中国特許法第4次改正内容(4)

中国での特許侵害に対する権利行使は司法ルートと行政ルートの2つがありますが、特許法は第60条(改正後第65条)で地方政府の知的財産権部門(正確には、市場管理監督局(知的財産部門))は侵害の停止命令、応じない場合に裁判所への強制執行手続き、及び損害賠償の調停を行うことができると規定されています。もちろん、和解調停もその業務には含まれます。ここで注目しなければならないことは侵害に対する処分権限は停止命令しかないことです。商標法は侵害の停止命令に加えて、侵害品などの没収・廃棄、及び罰金を科すことを地方政府の市場管理監督局に認めていますので、処分権限は特許の場合狭いと言えます。今回の改正では、この職権の拡大が期待されたところですが、残念ながら限定的なものとなりました。

(1)地方政府の知的財産権部門の職権の明確(第69条)
 今回の改正では、地方政府の知的財産権部門が侵害の停止命令を出すときに、以下の調査や検査をする職権が明記されました。
①関係当事者を尋問し、被疑違法行為に関連する情況の調査;
②当事者の被疑違法行為の場所での現場検査の実施;
③被疑違法行為に関連する製品の検査。
 行政ルートで侵害対策をする場合、地方政府の知的財産権部門は特許行政執行弁法という手続法に基づき必要な対処を行いますが、証拠を確認する手続きを職権として持つことになるのは、司法ルートで権利者が裁判所に証拠保全を求めることに相当し、侵害品の差押などは認められていないものの、侵害状況を確認できるメリットがあります。
 行政ルートでの特許侵害紛争は毎年4万件弱あり、浙江省と広東省でその約半数を占めており、侵害対象は意匠45%と実案35%、発明は20%と少ないです。申立ては中国企業が90%と殆どですが、外国企業はアメリカが最も利用しており、日本、ドイツ、韓国と続きますが、件数は少ないです。そして、受理された事件で処分が下されるのは僅か2~3%で、70%弱は調停となっています。また、注目されることは30%弱は非受理却下となっています。いずれにしても、行政ルートでの対策は有効な結果になっていないことが示されているように思います。

(2)特殊な侵害事件の対応(第70条)
 行政ルートでの処分権限を強化する上で、重大な事件と省や県を跨いだ侵害事件が発生することが多いために、全国的に重大な影響を与える特許侵害紛争を国家知識産権局(CNIPA)が処理すること、区域を超える当該同一特許権の侵害事件は上級の地方人民政府の知的財産権部門が処理すること、そして、同じ行政区域内で同一特許権の侵害事件は合併処理することが規定されました。

(3)特許評価書の活用(第66条第2項)
中国では、実用新案特許と意匠特許は実体審査を経ずに登録されるために有効性が曖昧な特許による権利行使については不安のあるところです。実務的には、実案と意匠の特許権利行使では殆ど評価書が権利者から提供されていますが、特許法に第65条2項に裁判所や地方政府の知的財産権部門が権利者に提出を要求できるとの規定に加え、今回、権利者は自発的に提出できることが追加されました。

以上、ご参考まで。
 

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