中国 無印良品の最新判決、終結の序章(2024年8月8日)
8月下旬に江蘇省高級人民法院の「無印良品」紛争にかかる(2022)蘇民終356号判決を入手した。本判決は、株式会社良品計画と北京棉田紡績品有限公司との「無印良品」ブランド紛争を終結に導く序章になるものと思われる。もちろん、まだ対応すべき現実問題や論点は残るものの、被告には再審請求の道は残るものの実質的な控訴理由が見当たらないため、司法判断としては、積極的に紛争終結への道標を提示したものと当職は理解する。以下、対象事件の第二審判決を中心に紹介し解説する。
本判決のポイントはいくつかあるが、知財面から大きな進展としては、
1.中国商標制度では小売りにかかる35類の分類体系が未整備で医薬品のみに小売りが定義されているところ、「推销(替他人):販促(他人に替り)」を小売りの対象とし、商標権侵害で認定した。
2.小売りサービスでも馳名商標(高い著名性のある商標)と認定されうること、そして、商号やサービス名に利用された場合、高い市場での影響力があれば不正競争行為と認定し、社名変更命令も出されうる。
3.複数事業者の主観的故意による共同侵害の認定。
4.会社名を決定するときの事業者の注意義務。
一方、良品計画にとっては、以下の点であろう。
5.綿田社らの行為は、「無印良品」への便乗行為と認定。
本係争は、江蘇省塩城市東台市にオープンした「无印良品|NaturalMill」店舗内)で販売された商品、看板などに多数の「無印良品」商標が使用されていることを受けて、原告が被告を2019年に江蘇省南京市中級人民法院に提訴したことから始まる。
第一審 江蘇省南京市中級人民法院 (2019)蘇01民初727号
原告 株式会社良品計画(良品計画社と略称)
无印良品(上海)商業有限公司(无印良品(上海)社と略称)
被告 北京棉田紡績品有限公司(棉田社と略称)
北京无印良品投資有限公司(北京无印良品社と略称)
北京无印良品家居用品有限公司(北京无印良品家居用品社と略称)
東台市德潤購物広場有限公司(東台德潤社と略称)
係争商標
第4471277号 35類 無印良品
第12128806号 35類 無印良品
第15098155号 35類 無印良品
第16240403号 35類 無印良品
第1707559号 35類 無印良品/MUJI
第4471268号 20類 無印良品
第4471270号 16類 無印良品
第4471267号 21類 無印良品
第4833852号 25類 無印良品
訴訟請求(商標権侵害と不正競争行為の停止、損害賠償など)
1.被告の上記商標権の侵害停止
2.両北京无印良品社の「无印良品」の商号権の侵害停止、東台德潤社の店舗内外での「无印良品」の使用の禁止、両北京无印良品社は社名に「无印良品」の使用停止及び社名変更
3.被告による原告のサービスに特有な装飾や装飾品の模倣、使用停止
4.被告による原告の合理的な支出を含む損害に300万元の賠償支払い
5.被告による「中国知識産権報」などでの侵害行為による影響の除去
6.被告による訴訟費用の負担
7.第4471277号 「無印良品」の馳名商標認定
証拠
2019年2月25日から3月13日にかけて、江蘇省塩城市東台市海陵北路9号(東台市海陵北路徳潤広場1階にオープンした「无印良品|NaturalMill」店舗内)で販売された商品、看板など多数に原告の登録商標を使用しており、公証し証拠収集した。
一審判決:
1.北京無印良品社は、第4471268号(20類)、第4471267号(21類)「無印良品」登録商標専用権の侵害停止
2.北京無印良品家庭用品社は、第16類上第4471270号(16類)、第4471277号(35類)、第16240403号(35類)「無印良品」登録商標専用権の侵害停止
3.北京無印良品社、北京無印良品家庭用品社は、会社名に「無印良品」を使用する不正競争行為を停止、判決発効日から30日以内に会社名変更登記を行う
4.東台徳潤社、綿田社、北京無印良品社、北京無印良品家庭用品社は、判決発効日から10日以内に良品計画社、无印良品(上海)社の経済損失(権利維持の合理的な支出を含む)50万元を連帯して賠償
5.良品計画社、无印良品(上海)社のその他の訴訟請求却下
第一審判決に不服のすべての被告は、控訴した。
第二審 江蘇省高級人民法院 (2022)蘇民終356号
被告の上訴理由は数多くあり割愛するが、第二審ではほぼそれらを受け入れず、以下の5つを争点として、詳細に説明し判断を下している。
争点
1.无印良品(上海)社の原告主体資格は適格か
2.被訴侵害標章の表示は商標権侵害を構成したか
3.両北京无印良品社が「无印良品」を商号に使用したことは不正競争を構成するか
4.東台徳潤社の主張する合法的な出所の抗弁が成立するかどうか
