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中国 「最高人民法院による高品質な裁判サービスによる科学技術イノベーション保障に関する意見」公布(1月6日)

最高人民法院は、2025年1月6日、記者会見を開き、「最高人民法院による質の高い裁判サービスで科学技術イノベーションの保障に関する意見(最高人民法院关于以高质量审判服务保障科技创新的意见)」(法発〔2025〕1号)及び関連する典型事例8件を発表した。

「意見」は、最高人民法院が第20期党中央委員会第3回全体会議と全国科学技術大会、2024年中央経済工作会議の精神及び党中央の科学技術イノベーションの一連の政策決定と実施に関する重要な措置であり、科学技術イノベーション関わる裁判での際立った問題に焦点を当て、全体的な要件、法に基づく科学技術イノベーション成果の保護強化、イノベーターの保護、イノベーション行為の保護、科学技術イノベーションの法制化、国際化の市場環境の構築と司法保護制度とメカニズムの構築など6つの側面から25項目で合計98の具体的な政策措置を計画しし、刑事、民事、行政の三訴訟分野をカバーし、司法政策、裁判規則、制度、チーム編成など多方面から明確な要件を提出している。

「意見」の25項目の説明は長文であるため、概要は以下の通り:

「最高人民法院による高品質な裁判サービスによる科学技術イノベーション保障に関する意見」法発〔2025〕1号
 科学技術の興隆は民族を盛んにし、科学技術の強化は国家を強くする。イノベーションは発展をリードし、イノベーションを図ることは未来を図ることである。第20期党中央委員会第3回全体会議の精神を全面的に貫徹し、科学技術イノベーションの司法保護レベルをさらに向上させ、質の高い裁判サービスにより科学技術イノベーションを保障し、全面的にイノベーションを支援する体制メカニズムの構築を推進し、人民法院の実務と結び付け、以下に掲げる意見を提出する。

1.全体的な要求
(1)指導思想
 党全会の精神に基づき、司法制度と機構の改革を深化させることでイノベーションと創造性の活力を刺激し、公平かつ効率的な審判で高いレベルでの科学技術の進歩を促進し、審判業務の現代化による中国式の現代化を支援し奉仕する。
(2)基本原則
 法に基づく厳格な保護を堅持する。科学技術イノベーション分野の司法保護で突出した問題と脆弱な部分に焦点を当て、司法保護の強化、訴訟期間の短縮をすることで、「真のイノベーション」が「真の保護」、「高品質」で「厳格な保護」となるようにする。
 全体的な計画、調整、バランスを堅持する。公正で合理的な保護と権利濫用防止の関係をより適切に把握し、科学技術イノベーションの奨励と公平な競争の維持の関係をより適切に把握し、高いレベルの公開と安全の関係をより適切に把握し、重大な利益バランスを確保する。
(3)全体目標
 科学技術イノベーション、特に中国特有の科学技術イノベーションに関する司法政策の整備し、司法保護体制のメカニズムを健全化、専門裁判チームの素質の向上、事件の裁判の質と効果の全面的向上することにより、科学技術イノベーションの成果、科学技術イノベーター、科学技術イノベーター活動、科学技術イノベーション環境に対しより強力な司法サービスと保障を提供する。

2.法に基づき科学技術革新成果の司法保護を強化し、地域事情に応じた新たな生産力の発展を支援する。
(4)司法政策を正確に把握し、司法保護の強化と科学技術イノベーションレベルの調和を確保する。(高いや牽引力のあるイノベーションの場合に保護の強化・保護範囲の拡大・賠償額の引上げ、平均な場合に均等範囲を適切厳格に適用、権利者の民事権益と公共利益のバランスをとる)
(5)特許登録と権利確定行政訴訟の審理基準を改善し、質の高い発明創造を奨励する。(特実の新規性判断の厳格化で組合せ比較排除、公共目的での出願日前6か月以内の公開を新規性喪失の例外の適用から除外、ビジネスの成功による進歩性の認定の追加、出願明細書の開示範囲認定の緩和)
(6)工業意匠の司法保護を強化し、科学技術イノベーションと産業イノベーションの深い融合を推進する。(意匠特許の権利範囲認定での質の向上、量産チップ受託開発範囲の認定基準の確定、集積回路配置設計の違法コピーと利用の取締り支援)
(7)デジタル経済の司法保護を強化し、実体経済とデジタル経済の深い融合を促進する。民法典、個人情報保護法などの関連規定を正確に適用し、人格権、財産権などのデータ紛争を適切に処理し、権利侵害行為を抑制し、データ保護を強化する。(中国特有のデータ財産権、編集著作物、営業秘密に該当するデータ、独占禁止とプラットフォーム事業者の支配的地位の濫用)
(8)営業秘密の司法保護を強化のための営業秘密保護制度を健全に改善する。(営業秘密認定のための証拠と秘密範囲・秘密保持措置・非侵害の認定、転職に起因する営業秘密保護と技術人材流動での合法的権益の保護)
(9)重点分野の科学技術成果の司法保護を強化し、重大な独創性、転覆性科学技術成果の持続的な産出を支援する。(次世代情報技術・農業生物技術・生物科学技術・イノベーション新薬・漢方薬などの成果に対する司法保護を強化、科学技術倫理に対する適切な審理)

