見出し画像

鬼ヶ島リターンズ

セイコさんの記事を読みインスパイアされました。イラストの無いショートショートを書きました。星新一賞を狙いに行くためです。セイコさん、素敵な記事をありがとうございます。

俺は子供の鬼だったんだ
あの事件の時ね

怖すぎてずっと屋敷の奥で隠れていた
あの事件とは桃太郎襲撃事件のこと

まさか屈強な父ちゃんが
斬り殺されるなんて思わなかったし
母ちゃんは犬にかみ殺された

「誰か~生きている鬼はいないか~」

と物静かになって暫く経って漸く尋ねたら
何人かの子供たちの鬼が小さい声を上げた

食べ物はない
皆でどうするか話し合ったんだ
人間達に復讐に行くにしても船もない

幸い自然の中で食べられる
山菜は僅かながらあった
ひもじい思いをしたよ

前に人間達がつくっていた
ジャガイモというものもある

でもそれは食べずに
植えることにしたんだ
俺達は人間を襲うから人間に襲われる

あの日、桃太郎はこちらからみれば
鬼そのものだったんだ

自給自足で生きよう
10人くらいの鬼の子供たちで
必死に頑張ってたんだよね
肩を寄せ合ってね

最初の1年目はなかなかうまくいかず
2年目からは割とうまく回りだした
ジャガイモを主食として少しだけ成長して
筏もつくってみた
つくったのは魚も食べたかったからね

人間達の集落を襲うつもりはない
だけど少し人間達が育てる農作物に
興味があってこっそり解らない程度に盗んだ

そこから種にして
植えたら米の収穫もうまくいった
壊れた屋敷も少しずつ再建した

桃太郎の襲撃より4年目
俺達も性欲がでてきて
早い鬼は新たに結ばれて
鬼の子も新たに産まれたんだ

俺も遅ればせながらも奥さんをもらい
子供鬼にも恵まれた

両親は失ったけど
子供鬼と微笑ましく子供鬼を
見つめる奥さんを想えば
もうそれだけで幸せだった

人間に復讐しようって鬼は
いなかったと思っていたけど
2本角のおひたち鬼が言ったんだ

「でっ?いつ人間に復讐するの?」

彼はずっと復讐を考えてたみたいだ
驚いたなぁ俺はてっきり心の角を
皆、折られていると思っていたけど

どちらかというと
復讐なんて誰も望んでいない空気だけど
おひたち鬼の主張も無下にはできない
だって俺達はもともとは鬼の子だ

多分DNAに刻まれているだろうな
だけどあの桃太郎の強さを
知らないわけじゃなし
桃太郎がどのレベルなのか?
それがまたわからないんだよね

たまたま強いのか
それともあれでモブキャラレベルなのか
その考えが拭えないのは

犬とか猫とかを仲間にするような人だから
モブキャラじゃないか?という
意見が俺達鬼の中では多かった

だとすると戦えない
それでもおひたち鬼は言うんだよね

あれはKIBIDANGOだと

KIBIDANGOとはどうも
合成された麻薬らしい
幻覚作用のあるものをもち米に混ぜて
黍の粉で覆ったものらしい

それを食べるとパワーアップする

「俺達も食べたら強くなるのか?」
「おそらくはまちがいないな」

おひたち鬼の情報分析は信頼に欠ける
どうも人間への憎悪が強すぎるきらいがある
復讐に傾く鬼もいるけども
家族持ちの鬼はどちらかというと
人間とは争いたくない

そもそもKIBIDANGOがこちらにはないし
桃太郎がどこの人かもわからない

その間も里はどんどん復旧されて
農作物も豊に実り
動物たちの飼育もうまくいき
魚の養殖にも成功した
天然ではないけどマグロも旨い
かつてないほどに繁栄しはじめていた

そんなある日
おひたち鬼が言い出した

「おい、お前たちこれを食べてみろよ」
「おひたち鬼これは?」
「ONIDANGOだよ」
「ONIDANGO?」
「そう、KIBIDANGOに対抗するものだ」

食べると幻覚作用が生まれ
一時的に強くなるらしい

「食べてみたのかい?」
「いや、まだ食べてない」
「おひたち鬼よ、まず自分で食べないと」
「それもそうだよな。」

話は分かる奴なんだけど
頭はよくないし、桃太郎の復讐で
どうも足元が見えてないな

パクッ

おひたち鬼は自ら作ったONIDANGOを食べた
正直、少し怖かった
我を忘れて暴れ出すんじゃないか?
桃太郎が襲撃してきたときの感覚が
フラッシュバックしてきた

けど、おひたち鬼はそのまま
あっけなく泡を吹いて死んだ

「死んじゃったなぁ」
「死んじゃったみたいだねぇ」

鬼たちはあっけにとられた

「復讐なんてしない方が良いってことかもね」
「そうだよね」

それからしばらく俺達は
農作物の育成、家畜の育成
里を繁栄させることに必死になった
若くして家庭を持ち子供が生まれ
その子供たちもやがて親になった

40ちょいで爺さんと呼ばれるとは
当時は10人たらずだった鬼も
200人近い状態になった
皆、畑仕事にせいをだす

水田がたりなくなれば水を引き
開墾する土木作業を皆でおこなった

やがて電気の概念も解り
蒸気機関車は効率が悪い
磁石の半導体を知り

村の隅々まではリニアでいけるので
3分くらいで誰とも会えるようになった

孫に子供ができる頃オニゲイツが発明した
インターネットは飛躍的に文化レベルを上げた

そろそろ寿命かな?という80歳を
過ぎたころ人口鬼パーツが配布されて
昔のように若返るようになった

当時は10人まで減った鬼だが
気がつけば10万人を超えていた

鬼ヶ島はびっしりだ
かつては畑だった場所には
高層ビルが立ち並ぶ

いつのまにか人様には迷惑をかけないように
という思考が鬼達にはついていた

だから住む場所が狭くても
俺達鬼は鬼ヶ島から別の地域は目指さず
宇宙を目指すようになった

月に行く事に何度か失敗したのち
月へのワープ工法も確立した
基本的に皆チップが埋め込まれて
一時期流行った紙幣の概念もなくなった

自動販売機に手を添えれば
美味しいジュースがでてくる

もはや俺の年齢も100を超える
財もそれなりに成して
可愛い孫たちにかこまれている

思うに復讐しなかったから
良かったのかもしれない
地球という星の中では
人間が未だに人間を殺しているそうだ

おひたち鬼も復讐に囚われたから
自らの命をおとしたのだろう

復讐は復讐を生む
恨みは必ず自分に突き刺さる
俺達のロケットが銀河を
脱出しようとしている今

未だに人間達は刀で
殺し合ってるレベルだ


争いは何も生まない
もしエネルギーを使うならば
それはやはり前に向けるべきだろうな

今日、末の孫娘が散歩に同行してくれた
なんかお腹がすいたなぁ

「おいじちゃん、お腹すいたでしょ?
 はい、黍団子どうぞ」

「ありがとう。おいしいね」

良ければこちらのフォローもお願いします。
■twitter
https://twitter.com/kyarakyarawoya1



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?