5.一審判決で確定された民事責任が正しいか
1.无印良品上海社の原告主体資格は適格か
最高人民法院の商標民事紛争事件の司法解釈([2002]32号、[2020]19号)4条2項に通常実施権者は商標権者からの明確な授権を経て訴訟を提起できるとの規定があるが、本件では商標権者と共同で提訴しており、商標権者は无印良品上海社が共同原告であることに異議もないことから、裁判所は主体資格を備えていると認定した。被告による良品計画社が无印良品(上海)社に2019年10月8日に出した商標権侵害や不正競争行為に対し提訴することを承認する陳述書作成に不備があり効力がないとの主張は事実と法的根拠が欠けるとした。
2.被訴侵害標章の表示は商標権侵害を構成したか
(1)第4471268号「無印良品」商標(第20類) U字枕
(2)第4471267号「無印良品」商標(第21類) 断熱手袋(ミトン)
(3)第4471270号「無印良品」商標(第16類) 不織布多目的おしりふき
(4)第4833852号「無印良品」商標(第25類) スリッパ
二審は、上記の(1)~(4)の何れでも綿田社が保有する商品の商標権の合理的使用と抗弁したが認めず、領収証での商標の記載、対象類似群の適否などから被告の行為は商標権侵害行為と認定した。商品現物ではなく領収証に商標の記載があり侵害行為と認定したことには注目すべきである。なお、原告の侵害主張に対する立証証拠が不足し、侵害判断がされなかった対象もある。
(5)第4471277号、第16240403号「無印良品」商標(35類) 「拡販(他人に替り)【推销(替他人)】」
二審は、被告の東台徳潤社は消費者に文房具、洗面衛生用品、寝具、スリッパなどの日用雑貨の小売サービスを事業としており、事業所の店舗看板、店内販促ポスター、レジ背景壁、ショッピングバッグ、買い物かご、販促ポスターなどに良品計画社の第4471277号、第162403号の「無印良品」商標と同一の標識を使用し、関連一般大衆を混乱させやすく、受けたサービスが良品計画社及び无印良品(上海)社からのものと誤認するので標権侵害を構成すると認定した。また、北京无印良品家居社は、東台徳潤社にショッピングプラザで无印良品などの商品販売を許諾し、店舗設計図、イメージ図、施工図を無料で提供し、店内設備も一括供給しているため、商標権侵害と認定された。
二審では一審での馳名商標認定があるので争点になっていないが、一審では、中国商標制度では医薬品のみ認められている小売りのサービスは35類に属し、サービス目的、内容、方式、対象から一般消費者にとって自他商品の区別がしにくいと指摘しながらも自社ブランド商品直営店と他社ブランド商品販売店の区別はなく、中国の商品役務区分表のサービス分類35類の「拡販(他人に替り)」指定役務は、商品の小売会社に商標保護を提供するのに適していることに間違いないと認定している。
そして、綿田社が无印良品(上海)社の行為は第4471277号商標の使用に該当しないとして起こした三年不使用事件で商標評審委員会がその主張を否定し、无印良品(上海)社が店舗の小売事業に従事する過程で「無印良品」の標章を使用したことは、第4471277号「無印良品」商標を使用する行為と認定していることを引用し、また、棉田社が24類の自社商標の使用と抗弁したが役務商標としての使用に該当しないと認定したことから、中国は判例主義の国ではないが、小売役務について明確な判断を示したと言える。
なお、第1707559号「無印良品/MUJI」、第121228806号、第15098155号の「無印良品」を侵害する立証証拠が不足するとして、侵害判断がされていない。
3.両北京无印良品社が「无印良品」を商号に使用したことは不正競争を構成するか
原告は、両北京无印良品社が、第4471277号「無印良品」馳名商標をその社名の一部に「无印良品」と使用していることは、専用権を侵害し、一定の影響力のある商号やサービス名称を侵害する不正競争に該当すると主張した。この争点について、二審は以下の4点について確認することで不正競争を構成すると認定した。
(1)北京無无印良品社の設立前に、无印良品(上海)社の会社名と小売サービス名はすでに極めて高い知名度と市場影響力を持っていた。
(2)両北京无印良品社が会社名に无印良品を使用することは、関連一般大衆に誤認混同を招きやすい。
(3)両北京无印良品社が无印良品を商号として使用している主観的目的は、便乗(攀附)である。
(4) 棉田社の第1561046号「无印良品」商標は北京无印良品社が商号の根源とする正当な前提条件を備えない。