3.法に基づき科学技術イノベーターの司法保護を強化し、社会全体のイノベーションと創造活力を十分に刺激する。
(10)法に基づき科学技術成果の権益帰属を確定し、人材激励メカニズムを強化する。(権利帰属、発明者、奨励、分配、及び技術成果の譲渡は職務発明の報酬支払い義務免除)
(11)法に基づき技術契約紛争を審理し、科学技術革新成果の移転・転化運用を促進する。(契約当事者の履行能力と契約の有効性、契約違反、約束を守る側の合法的権益の保護を強化)
(12)科学技術イノベーション分野での株式分配、破産紛争を適切に処理し、イノベーターの運営メカニズムを最適化する。(企業ガバナンスと破産)
(13)科学技術イノベーション分野での教育、労働、人事紛争を適切に処理し、技術者の正常かつ合理的な流動を保障する。(教育、雇用、営業秘密保護、競業禁止と補償)
(14)法に基づき技術者の職責履行を保障し、科学技術イノベーターの内発的動機を刺激する。(技術者保護)

4.法に基づき科学技術イノベーション行為の保護レベルを強化し、あらゆる権利侵害行為を断固として取締り抑制する。
(15)仮差止、財産保全、証拠保全の制度的機能を積極的に発揮させ、状況が緊急で申立人が十分な担保を提供する場合、申立人に事前に通知せずに直接保全措置をとり、イノベーションを十分かつ速やかに保護されることを確保する。
(16)法に基づき賠償制度の役割を十分に発揮させ、権利侵害行為により大きな代価を支払わせる。(十分な賠償額、適切な法定賠償額、懲罰的賠償適用強化、再犯は懲罰的の対象)
(17)法に基づき科学技術イノベーションを阻害する行為を取締・抑制し、精錬で公正な科学研究生態系の形成を推進する。(虚偽訴訟、悪意訴訟、訴権濫用の排除、権利濫用に相応の高額賠償、不正行為や異常出願行為などに処罰、汚職や職権乱用度などに処罰)

5.法に基づき科学技術イノベーションの国際市場環境の建設を強化し、高水準の社会主義市場経済体制の構築を支援する
(18)法に基づき科学技術イノベーション分野の不正競争と独占行為を規制し、統一された国家市場の構築を支援する。(フリーライド・模倣などの新たな不正競争行為、知的財産権による競争の排除制限、プラットフォームでの競争の制限、行政機関による競争排除)
(19)特許と標準の関係を統一的に調整し、科学技術イノベーション分野の国家標準体系の構築を支援する。(標準規格の特許侵害とライセンス料紛争)
(20)科学技術イノベーション分野の金融紛争を適切に処理し、科学技術イノベーションの金融支援メカニズムの健全化を促進する。(担保、投資など)
(21)科学技術イノベーション分野の外国関連紛争を適切に処理し、科学技術イノベーションの国際協力と交流を促進する。(中国と外国の当事者の正当な権利と利益を平等に保護、管轄権と適用法、書類認証の簡素化)
(22)特定な地域での知的財産権保護の協力を深化させ、開放型地域連携イノベーションコミュニティを構築する。(京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、広東港澳大湾区(広東・香港・マカオ)、河北省雄安新区、成渝(生徒・重慶)など)

6.公正な司法制度のメカニズムを改善し、より良いサービス保障によるイノベーション駆動発展戦略を実施する。
(23)審判体制メカニズムの改革を深化させ、全体の効果を高める。(刑事事件手続きの改善、知的財産権事件の民行刑事訴訟手続きの改善)
(24)専門裁判機構の構築を標準化し、法治効果を最適化する。(上訴審理の改善、知財専門廷の最適化、インターネット裁判所の機能強化)
(25)審判能力の強化し、科学技術の賦能を推進する。(専門裁判チームの建設、人材育成を強化、統一判断支援のためのデータベースの構築)

【科学技術イノベーション分野での典型事例】
事例1:「非侵襲的出生前診断」発明特許出願却下再審行政事件
 香港某大学vs 国家知識産権局 (2022)最高法知行終811号
事例2:「エンザタミド」発明特許無効行政事件
 上海复某医約科技有限公司vs University of California (2022)最高法知行終287号
事例3:「リニアリチウム電池充電器」集積回路配置設計権侵害事件
 深圳天某半導体有限公司vs上海国某集成電路設計有限公司、佛山市藍某电子股份有限公司(2022)最高法知民終565号
事例4:「レンチナン(香菇多糖」営業秘密侵害事件
 南京漢某医葯科技有限公司vs帝某制葯(江苏)有限公司 (2019)蘇01民初3444号
事例5:「グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)」意匠特許権侵害事件
 北京金某安全軟件有限公司vs上海萌某網絡科技有限公司 (2022)沪民终281号
事例6:「インテリジェント検索アルゴリズム」営業秘密侵害事件
 深圳市智某信息技術有限公司vs光某(深圳)智能有限公司 (2021)粤03民初3843号
事例7:「新エネルギー自動車シャーシ」営業秘密侵害事件
 浙江吉某控股集団有限公司、浙江吉某汽車研究院有限公司vs威某汽車科学技術集団有限公司など4社 (2023)最高法知民終1590号
事例8:「龍的世界」ソースコード営業秘密侵害事件
 北京某甲科技公司vs曹某氏、王某氏 (2023)最高法知民終539号

参照サイト:https://www.chinacourt.org/article/detail/2025/01/id/8602701.shtml
https://www.sohu.com/a/846355498_120133310

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