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泣けない青鬼

泣いた赤鬼をアレンジしたショートショート
今回シリアスに書いたので音を流しながら
お読み頂ければ幸いです。(新しい試み)

俺は鬼だった
色は青だった

人間達からは嫌われているけども
種族が違うのだから人間目線で語っても
仕方がないことだ

鬼仲間では割と人情には厚い方だと思う
そんなある日、赤鬼から相談を受けた

「人間と仲良くなりたい」
それは鬼としては裏切り行為だ
他の鬼に知られたら袋叩きではすまないだろう

「どうして人間なんかと?」
「あいつら弱くてもろいくせに
 必死に生きているんだよ」

「だけどお前それは良くない思考だぞ
 考えは変わらないのか?」

「ああ、もう決めたんだ」

それを俺に打ち明けてくれた
許されることじゃない
だけど俺を信じてくれたのだろう

ならばその信頼には応えたい
でも鬼を人間が信頼するのだろうか?
色々思案をするうちに1つ思いついた

「俺が人間をいじめるから
 お前が俺をぼこぼこにしろよ」

「え?」

「そうすれば、お前は良い鬼になる」
「でも・・・・」
「なんだよ?人間と仲良くなりたいのだろう?」
「うん」
「そのくらいしないと駄目だぜ
 遠慮しなくていい。
 ただ、人間と仲良くなったら
 もう他の鬼に会ったりするなよ
 もし会っても人と仲良くしていることは
 決して言うなよ」

「わかった・・・・・」

その日、俺は人間の畑を荒らしまわった
止めに来る人間どもを投げ飛ばした
本当はビリビリに引き裂いて殺してもいいのだが
赤鬼の奴が仲良くなりたい人間だ
手加減をして程よく畑を荒らしたら
赤鬼が襲いかかってきた

「どうした?何故人間の味方をする?」
「やめろよ、人間だって必死に生きているんだ」

「なんだと貴様、ならば貴様も人間と死ね」

本気の殴り合いがつづく
手加減はするなといったけど
殴りあっていると意識が薄れていく
こいつ本気にもほどがある

ふいに殴り倒されたとき
あまりにも痛くて殴り返す時
いつもの癖でそこにあった岩を
握りしめて殴ってしまった

赤鬼の角と頭に直撃したら
それ以降、赤鬼は動かなくなった

芝居はそこで中断した
「おいっ、大丈夫か?」
しかし、返事がない

このまま放置するわけにもいかないから
赤鬼を背負って人里を離れた

息をしていない・・・・

医者鬼のところにいったけど
そこで彼の死が確定しただけだった

俺は鬼殺しをしてしまった
そんな罪状はどうでもいい
友達が死んでしまったことが
とても悲しかった

余りの哀しさにそのまま意識を失った
それからのことはよく覚えていない

気がつけば手錠をされて
裁判にかけられていた

「何故殺したんだ?」
そう問われているのがわかった

「殺すつもりはなかった」
「ではなぜ殴りあったんだ?」

俺もダメージを受けているから
正当防衛を主張はできるけど
喧嘩の理由は説明できない

赤鬼には年老いた母親と幼い妹がいる
人間と仲良くしたがっていたと伝えれば
俺の罪は軽くなり無罪の可能性もある

だけれども
もしそれが真実だとわかれば
赤鬼の母親と妹は罪に問われる
それほど人間と仲良くすることは
鬼にとっては罪が重い

そんな事を打ち明けてくれたからこそ
俺は赤鬼に協力を申し出たのだ

裁判で協力を申し出たことを主張しないのは
自分も咎められることが怖いのではない
赤鬼の家族が害されるのが耐えられない

俺が罪を被れば彼の家族はすくわれる

だけど、赤鬼の母親も妹も当然俺をなじる
なんで、喧嘩しただけなのに
殺されないといけないのか?

そのことが少しだけ哀しいけど
それ以上に彼がいない世界が哀しい
赤鬼が人間達とうまくやるならば
赤鬼の家族は俺が面倒をみるつもりだった

ずっと幼いころから
食べ物をこしらえてくれたおばさん
おじさんが亡くなった後も気丈にふるまっていた
そんなおばさんになじられるのは辛い

言い訳をしない
何も語らないと決めた

ただただ赤鬼の死が哀しい
そのことだけは伝えた
きっとその想いは裁判官にも通じたのかな
何度も本当の事があれば話せという

俺は読書好きできっと
多くの言葉を知り言葉は達者だ
だから皆から頼られるのだけど
この時の心情を語る言葉を知らない

何も語らない俺に
裁判官は重い判決を言い渡すしかなかった
罪状は「死刑」だった

人間の世界とは違い
仲間殺しは鬼の中でとても重い罪だ

時に酌量を認められる事もあるけど
言い訳しなかったのだから仕方ない

ざまーみろと言う赤鬼の妹
流石に鬼の子だと思うと
哀しさよりも少し微笑ましかった
それにそれだけ兄ちゃんが好きだったんだな
そのことを想うと泣けた

死刑は3か月後だ

唯一の心残りは俺にも母がいる
先立つことはやはり親不孝だろうな
ごめんよ、母さん

だけど守るべきを守り通さないで
生き残る事は俺にはできない

亡くなった父さんにもうすぐ会えそうだな
親父の事だ真っすぐ生きた俺を
笑って迎えてくれるだろう

死刑の方法は幸い絞首刑だ
余り苦しまないで済む
結婚もせず子供もいなかったことは救いだ

最後に真相を母親には
手紙で残そうと思ったけど
やめることにした

もし俺に酌量の余地があると思わせれば
母親は生きてる限り
息子を助けてやれなかったと
悔やむことになるだろう

そんな残りの人生を母親に
歩ませたらそれこそ親不孝だ


不思議なものだ
最期の時を迎えるときに気分が晴れている

案外そういうものかもしれない
恥じる生き方はしていない
梅雨時に珍しく空は晴れ渡っている

なんだか天が迎えてくれる気がするな
次生まれ変わるならやっぱり鬼がいいな
非力な人間になったら眼もあてられない

それを思うと赤鬼のやつ
随分物好きな思考だったな
その思考はついに理解できなかったけど
それでもあの世で再会したら赤鬼に詫びよう

死刑執行官が訪ねてきた
「最期に何か望みはあるか?」

最期にしても最期でないにしても
自分の望みなど考えたことはなかった

「母親が長く悲しまないように
 一思いに楽にしてくれ」


「わかった」

「ありがとう」

「珍しいな死刑囚にお礼を言われるなんて」

「そうか?(笑)」

どうせなら明るく逝きたい
最期に見えたお日様は奇麗だった

ありがとう

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