先ず(1)項であるが、二審は无印良品(上海)社の会社名と小売サービス名は北京無无印良品社の設立された2011年6月21日までに、北京ほか多くの都市に広がり、北京だけでも3つの支社が設立されるなど、各支社、支店は「無印良品」の商号を使用し、商品やサービスにも「無印良品」を使用し続けており、すでに極めて高い知名度と市場影響力を持っていたと認定した。こうした主張はこれまでも原告からなされていると思うが、35類の商標権での主張に意味があったのであろう。さらに、国内外での知名度を判決で取上げていることから、中国国内での司法行政での外国での知名度の取り扱いの変更もあるように思われる。
(2)項について、両北京无印良品社は会社名を使って対外的にフランチャイズを募集しており、オンライン、オフライン店舗で提供する小売サービスや両北京无印良品社が生産販売する商品に会社名として「無印良品」「无印良品」を大量に表示する行為は、良品計画社や无印良品(上海)社との間に特定の関係があると関係者に誤認混同を生じさせやすく、二審は、実際これまでの当事者の不正競争紛争事件と本件で良品計画が提供した証拠を見ると、すでに消費者が誤認しており、事実上誤認と混同が存在することを確認している。
(3)項について、二審は北京无印良品社の創業者は同業界の経営者として、会社名を決め、登記する際に良品計画社と无印良品(上海)社の会社名とその小売サービス事業での「無印良品」の知名度を知っておくべきであり、すでに馳名情況である場合、明らかに発生する誤認混同を避けるために、合理的に避けるべきであったと断じるとともに、その創業株主である綿田社が2000年~2019年の間に「无印」「良品」「企画」などのキーワードを大量に商標出願し、時事のホットなキーワードである「毎日優選」「江南STYLE」の商標出願などを併せて検討分析した結果、綿田社が両北京无印良品社に「无印良品」を商号として使用する目的は、当時すでに一定の影響力を持っていた无印良品(上海)社の商号と「無印良品」の小売サービス名の知名度に便乗(攀附)するためであり、第1561046号「无印良品」商標を合理的に使用することではなかったと認定した。こうした裁判所の踏込んだ認定はこれまで出ていなかったが、判決文では、これまでの商品商標の事件で、合理的使用による棲み分けを指摘指導してきたがそうした対応をしない被告に対して大鉈を振り落したとも言える
そして、(4) 項について、棉田社の第1561046号「无印良品」商標登録の経緯を商標法第36条2項の規定「当該商標公告満了日から登録認可決定まで他人が同一或いは類似の商品に当該商標と同一或いは類似の標章を使用する行為に対して遡及力がない」に照らし、出願2000年4月6日、公告2001年1月28日後、異議、異議再審、行政訴訟一審、二審及び再審を経て、最終的な登録認可は2016年11月28日と確認した。従って、当該登録商標は登録認可日までに、商標法で完全に保護されていないため、北京无印良品投資会社の商号の正当な根源にはなり得ず、綿田社の第7494239号、第1462113号、第13036632 A号などの「无印良品」商標の登録日はいずれも北京无印良品社の設立後であるため、何れも同様である。北京无印良品家居社の設立は北京无印良品社より遅いために、同じ状況になる。
以上のように、二審は、被告による両北京无印良品社の商号での使用は不正競争ではないと認定する判決が早くから発効しているという主張事実は存在しないするとともに、不正競争防止法第6条1項、2項の関連規定に基づき、両北京无印良品社の行為は良品計画社と无印良品(上海)社の一定の影響を及ぼす「無印良品」の商号と小売サービス名を無断で使用し、関連一般大衆に誤認混同をもたらしており不正競争を構成すると認定した。
4.東台徳潤社の合法的な出所の抗弁が成立するか
商標法に規定される合法的な出所の抗弁の成立要件は次の3要素同時成立である。
①主張主体は被訴権利侵害品の販売者に限られる、
②販売者に主観的な過失なく、商品販売時に知らなかったことを証明できる、或いは合理的な注意義務を果たしていた、
③販売者は権利侵害商品の仕入先情報を開示し明確な出所を提供する。
二審は、東台徳潤社の主観的な過失の面で、2011年2月23日に設立され、資本金2000万元と一定の事業規模でデパート事業専門会社として、商標の権利状況に対し高い注意義務を負うだけでなく、販売する商品と提供するサービスに良品計画社の極めて高い知名度のある「無印良品」の商標や商号などのビジネス標識と同一の標識を使用する場合、商標のライセンス情況、訴訟の有無など審査する必要がある。しかし、審査義務を果さず無関心であり、主観的な過失があるとし、合法的出所の抗弁は成立しないと認定した。
5.一審判決で確定した民事責任が正しいかどうか
二審は、控訴棄却、原判決維持を表明しているが、以下の3点を確認しているが、注目するべきは(1)項である。
(1)両北京无印良品社が会社名を変更すべきか
