初めてクイズ大会に行く人へ ~クイズ王は何を考えているのか
※この記事は、競技クイズ未経験の方や、競技クイズの大会に初めて参加される方に向けた解説です。また、内容は筆者主催のボカロクイズ大会「ボカクイ2」の公式サイトに掲載した文章とおおむね同一です。
はじめに
きぐなと申します。ボカロが好きなクイズプレイヤーです。2024年11月4日にボカロのクイズ大会「ボカクイ2」を開催する予定で、その準備にいそしんでいます。
この記事は、初心者が安心してクイズ大会に参加することができ、また少しでも勝ち上がるチャンスをつかめるよう、クイズの基礎的な知識と攻略方法について解説したものです。
最終的には、テレビでクイズ強者を見たときの
「なんでこんな早く押して正解できるんだ?」
という疑問を解決することを目指します。
2020年に開催した「ボカクイ」では、競技クイズ初心者の方にも経験者の方にもたくさんご参加いただきました。今回もきっとそのようになると思われます。しかし、経験者に対して、全くの初心者が事前知識もなしに挑むのは難しいかもしれません。
そこで、初心者の方がクイズ大会で活躍できる可能性を上げるため、競技クイズの概要や、知っておきたい問題の前提知識について解説させていただきます。
あくまで「初心者がガチ勢にビビらなくて済む方法」という感じのアドバイスであり、「やるからには勝ちたい!」「1問でも多く答えたい!」という方に向けたものです。決して、ここに書かれたこと覚えなきゃダメとか、対策しなきゃ勝てないとかいうものではありません。
必要な方はご一読いただけると幸いです。もちろん、このチュートリアルをスキップしても構いません。気楽に大会に臨んでください。
問題文について
まず、競技クイズでよくある問題文の形式を簡単に紹介します。難しくないので、基本的な構造を理解しておきましょう。
大きく分けて「普通」と「パラレル」の2種類があります。
普通の問題文
ここでは答えが「米津玄師」になる問題を使って説明します。
あくまで例なので、問題自体のクオリティには目をつぶってください。
ボカロPとしては「ハチ」の名義で活動していた(前フリ)、代表曲に『アイネクライネ』や『Lemon』があるミュージシャンは誰?(後フリ)
「米津玄師」が答えになる問題を作るとしたら、このような感じです。
問題文において1つのまとまった情報、いわば短い説明文のことを「フリ」といいます。
基本的に、問題文は前半の「前フリ」と後半の「後フリ(落とし・後限定)」から構成されます。前フリではあまり知られていない情報を入れ、後フリでより有名な情報を入れます。つまり、問題文の後ろにいくにつれてより答えやすくなります。
ボカロP時代に「ハチ」と名乗っていたミュージシャンは誰?
これだけでも問題としては成立しえますが、これほど短い問題文はほぼありません(このように1つのフリで出題する場合は、文頭に「ずばり、」をつけることが多いです)。通常、フリの数は2~3個です。
フリに使う情報次第で、いろいろな問題文を作成することができます。長さも自由自在です。
2018年の紅白歌合戦に初出場した際は、自身の故郷・徳島県にある大塚国際美術館から中継を行った、そこで披露された楽曲『Lemon』で知られるミュージシャンは誰?
次に挙げるアルバムをリリースしたミュージシャンは誰?
『diorama』『YANKEE』『Bremen』『BOOTLEG』『STRAY SHEEP』
(このように前置きから始まる問題文もまれにあります)
その多才ぶりから、ねこぜなおとこ や フィンダーおじさん といった人物が『彼になりたい』という楽曲を発表している、イラスト本『かいじゅうずかん』からファッションブランド・LOEWEとのコラボまでマルチに活躍するミュージシャンで、彼の活動の原点ともいえるニコニコ動画では「ハチ」という名義を用いていたのは誰?
(ちょっと無理やりですが、こういうトリッキーな問題もありえます)
パラレル
特徴的な形式として、「パラレル」があります。いわゆる「ですがクイズ」のことです。
日本一高い山は富士山ですが、世界一高い山は何?(答え:エベレスト)
一昔前のバラエティ番組だったら「富士山……ですがァ~!」と意地悪な引っかけ問題として読むでしょうが、競技クイズにそのような引っかけ問題はありません。引っかけようとしているのではなく、共通点があって似ているものを並べているだけです。
「日本一」と「世界一」が違う部分なので、「[日本一!]高い山は富士山ですが、」とキーワードを強調して読み、パラレルだということをわかりやすく読む方法が主流です(もちろん読み方も人それぞれです)。
ただし、現在は流行りが終わったのか、パラレルでの出題頻度はあまり高くありません。
引っかけ問題は出ない、マジで
つまり、ほとんどすべての問題は「普通」に聞いてきます。
99.9%の出題者は「正解してほしい」と思ってクイズを出しているため、あえてひっかけるような意地悪な真似はしません。そのため、疑心暗鬼になって裏をかく必要は全くありません。ストレートに問われているので、ストレートに答えればおのずと正解に辿り着けるようになっています。
クイズプレイヤーは何を考えているのか?
