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中国 2021年度知的財産訴訟事件は24%増加

最高人民法院は、4月21日付、「中国法院知識産権司法保護状況(2021年)(中国法院知识产权司法保护状况(2021年))」を公表した。第一審、第二審、再審などでの知的財産権類の新規受理件数は642,968件と前年比+22.3%増加、処理も601,544件と+14.7%増加した。

(1)最高知識産権法廷事件
 2021年最高知識産権法廷の民事事件の受理は4,243件、処理は3,557件とそれぞれ前年比+22.4%、+9.1%増加した。また、行政事件の受理は2,852件、処理は2,487件とそれぞれ前年比+49.4%、+43.3%増加した。

(2)民事訴訟事件
 2021年、地方の各クラス人民法院は民事一審事件を550,263件受理し、前年比+21.1%増加した。内訳は下記の通りであるが、商標権侵害事件が12万件と+59.6%を急増し、不正競争事件も+78.3%とほぼ倍増した。特許侵害事件は+10.8%、著作権侵害事件も+15%増加している。審決は、第一審515,861件処理し、前年比+16.5%増加した。第二審の受理は前年度減少したが、+14.2%増加、処理も45,468件と+4.5%増加した。

(3)行政訴訟事件
 2021年、地方の各クラス人民法院は行政一審事件を20,563件(前年18,464件)受理し、前年比+11.4%増加した。この内、特許事件は1,810件(前年1,417件、前年比+27.7%)、商標事件は18,734件(前年17,035件、前年比+9.9%)、著作権事件は19件で前年に7件増である。第二審の受理は8,215件(前年6,092件、前年比+34.8%)、処理は7,418件(前年6,183件、前年比+20%)である。原審維持率は5,636件と76%と前年比-3%減少した。

(4)刑事訴訟事件
 2021年、地方の各クラスの人民法院は刑事一審事件を6,276件受理し、6,046件処理し、それぞれ前年比+13.2%、+9.5%増加した。その内、登録商標類侵害事件は5,869件(前年比+12.9%)、著作権侵害事件は333件(前年比+9.5%)、営業秘密侵害事件は6145件(前年比+35.6%)とそれぞれ増加している。第二審の受理は1,050件、処理は997件とそれぞれ20.8%、16.7%増加した。

報告書をみると、2021年度の特徴として以下のように点をまとめている。
①インターネット事件の持続的な増加。 2021年度のインターネット知的財産権事件は66,148件(前年比+6.6%)と毎年増加しており、また新型、複雑、難しい事件になっている。また、インターネット事件特有の侵害や隠蔽のしやすさと証拠収集の難しさがさらに複雑な事件にしている。
②新しタイプの紛争の増加。近年の新技術、新業態、新モデルの発展と情報通信、集積回路、人工知能及びプラットフォームビジネスが、技術の事実認定と法律の適用の複雑さや難しさを拡大しており、2021年ではバイオ技術、ネットゲーム、ネット放映などを含め注目された。
③公共の利益に関する事件の増加。個人の権利保護と公共の利益のバランスをとる事件が増え、商標の悪意登録など権利確定や競争秩序の維持などに関する事件も注目される。
④刑事保護の増加。ゲームなど技術的手段を利用した知的財産権犯罪が現れて、刑事と民事が交差する難しい事件が起きている。2021年3月の刑法改正以降、知的財産犯罪の対応を強化し、商標の虚偽表示、著作権侵害、営業秘密侵害などの事件で権利者と消費者の合法的権益の保護、市場秩序の維持に刑事での対応が重要となっている。

最高人民法院は記者会見で以下の2021年の知的財産権司法保護の特徴と状況を説明した。

1.知的財産権の司法保護をさらに強化
「立証難、低賠償、高コスト、長周期」などの問題に対して、法に基づき証拠阻害排除、証拠保全などを積極的に適用して権利者の立証負担を軽減し、懲罰的賠償の適用などにより賠償額を継続的に引き上げ、2021年には895事件で権利侵害者に懲罰的賠償を科した。また、小額訴訟手続、通常手続と二審の独任制(合議体でない)及び「判決先行+仮処分」などの裁判方式を適用し審理期間を短縮化した。最高人民法院は知的財産権の刑事事件に対する指導を強化し、民事、行政、刑事の「三合一」改革を着実に進め、知財保護における刑事の重要な役割が浮き彫りになった。

