルクセンブルグ)、SISVEL Hong Kong Co. Ltd.の標準必須特許料率及び市場支配地位濫用事件 [(2019)粤73知民初1415号、(2020)粤73民初451号]
本件は中国でのFRANDの典型的な事件で、SISVEL社はイギリス、オランダ、イタリアでOPPO社などに対する特許侵害訴訟を起こしており、被告のOPPO社は発明特許実施許諾契約紛争を理由に広州知識産権法院にSISVEL社を起訴し、FRAND義務違反、ライセンス条件として国内の特許料率適用すること、訴訟にかかる合理的支出の負担、更に市場での支配的地位の濫用でも提訴した。SISVEL社は管轄権異議を提起したが、第二審の最高人民法院でも却下された。裁判所は調停を進め和解での決着となった。管轄の問題は今後もこのような結果になること想定され、通信分野の標準必須特許のライセンスレートの適用を市場支配敵地位の濫用の独禁法の対応についてもいかがなものかと思料するところ、国レベルの圧力には溜息吐息である。
4.華為技術有限公司vs捷普電子(広州)有限公司、所楽太陽能科技(上海)有限公司、広州所楽機械技術諮詢有限公司の発明特許権侵害事件[(2019)粤73知民初590号]
本件は太陽光発電に関する技術で、原告の華為社は被告3社に製造販売の停止と損害賠償5050万元を求めて提訴した。裁判所は被告の複数の製品が侵害対象になると判断し、税関や親会社の情報を基に原告の請求を全額指示した。所楽2社には共同侵害行為により1010万元の賠償額を認定した。本件では裁判所が原告の市場での利益を保護するために仮差止を命じたことがポイントであり、裁判所は「立証が難しく、周期が長く、コストが高く、賠償が低い」などが言われる中、賠償と周期の問題に対応した自賛している。なお、現在二審係争中である。
5.MILLIKEN & COMPANY(アメリカ)vs徐州海天石化有限公司などの発明特許権侵害事件[(2019)粤73知民初1014号]
原告のMILLIKEN社が発明特許ZL201180068470.6(添加剤組成物及びそれを含む熱可塑性ポリマー組成物)を侵害し製造販売する海天社に製造販売停止と損害賠償850万元、侵害品を販売する艾米粒社に販売の差止を求めて提訴した。裁判所は被疑製品には係争特許の「着色剤使用量」に関する技術的特徴がなく、オールエレメントルールの原則に基づき原告の請求を棄却した。本件特許の請求項では着色料の使用料を決定する根拠として不等式が使用されており、原告は被疑製品が当該不等式を満足しているので、係争特許の「着色剤使用量」に関する技術的特徴を備えていると主張したが、裁判所はそれは係争特許の保護範囲を拡大解釈することになると主張を受け入れなかった。
6.Anthura BV(オランダ)、昆明安祖花園芸有限公司vs広州市番禺科芸農業科技開発有限公司の植物新品種権侵害事件[(2020)粤73知民初609、610号]
本件は、世界一のアンスリウムの育種企業であるAnthura社と中国の現地法人が被告は新植物品種権を侵害ており、登録された品種の複製物の製造、複製、販売の停止、損害賠償を求めて提訴した。裁判所は原告が提出したDNA、DUS(特異性)の試験報告書に問題があるとして採用せず、鑑定人の証言に基づき、登録された品種の特徴や特性との差があるとして、請求を却下した。現在二審係争中である。本件の問題点は原告が自ら準備した試験報告書は単なる主張書面と扱われたこと、外部鑑定結果に対する質疑には鑑定人が尋問に参加して応答する必要性を裁判所は指摘していることであるが、これは通常の特許侵害訴訟では当たり前のことであるがやや被告よりの判断がされたように思われる。
7.上海通凌新能源科技発展有限公司vs佛山市百特利農業生態科技有限公司の技術委託開発契約事件 [(2019)粤73民初1960号]
原告の通凌社は被告の百特利社が水産養殖分野の生物製剤と特定設備などに関して締結した「技術開発協力契約」、「プロジェクト協力契約」に対する履行が十分できていないことを理由に解消を求めて提訴するとともに、研究開発資金150万元と利息、関連立替金9万元と利息の支払い、及び相互に協力して取得した発明特許と実用新案特許の返還と変更登録手続きを求めた。裁判所は被告の一方的な理由ではないものの双方が同意していることから契約解消を裁定したが、研究開発指揮の支払条件がまだ達成されていないことから立替金の未払金の返還のみを支持した。知的財産権については共有を約定しており、被告の一方的な約定違反でない情況を考慮し特許の返還は支持しなかった。この紛争は契約内容が具体的でないために双方の約定の履行に対する理解の相違から生じたため、裁判所は契約解釈の一般規則から始まり、文理解釈、体系解釈及び習慣慣例などを総合的に運用し解決したとしている。
8.広州豊江電池新技術股份有限公司vs何遠強の営業秘密事件[(2021)粤73知民初393号]
原告の豊江社はリチウム電池のハイテク企業で、その製品は世界各地に販売され、アメリカで電子タバコ用リチウム電池などの分野で80%のマーケットを保有しているが、元従業員の何遠強(塗布部班長)が会社の秘密保持規定に違反し、塗布などの核心的製造工程の営業秘密を盗撮し、携帯電話の微信を通じて外部に送信し会社に損害を与えたとし500万元の損害賠償を求めて提訴した。裁判所は審理を経て、原告の11の技術情報が営業秘密の要件を満たし、何遠強は会社の秘密保持規定に違反し、勝手に関連技術秘密が含まれる写真を他人に送信し、原告の営業秘密を侵害したと認定したが、原告の損害や逸失利益の立証が不足し30万元の賠償額が裁定された。裁判所は賠償額を確定する際に、原告企業の核心技術秘密、技術秘密の資産価値評価、研究コスト、侵害者の主観的悪意、情状、行為の性質を総合的に考慮する。
9.東莞市凱華電子有限公司vs同方股份有限公司、同方国際信息技術(蘇州)有限公司、東莞京東利昇貿易有限公司の発明特許権侵害事件[(2018)73民初3658号]
原告の凱華者は発明特許ZL201610802371.0(タッチ音を出すキーボードスイッチ)を侵害するノートパソコンを製造、販売、販売の申し出を行った同方社ら3社に対して侵害行為の停止と損害賠償1,00万元の支払いを求めて提訴した。裁判所は請求項1の技術的特徴の4つが同一でも均等でもないとして、非侵害として却下した。第二審も原審維持となり決着した。
10.雷盟光電股份有限公司vs中山市美高照明有限公司の実用新案特許権侵害[(2020)粤73知民初57号]
原告の雷盟社は、実用新案特許ZL 2014077683.9(発光ダイオード電球改良構造)を侵害したとして、美高社を提訴し、裁判所は侵害事実を認め製造販売の停止と6万元の損害賠償を命じた((2018)粤73民初200号)。しかし、被告は判決を履行せず、執行命令が出されたが失効可能の財産が発見されず執行を終了した((2019)粤20執3号)。その後、雷盟社は美高社による再犯を確認し、再度提訴した。裁判所は米高社には特許侵害行為を実施する主観的悪意が明らかにあり、侵害の性質が劣悪だとして懲罰的賠償を適用した。本件は懲罰的賠償規定が適用された事件として、広東省高級人民法院は典型的事例に選定し、CCTVの番組でも放送された。
参照サイト:http://www.gipc.gov.cn/front/content.action?id=e18f2d4bc0624d26aaf4440024c35e0c
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