何を答えたらいいんだ
クイズ初心者の悩みとしてよくあるのが、「問題文が何を聞いているのかわからない」というものです。テレビで見るクイズ王たちの早押しに「まるでエスパーだ」「何をどう推測したら正解に辿り着けるんだ」と戸惑うこともあるでしょう。
クイズ王たちの頭脳は本当に優れていますが、決してエスパーではありません。問題文から何を聞かれているのか予測できるのです。クイズプレイヤーは常に「この問題文は何を聞いているんだろう」と推測しながら問題を聴いています。
「最後まで聴かなきゃ何を問われてるかわかんなくない?」と思われるかもしれませんが、ある程度パターンが定まっているため、推測が可能です。
それに、できるだけ早く答えないと相手に先を越されてしまいます。推測に長けたクイズ経験者の方たちに勝つためには欠かせない前提知識です。ここでは、最も重要な理屈について説明します。
「ストレートに問う」とはどういうことか
また米津玄師の問題文を例に説明しましょう。
ボカロPとしては「ハチ」という名前で活動していた、代表曲に『アイネクライネ』や『Lemon』があるミュージシャンは誰?
これが一般的な問題文です。上でも説明したとおり、この問題文は2つの「フリ」(短い説明文)から構成されています。
ボカロPとしては「ハチ」という名前で活動していた
代表曲に『アイネクライネ』や『Lemon』があるミュージシャン(は誰?)
どちらの文も、主題(主語)になるのは「人の名前」だということがわかります。「ボカロPとして○○する」「活動する」のも「代表曲がある」のも(物ではなく)人なので、人の名前が答えです。
米津玄師は、ボカロPとしては「ハチ」という名前で活動していた。
米津玄師は、『アイネクライネ』や『Lemon』があるミュージシャン(である)。
なので、①の「ボカロPとしては『ハチ』という名前で活動していた」の時点で押したとしても、ほぼ確実に(9割以上の確率で)「米津玄師」が答えです。
もっと言えば、「ボカロPとしては『ハチ』という」まで聞けば、その続きは「~という名を名乗っている」みたいな言葉が来ることが予測でき、「ボカロPとしては『ハチ』と名乗っていた人を聞いているのだろう」と想像がつくので、「米津玄師」と答えられます(※あくまでこの問題文の場合であって、一概にそうとは言えません。後述)
というわけで、
「なんでこんな早く押して正解できるんだ?」
という問いの答えとしては
「文章のつながり的に、それが答えになるから」
ということになります。
引っかけ問題はないぞ(3度目)
そして、こういう問題文はありえません。
ボカロPとしては「ハチ」という名前で活動していた、代表曲に『アイネクライネ』や『Lemon』があるミュージシャン・米津玄師のデビューアルバムは何?
ボカロPとしては「ハチ」という名前で活動していた、代表曲に『アイネクライネ』や『Lemon』があるミュージシャンといえば米津玄師ですが、彼のデビューアルバムは何?
何度でも言いますが、競技クイズには文構造で惑わす意地悪引っかけ問題はありません。上2つの答えは『diorama』ですが、どちらも「米津玄師」の修飾部が「ボカロPとしては~ミュージシャン」と長すぎるため、その間に押した人が「米津玄師」と誤答するリスクが大きいです。あまり良くない問題文です。
※ただし、「米津玄師」が答えになると予測されるのは「ボカロPとしては」という書き出しの影響が強いです。
例えば「かつて『ハチ』という名前で活動していた米津玄師が、初めて現在の名義で発表した楽曲である、…」という問題文も十分に考えられます。このあたりは修飾部の短さや作問者ごとの文体によって変わってきますので、「この始まり方は絶対に人の名前が答えになる」などと断言することは難しいです。
クイズ王に訊いたほうがいい
問題文にもいろいろなタイプがあり、「どうしてそれが答えになるのか」と逐一解説すると途方もないのでここでは解説しません。ガチで 深く研究したい方は、QuizKnock・伊沢拓司さんの『クイズ思考の解体』という本にめちゃくちゃ詳しく書いてあるので、こちらをどうぞ。
もっと手軽に見られるものだと、「クイズ王は問題が読まれている間、何を考えているのか?」というQuizKnockの動画が参考になるかもしれません。演技が若干素人くさいのは置いといて、思考の過程としてはリアルにこういう感じです。
もちろん、瞬時にここまでいろいろなことを考えられるわけではありませんが、常に「この問題では何が答えになるんだろう」と推測しているのは変わりありません。人の名前なのか、物の名前なのか、用語なのか、年号なのか……。その作業と同時に、自分の脳内にある知識の引き出しから必死に答えを探し出すのです。
とにかく、早押しクイズに答える上で重要なのは、以下の2つです。
