大学時代の嫌いな同期
過去記事をアレンジしました。リメイクどころじゃないかな(笑)
高校までサッカーをしていたが、大学で突如演劇部に加入した。それは彼女が欲しいという打算以外の何物でもなかったが、結果としてはまるで女子とは無縁だった演劇部に終わる。
そこにはどうしても肌の合わない高山という男がいた。大学1年の秋がいわゆるデビュー戦になるのだが、先輩が書いた脚本が稚拙で、そのキャラクターを演じるのがたまらなく嫌だった。
医者の話を、主人公が聴き耳を立てていて、自分が末期癌だと思い自棄になる主人公、でも実はこれから何かの祈願に行こうとしている医者に「まっ祈願?手遅れですよ」を聞き間違えたオチ
俺は医者の役で、高山は主役に抜擢された。そもそも配役はどうでもよかった、むしろ出演したくなかった。
ただ、演劇部を舐めてはいけない。サッカーをずっとやってきた俺には文科系は軟弱なイメージがあったが、大学の演劇部は武闘派だった。
「どうだ?脚本面白いだろう?」
脚本を書いた先輩が俺にそれを聞いてくる。しかし俺はなかなかおべんちゃらが言えない性格でもある。返答に窮している時・・
「めっちゃ面白いですね!!」
そう隣で答えたのは高山だった。
高山が嫌いになった瞬間だった。
田中邦衛に田中邦衛を足して2で割ったようなやつだった。要するに田中邦衛の若いころみたいな風貌だ。
足す必要があったのかは置いておいても、高山の目はキラキラしていて、こいつは本当に面白いと思っている。真っすぐな奴だ。
俺を救って合いの手を入れてくれたわけではなく、心底そう思っているのがわかるから嫌いだし、彼が先輩に愛される理由でもあった。
夏休みも終わりかけのころ
「あ・え・い・う・え・お・あ・お」
発声練習からはじめ台本を少しずつ進めていく。先輩方も主要ではない配役で参加するので、常に一緒だったから食事会などがあるときも、同学年だけということはなかった
が、
文化祭がいよいよ差し迫る1週間前に1年生だけの宅飲みが行われた。俺はもともとお酒は好きではないので殆ど飲んではいない。高山はすでに酩酊状態になっていて酒癖が凄く悪い。
先輩がいないからなのか不意に絡んできた
「きゃらを、お前俺の事嫌いだろう?」
誰かを嫌う場合、それはどれほど隠していても伝わるものだということを学んだのはこの時だった。
「嫌いとかそういうことはないよ」
嫌いだった。100%嫌いだった。
何故こいつがこんなに嫌いか解らないけど、とにかく嫌いだった。
先輩に愛されているから?いやそれはない。あの脚本が素晴らしいという先輩たちは俺にとってはただなモブキャラでしかなかった。ほとんどの部員はモヒカンに見えていた。
恐らく生理的に嫌いなのだろう
「嘘をつくなよ」
デリカシーがないというか、ぬけぬけと入ってくるというか、小心者のくせに酒が入ると気が大きくなり、台本のさぶさに気づかない癖に自分に向けられてる敵意には異常なまでに敏感なんだな。
でも俺もこっちの領域にはいってこなければ敵意は普段は出さない。
「表に出ろよ」
喧嘩をしたいのかな?酩酊状態の高山、殆ど素面な俺。もともとはサッカー部だし、もやしっ子のような高山。喧嘩になるとは思わないけど言われるまま外に出た
「きゃらを、俺はお前と友達になりたいんだ」
先輩の台本と同じようなチープなセリフを吐かれた時。先輩の脚本が面白いと言う高山の思考回路に合点がいく。
二人以外そこには誰もいない。何に巻き込まれたかわからないまま、こいつの言いなりになって外にでていることに段々腹が立ってきて
「その、申し出は却下だ」
「なんでだよ。なー俺を殴れ」
こいつには文法は無かった
こういう暑苦しい人間は嫌いじゃない。スクールウォーズを何回も観ていたし、見るたびに同じ場面で毎回泣ける。もともとサッカーをしていたし、精神論は嫌いじゃない。だけどこいつは嫌いだった
「意味がわからない」
「俺もお前を一発殴る」
古い!古いぞお前。どこのなんの三流ドラマを見て青春を履き違えたのかはしらないが、俺にとっては迷惑至極。
そうこうしていうるちに高山は泣きだした。
「演劇部のメンバーとは1つになりたいんだ」
正直に言うと、泣かれると弱い。少しだけほだされてしまった。
「まず俺から殴るから、そうしたら今度はお前が殴り返してくれ」
どこでどう入れ替わったのかがわからない。
