見出し画像

大人の階段のぼる【2022年の五悦七味三会を振り返る⑦】

銀座という街を歩いています。
あまりこの辺りに来ることはないんだけれど、やっぱり夜の銀座は異常に華やかでギラついている。
「ああ、これが東京なんやなあ」と言いたくなる。関西出身じゃないけど。
そこかしこに優雅に歩く、絵に描いたような着物姿のママ、光る黒塗りの高級車、社長さんと思しきスーツを着た男、取り巻きのドレスの女性たち、胸元に輝く宝石たち。
今日はたまたまこの辺りで用事があったので、帰りに行きつけのアパレルショップの春の新作でもチェックしようかと、銀座の大通りを闊歩する。
宝石が輝くハイブランドのブティック、クリスタルが煌めくクラブにバー。
ああ、銀座の目抜き通りはいつだって僕を主人公にしてくれる。
雑居ビルにひそむ高級お寿司屋さんに高級クラブ、そのボディガードの男。
ウキウキしながら辿り着いた大通り沿いのお気に入りの洋服屋で無事、春の新着アイテムを手に入れた。
店を出て再び目抜き通りを行く僕の頭の中ではジャズとシャンパンが祝杯をあげている。
銀座の夜、そして今日も僕の期待に応えてくれた行きつけのアパレルショップのセンスと変わらない接客に乾杯をする。
明日早速着てみようかななんて考えるとワクワクしてくる。
ありがとう、ユニクロ銀座店。

カットソー990円也、毎度ありィ!!!
いつか銀座を闊歩する方の人間になることなんてあるのだろうか。

そういうわけで、今回からついに「七味」に入りました(やっと)。
2022年に食べて美味しくて心に残っているもの7つを紹介(自慢)するコーナーである。
行ってみよう。

七味①:ちょい緊張したカウンターのお寿司

そんなわけでいつまでたっても銀座の街を闊歩する人間になる気はしないけれど、そろそろ僕も「いい大人」になっていきたいと思っている。
…うん。そう思ってはいる。
というか考えてみれば、ある程度自分の時間を自分で使えて、自分の稼いだお金を自分の裁量で使えて、夕飯に誘ったら来てくれるくらい予定に融通がきく友人が何人かいて…そんな状況ってもしかして今しかないのでは?とふと思ったのだ。
例えばどんどん友人たちが結婚していくと(実際にどんどんしているわけだが)なかなかフットワーク軽く出てくることもできないだろうし(僕なんかと飯に行くよりも大切なものができるのだから当然である)、そういう友人に話を聞けば、自分だって好きにお金と時間を使えるのはこのライフステージのうちなのかもな、と思う。

だとすれば、少し背伸びをして、いつか行ってみたかったレストランに行ってみるって、今しかできないのでは?と。
多くの大人が「僕も若い時は遊んでたなあ〜」と遠い目をして懐かしく語るその季節は、僕にとっては今なのでは?と。

「回らないお寿司やさん」というのは、いつだって僕の心の中にある憧れのレストランだった。
予約を入れたのは都内も都内、綺麗なビルの上の方にある回らないお寿司屋さん。
メニューはコースのみ。
一番上のコースは流石に調子に乗りすぎなので、真ん中を予約。
決してチキったわけではない。

まず入店して感じるのは、信じられないくらい「店が清潔」だということ。
一枚板(多分)のカウンターは本当に綺麗な色だし、大将(と思われる人)の包丁は剣豪の名刀のようだし、白い割烹着もノリがきいていてパリッとしている。

ちょっとでも無礼があれば追い出されるのではないかとビクビクしていた自分は、大将の優しい口調に安堵する(もちろん前夜に必死に「お寿司_マナー」で検索をしたことは秘密である)。
「苦手なものはありますか?」
そうか…。本当にいいお寿司屋さんは僕のような初心者にも優しいものなのだ。
「特にありません」と澄まして答えるとまずはお通しが運ばれてくる。
まずはその器の美しいこと。お料理の可愛らしいこと。
「舌鼓を打つ」とはまさにこのことだな、と思いながらお通しをいただき、握りを待つ。
あんまりベラベラ喋っていると粋じゃないという気がして無口になる僕。
どうすれば粋に見えるか、なんてことを考えている時点で無粋である。

大将の美しい手捌きで握られたお寿司はどれもそれはそれは美味しかった。
回転寿司とはやっぱり違うんだな、と、そんな感想しか出てこない自分が恥ずかしい。
(ちなみに中でも美味しかったのは、ぶり、えび、さんま、マグロ。)
どれも宝石のように美しかった。

ふと隣の席におばさまが一人。
ふらっと現れて「予約はしていないんだけれど、おまかせで握ってくださる?」と。
な、なんてかっこいいんだ…(雷鳴)。
見惚れているとこちらを向いて微笑み、会釈をしてくださった。
なんだか全てを見透かされた気がして恥ずかしい。
僕のやりたいことリストに「一人でふらっと回らないお寿司屋さんに入って握ってもらう」が追加された瞬間だった。
でもそれが「やりたいことリスト」に入っていて、よし、明日の昼に「ふらっとお寿司屋さんに入って握ってもらう」をやるぞ!なんて思っている時点で全くダメなんだろうな…。

どうやら大人への階段はまだまだ長く、険しく、そして楽しいもののようである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?