2.知的財産権司法保護基準のさらに統一
 2021年、「知的財産権侵害民事事件の審理における懲罰的賠償の適用に関する解釈」、「登録出願中の医薬品に関する特許権紛争民事の審理における法律の適用に関する若干の問題に関する規定」、「植物新品種権侵害紛争事件の審理における法律の具体的適用に関する若干の問題に関する規定(二)」、「中華人民共和国反不正当競争法の適用に関する若干の問題の解釈」を公布し、現在、独占禁止法の適用に関する司法解釈、著作権民事事件の審理、知的財産権刑事事件の法律適用に関する司法解釈の制定を検討している。また、中国法院の知的財産権保護10大事件及び50件の典型的事例で、懲罰賠償、インターネット上の知的財産権保護、独占禁止と不正競争防止、品種知的財産権の司法保護の36件の典型的事例を発表し審理の統一のために共有した。審理では「二選一(二択)」などプラットフォームを含む新しいタイプの事件に対応し、新技術、新産業、新業態、新モデルの知的財産権保護司法の需要に積極的に終結した。今後は、データ、人工知能、遺伝子技術などの新分野の新業態、アルゴリズム、営業秘密、人工知能の生産物、オープンソーにおける知的財産権の司法保護規則を整備する。

3.知的財産権の司法保護メカニズムのさらに改善
 最高人民法院は、「人民法院による知的財産権司法保護計画(2021-2025年)」と「新時代の知的財産権審理業務の強化に関する知的財産権強国建設に有効な司法サービスと保障を提供する意見」を公布し知的財産権の司法保護に関する目標、任務と措置を明確化、「第一審知的財産権民事、行政事件管轄に関する若干の規定」と付属文書「基層人民法院が管轄する第一審知的財産権民事、行政事件の基準に関する通知」を公布し知的財産権事件での司法資源の配置が各級裁判所の審査・各級職能の位置づけと一致することを確保した。最高人民法院知識産権法廷が3年間運営され知的財産権裁判所の模範となり知的財産権専門裁判能力が著しく向上した。また多様な技術的事実を究明するための「全国法院技術調査人材バンク」はすでに450人以上の技術専門家が収録され30以上の技術分野をカバーしている。

4.知的財産権の司法保護に重要かつ不可欠な役割がさらに際立
 知的財産権強国建設要綱に基づく行政保護と司法保護の協力関係の形成のために、知的財産権行政部門と行政法執行基準と司法裁判基準の統一を推進し知的財産権の全チェーン保護を強化、国家知識産権局や国家独占禁止局と交流連絡メカニズムを確立し行政法執行と司法審判の有効な連携を推進した。国家知識産権局と共同で設立した「総対総」のオンライン調停業務メカニズムを十分に発揮させ、各地の裁判所は知的財産権紛争事件の訴訟前調停を2万件以上委任した。また、国家漢方医薬管理局などの部門との業務協力関係を強化し、漢方医薬の特許登録特別規則と特別保護メカニズムの確立を推進した。

5.知的財産権の司法サービスが知的財産権強国建設の保証にさらに役割発揮
 新型コロナ流行の影響を克服するため、人民法院はインターネット、ビッグデータ、人工知能、ブロックチェーンなどの情報技術を駆使し、5GやARなどの現代技術を積極的に利用しオンライン訴訟を行い、「閉廷なし」立件、「クラウド」審理、「オフラインなしの」執行を実現した。そのほか、技術イノベーションと産業のグレードアップを促進のため、職務発明権属紛争の判断基準の明確化;商標模倣フリーライド、馳名商標、伝統的ブランド、古くからのブランドに対する司法保護を強化;創作者、著作伝播者の著作権上の合法的権益を維持;独占禁止と不正競争防止の司法保護強化、国際司法交流協力による国内外の法治の統一的に推進と積極的な中国の声の発信による世界の知的財産権管理に貢献することを継続する。

参照サイト:https://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-355841.html
https://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-355851.html

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