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巨大モンステラを部屋の中で植え替える春

桜もはらはらと舞う、まさに春の陽気。
世は春休み最終日、街は行楽で賑わっている。
さてそんな中、本日無事晴天に恵まれて春の一大イベント「観葉植物大植え替え大会」が開催された。
本紙は大会会場への潜入に成功。
本日はその模様を、大会の長年のファンの皆様に、どこよりも先にお届けしようと思う。

大会の概要はいたってシンプル。
我が家にある観葉植物たちを大きい順に並べ、それらをひとつずつ大きな鉢へとそれぞれ移動させる、ただそれだけだ。
真新しい大きな鉢が到着したことが、本日急遽開催となった理由。
大植え替え大会は僕の一年の大きな楽しみのうちの一つである。
日々何の気なしに眺めて水をやっている彼らを一年ぶりに改めてよく見ると、この一年間での彼らの成長ぶりがよくわかる。
「おいおいあんまりでかくなると部屋が狭くなるだろ〜〜」なんてちょっと困った風を装いながら鼻の穴を膨らませて、植物たちをひと回り大きな鉢に移し替えてやる作業はなんだか誇らしいような嬉しい気持ちにもなるし、時間の経過を感じさせられてちょっとセンチメンタルな気持ちにもなる。

だがそんな植え替えという作業、これがかなり大変な仕事なのである。
ちょっとした家具の配置換えだったなら大したことではない。
せいぜいちょっと重いとかほこりが出るくらいだろう。
今回の相手は観葉植物。
彼らは植物であり、れっきとした生物である。
何せ、大量の土、絡み合う根っこ。
鉢の中は行き場を無くした根っこが所狭しと詰まり、傷つけないように取り出すだけでかなり大変なのだ。
そしてやつらは鉢の重さも含めると相当に重い。
普段から世界を守るために筋トレをしているこの僕でも汗をかきヒーヒー言いながら鉢を持ち上げることになる。
しかも、今回の会場は大したベランダもない一人暮らしの狭い部屋。
そのど真ん中にどうにかスペースを確保しての開催なのだ…。
厳しい戦いになるだろうことは誰もが予想できた。

目標はとにかく土をこぼさないこと。
試合開始を告げる撃鉄が落ちる。バーン。

まずはアベンジャーズさながらに部屋中に散らばる観葉植物たちを部屋の真ん中に一同に集結させ、背の順に一列に並べる。
背の順というか、鉢がでかい順だな(「背の順」って久しぶりに言ったな)。
そしてその一番左に、今日届いた大きな鉢を置く。
これで準備完了。
さながら開会式といったところだろうか。
ここから先は一つずつ、大きな鉢へ引っ越しをさせていくだけである。

まずは部屋にある植物の中で一番大きなモンステラから。
こいつはでかくなっているというか、なんかもう今の鉢から逃げ出そうとしている。
「ガジュマルが人間っぽくてカワイイ」という定説にはもちろん僕も賛成だが、モンステラも相当に人間っぽい。
相当に人間っぽいんだけどモンステラの場合は「人間っぽくて怖い」だ。
ほっといても巨大になるし、茎が結構クリーチャーっぽいし、こいつからは「あわよくば鉢から逃げ出してそのソファーに座ったろうか」という意志すら感じる。
家主の座を狙っているのだ。恐ろしいやつである。

まずは彼を古い鉢から抜く。
これがまた大変な作業になる。
なんせもう鉢が倒れそうなくらい茎と葉っぱの部分が大きくなっているのだ、中の根っこがどれだけ豊かに育っているか想像するのは難しくない。
ミッチミチに詰まった根っこに竹串を挿し、少しずつ土を柔らかくほぐしていく。
乾いていると全く抜けないので、水で土を湿らせる。
竹串はどう考えても鉢の底までは届いていないので、指の限界まで土の中へ。爪に土が入る。
ようやくモンステラがグラグラと揺れだし、鉢から抜ける気配を感じる頃にはもう汗ダラダラである。
そうしてついにその時がやってきた。
モンステラがスポッと鉢からぬけ、綺麗に鉢の形そのものになった根っこが現れる。
そしてその瞬間、周囲についていた土や石のかけらがクラッカーさながらに飛び出してくる。ババーン。
相当に力を込めて引っ張っていた僕は、突然の噴火に全く対応できない。
ボトボトっと悲しい音を立て、狭い一人暮らしの部屋のフローリングの上に湿った土と根っこのかけらが広がる。
「あーあ。」
誰が見ても同じセリフをいうだろう。
こうして「土をこぼさない」ミッションはあっけなく失敗した。
しかしここで戦いを止めるわけにはいかないのが戦士の定め。
左手には掴んだモンステラ。
こいつを早く次のでかい鉢に移さねばならぬのだ。
バラバラとなおも根っこからこぼれ落ちる土。土というか泥。
周囲に甚大な被害を与えながら無事ひと回り大きな鉢の中に収まるモンステラ。
その姿はまさにハルクそのもの。
新しい土が多少床にこぼれても最早どうでもいい。
床に被害が出るのはもうしょうがない。
とにかくパラレルギャラクシーからやってきたこの巨大怪獣を宇宙に返さなくては。
モンステラと鉢の隙間に新しい土を入れていく。
鉢に新しい土を詰め終え、手で隙間ができないように押しつける。
巨大なモンステラがきちんとバランスを保てるように、土台となる土を整えていく。
平行宇宙のゲートが開いている間に向こうの世界に返さないと。
最後に水をやり、土と根っこを馴染ませる。
ふう…。
こうしてアベンジャーズ1のアイアンマン並の仕事を終えた僕は、達成感と共に床に座り込む。
市民の拍手が聞こえてくる。
ああ、終わったぜ…。
安堵のため息と共にふと目を部屋の中心にやると、そこには一列に整列させられた残りの観葉植物たちが順番を待っている。
あ、忘れていた。
そう。アベンジャーズに休む暇などないのだ。

何はともあれ、無事新しい鉢に移動させられたモンステラ。
大きな鉢の中にしおらしく収まっているように見える。
でも油断してはいけない。
なんせこいつはみるみる間に巨大化して、家主であるこの僕の座を脅かそうとするのだから。

また来年植え替えをする時を楽しみに、そして本当にこれ以上デカくなられたら困るなあと少し恐れながら、僕は部屋の片隅にモンステラを戻すのだった。

まじでそろそろ場所どうしよう。

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