二審は、良品計画社と綿田社は異なる区分の商品やサービスにそれぞれ漢字で実質的な違いのない「無印良品」と「无印良品」の商標を登録しているため、認可登録範囲内でそれぞれの商標標章を規範的に使用した場合でも、関連一般大衆に誤認混同を招かない保証は難しい。そのために、実際、当事者の以前の紛争処理で、裁判所は判決で当事者双方がすでに形成された市場秩序を尊重し、それぞれの商標専用権に基づく権利行使を規範化し、できるだけビジネス標識の境界を明確にし、関連一般大衆の混同誤認を避けるように何度も警告してきたと指摘し、以前の2件の訴訟の判決では北京无印良品社が会社名に「无印良品」を使用し不正競争していると認定し、被訴侵害商品とその包装の「无印良品」の文字を含む会社名の使用停止を命じたが、当事者双方で「无印良品」の商標と会社名に関する紛争はこれで収まっていない。
また、二審は、北京无印良品社は天猫、京東で「无印良品中国公式旗艦店」「无印良品公式旗艦店」の運営、両北京无印良品社がWeChat公式アカウント、大型展示会で外国企業誘致、フランチャイズ募集などをしている状況を鑑み、両无印良品社が「无印良品」の文字と「无印良品」の文字を含む会社名を引き続き使用することを認めれば、良品計画社が中国に開設している无印良品(上海)社や各地の直営店名などと共存することになり、潜在的消費者やフランチャイジーには両北京无印良品社と良品計画社の間に投資や協力などの関係があるとより容易に誤認混同させやすくなり、関係一般大衆の識別コストを無駄に増大させるだけでなく、当事者双方の市場の境界線がますます曖昧になり、より多くの紛争を引き起こすことにもなるだろうと指摘した。そのため、両北京无印良品社は直ちに企業名の使用を停止し、変更することで、さらなる誤認混同を防止し、市場の境界線を画定し、紛争発生の可能性を下げるために必要な措置であると判断を下した。
この判断は、これまでの主体性のない判断から一歩踏込み、もうこれ以上は止めなさいとの命令となったと言えるだけでなく、これ以上の紛争は認めないとの強い意思表示と読み取ることができる。なお、以前の2件と比べて、関連商標権が商品商標権なく役務商標権であり別であること、そして、対象被告主体が北京无印良品家居社と東台徳潤社が加わったことも意味がある。
(2)綿田社と東台徳潤社は連帯賠償責任を負うべきか
表面的には綿田など3社と東台徳潤社がそれぞれ被訴侵害行為を実施しているが、実際には被訴侵害者4社は主観的に共同侵害の故意を持ち、客観的に共同で侵害行為を実施し、共同侵害を構成し、一審で綿田などの3社と東台徳潤社が連帯賠償責任を負うことを決定したことは、不当ではない。
(3)一審判決の賠償責任の適否
法定賠償適用請求に基づき、裁判所内で判断されているので、算定基礎が大きく変わるような要因がなければ覆すことは難しく、二審は、事情を考慮して良品計画社、無印良品(上海)社に50万元の経済損失を連帯して賠償する判断を下したことは不当ではないと門前払いの判断を下した。
第二審判決
以上のことから、綿田など3社、東台徳潤社の控訴理由はいずれも成立せず、一審判決は事実が明確で判決結果が正しいと認定し、維持しなければならない。中国民事訴訟法第177条1項の規定に基づき、控訴棄却、原判決を維持する。
筆者コメント:
第二審の判断は、当事者の長い係争と市場での誤認混同の問題に整理をつける立場から、被告には厳しい商号変更の命令を下した。当然と言えば当然で、以前の筆者のレポートにもあるように、本係争を知らない裁判官はいない状況であり、原告の主張は正論を主張してきているが、被告の対応は不正義、善意でないところがあからさまであることから、裁判所としては、一歩さらに踏み込んで、市場での混乱を止めさせる方向に明確に舵取りをしたと言える。特に、これまでの商品の商標権ではなかなか明確に「無印良品」への便乗(或いは、擦り寄り:攀附)と表現してこなかったところ、今回は役務商標と不正競争の観点からか便乗と明確に記載している。
今後は、本来のあるべき、信義誠実の原則に基づく、知的財産の権利化、活用へと導くことが増えていくことを期待している。行政での商標紛争については、審判業務レベルで案件規模が小さくても、もっと積極的に取り組んでほしいところである。
本件に係る法律、司法解釈など
中国商標法第14条、第56条、第57条第1、2、3項、第58条、第63条第3項
中国反不正競争法第6条第4項、第17条第4項、第18条、
中国民事訴訟法(2017年改正)の第142条
最高人民法院の民事紛争の司法解釈
最高人民法院の馳名商標の司法解釈
最高人民法院の登録商標、商号と先の権利の司法解釈
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