何故、お前が先行になるのだ?けど埒が明かないし、正直、高山のパンチは痛くないだろうと思った。
それはサッカー時代散々コーチにはなぐられてきたから、ある程度は慣れている。俺も間抜けだけど頬を高山の方に向けた
ぼこっ
「いだっ」
痛かった。痛いじゃないか。痛いじゃないかね、頬だから腫れるとか歯が折れるとかもなくきれいに殴られた感じはあるけど、痛さはある。
「さーお前もなぐれ」
そういうと高山はドヤ顔で頬を俺の方に向けてきた。その瞬間俺の中で何かスイッチが入ってしまった。
差し出した左の頬に俺の右手がカーブを描きながら飛んでくると思っている高山。それが本来のセオリーなのだけど、高山の描く脚本と先輩の描く脚本がシンクロしたとき
振りかざすのではなく、垂直に高山の左目付近に拳をクリーンヒットさせた。
垂直ドカーーーン
その刹那
「いだあ~~~~~~~~~~い」
今までにない絶叫を始めて聴いた。なんかしばらくうずくまってるので、放置して俺は部屋にもどった。ほどなくして高山ももどってきて場はお開きになった。
次の日も演劇の練習がある
講義が長引いたので若干遅れて練習場につくと先輩たちが高山を囲んでいた。
「どうしたんだ?高山?大丈夫か?」
先輩が高山を心配している
「誰にやられたんだ?」
犯人捜しをしている。まずい・・・昨日のことかな?俺が先輩にどやされかねない。しかし高山がどうなっているのかはわからないので、高山に近づくと、滅茶苦茶な青たんになっていた。
爆笑してしまった。
男前になったじゃないか高山!!まるで彼のことなど心配していない。心配してるのは先輩にお説教くらう無駄な時間だ。めんどくさいな・・そう思っていると
「いや・・酔っててよくわからなくて」
「!?」
高山は覚えていないんだ?
そうだよな酩酊状態だし、多少意識があれば安っぽいスクールウオーズははじまらないよな。記憶がないんだ。少し哀れに思えてきた。
「きゃらを、何かしらないか?」
そう高山が尋ねてきたとき、俺の中で何か申し訳ないと思うような気持ち。そう罪悪感か。罪悪感が生まれる、、、
事はなかった。
「お前、なんか酔って電柱に顔ぶつけてたぞ」
noteでは奇麗な事を書きがちなきゃらをではあるが、こういうふてぶてしさがきゃらをにはあった。
「そうか、教えてくれてありがとう」
えっ!?ありがとう???
ありがとう?
アリガトウ?
ARIGATOU??
この男、おかしなことを言う。
先輩たちに暖かく心配されて見事な青たんをつくるその男は、犯人を前にしてありがとうと言っている。
まだ夏の暑さが残る教室でそこにいるだけでうっすら汗をかくこの季節に、その男は、犯人を前にしてありがとうと言っている
本番中も青たんのまま出演することになり、観客に演じているところより青たんが注目されることになるであろうその男は、犯人を前にしてありがとうと言っている。
感動することさえ忘れてしまった。
というか感動していなかった。
「高山、気をつけないとだめだぞ。お前主役なんだからな」
「そうだよな・・・ごめん」
ごめん?
ゴメン?
GOMEN??
この男、おかしなことを言う。
先輩たちに暖かく心配されて見事な青たんをつくるその男は、犯人を前にしてごめんと言っている。
まだ夏の暑さが残る教室でそこにいるだけでうっすら汗をかくこの季節に、その男は、犯人を前にしてごめんと言っている
本番中も青たんのまま出演することになり、観客に演じているところより青たんが注目されることになるであろうその男は、犯人を前にしてごめんと言っている。
感動することさえ忘れてしまった。
というか感動していなかった。
なんだこいつ阿呆だな
それが素直な感想だった。
そして学園祭が始まる。先輩は高山の演技を褒めていた。俺は役になり切れていないという指摘が結構あった。
そもそも脚本自体に問題があるとは思うが、もともと演技は下手だ。先輩におべんちゃら一つ言えやしない。
それ以上に高山の青たんを見るたびに
「ぷっ」と吹いてしまう。
だが先輩たちは勘違いをしている。誰よりも名役がいるならば、
それは俺だろう。
俺は完全犯罪を成し遂げた。カミングアウトは大学を卒業してだいぶたってからの事だ。
「演技に集中できなくさせてごめんな」
そう申し訳なさそうにする高山を
少し好きになれた気がする。
でも、99%は嫌いだった。