読まれている文の続きと、問われているもの(主題)を常に考える。
引っかけ問題ではないので素直に答えればよい。
あとはクイズに触れるうちにさまざまな問い方をしている問題文に出会い、だんだんこの思考法に慣れていきます。それと同時に知識を蓄えていけば、おのずとクイズの実力はついていきます。
クイズに慣れる方法
最近は競技クイズがある程度普及したおかげで、クイズを身近に、手軽に楽しめるようになりました。いくつかの方法を紹介します。
①「QuizKnock」や「カプリティオチャンネル」といったクイズ系YouTuberの動画を見る
競技クイズ経験者たちがクイズで遊んでいる動画チャンネルは、ここが2大巨頭です。ふざけまくった企画も多々ありますが、クイズの文法や雰囲気はここで掴めるでしょう。
②「みんなで早押しクイズ」をプレイする
通称「みんはや」と呼ばれる、無料のクイズゲームアプリです。「ランダムマッチ」と「フリーマッチ」の2種類のモードが用意されています。
「ランダムマッチ」では、全国の対戦者と1対1もしくは4人対戦で早押しクイズが行われます。レートの近いプレイヤーとの同時対戦です。問題ランクはA・B・Cの3段階があって、初めは最も易しいCランクが出題され、レートが上がるにつれてBやAの問題が出るようになります。
「フリーマッチ」では、全国のプレイヤーが(主に)自作問題を公開していて、ルームに集まった人とリアルタイム対戦ができます。ただしユーザーの自作なので、ジャンル限定がほとんどで、クオリティは保証されていないので注意が必要です。
まずは「ランダムマッチ」で、早押しの感覚を養っていきましょう。「最後まで問題聴いてたら負けるな」「ここで押しても答えられるのか」「わかると思って押したけどわからなかった」といった感じで、なんとなくわかってくると思います。
③クイズができるお店に行く
最近はお店で早押しクイズが体験できるようになりました。ボードゲームや謎解きのお店とはちょっと違って、クイズを専門に提供しているお店です。
「クイズとかよくわかんないけど、楽しそう!」という初心者が行くにはかなり適しています。初心者の方でも気軽に楽しめる環境が整っていますし、実機の早押しボタンの感触と生の問読みを味わってみると、こんな感じなんだ!というのがわかると思います。
代表的なお店が「クイズバー スアール」です。バーとありますが、未成年でも、小学生でも大丈夫です。現在は池袋、秋葉原、名古屋、大阪の4か所に店舗があります。他にも、東京都文京区の江戸川橋には日本初のクイズ専門店「QUIZ ROOM SODALITE」があります。
ちなみに、ゲームセンターにある「クイズマジックアカデミー(QMA)」は、競技クイズとはまた違った形式の問題が出題されるので、ご注意ください。
④クイズ大会に参加してみる
ややハードルは高いかもしれませんが、実際にクイズ大会に参加してみるのも手です。
クイズプレイヤーなら誰もが知る「新・一心精進」というサイトがあります。ここには全国で開催されるクイズ大会の情報がまとめて掲載されていて(もちろん本大会も掲載済み)、各大会の公式サイトへとアクセスすることが可能です。
歴戦の猛者たちが集う大会もありますが、初心者向けあるいは初心者限定の易しい大会もあります。詳細は「今後の大会詳細情報」のページや大会公式サイトにあるので、チェックしてみてください。もしご近所で面白そうな大会が予定されていたら、事前にエントリーしたうえで参加してみましょう。負けてしまっても大丈夫です。観戦するのも楽しいですし、「次はこうしよう」と対策もできますからね。
なお、上級者たちの様子を見学しに行っても構いません(見学だけの参加が可能な大会は限られますが)。
おわりに
「クイズ初心者だけど、参加するからには頑張りたい!」という方のためのアドバイスとして、早押しクイズの攻略法をお伝えしました。ここまでお読みいただいたということは、それなりにやる気のある方ですね。
少し込み入った話もしてきましたが、クイズ大会を主催する身としては、難しく考えることなく気軽に参加していただきたいというのが本心です。
結局は「習うより慣れよ」という言葉に尽きるのですが、ご自身のできる範囲で構いませんので、ぜひ実践してみてください。
そして、もしご興味があれば、ボカロのクイズ大会「ボカクイ2」に参加してみてください。ボカロが好きなら、初心者の方でも楽しめるイベントです。
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大会公式サイトから参加・見学のエントリーをお願いいたします!
(エントリーには期限があります!お早めに!)
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。