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中国・鳳凰のこと
※この記事は全て私の記憶に基づいており、事実と異なる可能性があります
2018年、高校2年生の夏、中国湖南省にある鳳凰を訪れた。正確には「鳳凰古城」と言われる、川に挟まれた美しい街を訪れた。昔はこの地方において政治の中心地だったため、「古城」と言われているのだろう。
母の故郷は湖南省省都、長沙である。鳳凰は、その長沙からバスで6時間ほど内陸に移動した場所に位置する。中国を離れて久しい母親は私達だけで行くのが不安のようで、長沙に住む弟(叔父)と母親(祖母)を連れて行った。祖父は昔仕事の関係でよく行っていたようで、「鳳凰?見るものないよ」と、来ることは無かった。
途中で運転手の食事休憩を挟んでバスに揺られ続け、鳳凰に到着した。小さい頃から中国には何度も行っていたが、長沙が内陸にある以外は上海や大連、廈門など、沿岸部にしか縁が無かった。
「最近は観光地化されてしまったけど、綺麗な街並みが見れるよ」と叔父は言った。
バスから降りてしばらく歩くと、特徴的な屋根瓦の建物が連なっている街が見えた。延々と続く急な階段を下りて街に入る。宿の主人が迎えに来ていて、階段にまごつく私達の前を、荷物を持って颯爽と歩いて行った。
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泊まった宿は新しく、小さいけれども綺麗だった。鳳凰はミャオ族とトゥチャ族が多く住む場所であり、宿の主人もそうだった(すみません、どちらだったかは忘れました)。
宿の主人は、民族の伝統的な暮らしをしている人はもうほとんどいないというような話を叔父としていた。実際彼も、先祖の文化に対して特別関心があるようには見えなかった。観光客が増えて稼げるようになったことや、中国が経済発展してきたことに喜んでいるようだった。
その後、母の希望で有名な作家の住処だった場所へ行ったような気がする。沈従文という名前のその作家はこのあたりが故郷なんだそうである。私は中国作家を全く知らないので、ほとんど覚えていない。ただ迷路のような街や、石を積み上げた高い壁、小さな細かい瓦などが珍しく、印象的だった。
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街は沱江(だこう)と呼ばれる川を挟んで発展しており、階段を下って川に近づくと、観光客の密度は更に高まった。
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川沿いに建物がひしめく様子には独特な風情があり、西日の差し込む姿に大変感動した。当時、カメラを持っていなかったことが大変残念である。
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日が暮れた後、ミュージカル…に分類されると思うのだが、演劇を見に行った。昼に見た作家が書いた有名な小説を舞台化したものである。
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舞台は人工的なものではなく、天然の洞窟のようなところを工夫して作ったのだと教えてもらったような気がする。驚いたことに劇は撮影可能であった。
劇の最後、赤いお守りのような袋が舞台の方からいくつか投げられた。もらえたら幸運が訪れるというもので、観客が欲しがっているのを羨ましがって眺めていると、自分の横に落ちたので喜んで鞄に仕舞った。当時は大変嬉しかったが、記事を書いている今の今まですっかり忘れていた。
実際お守りはすぐ横に落ちたのだが、少し間を開けた隣には小さな子供が座っていて、「お姉さんが拾ったんだから」と母親に言われていた。あげればよかったと思う。
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鳳凰古城の夜は至る所がライトアップされ、大変賑やかである。クラブのような場所もあり、騒がしい音楽とチカチカするライトの中で若者が集まっていた。
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川には跳石が橋代わりに設置されている。昼にも大勢が小さな石を命綱に川を渡っていたが、夜も変わらず繁盛していた。
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当時の私は今よりも更にロングスリーパーで、翌朝は案の定早起きに失敗した。鳳凰は標高の高いところにあるため、朝は霧がかかって幻想的な景色が見られるらしい。起きて川に出ると、すっきりした視界の下で観光客が賑やかにしていた。
鳳凰古城には観光スポットが徒歩圏内で点在しており、それらを全て見られるチケットが売られている。2日目はそのチケットを購入して、展示を見たり、船に乗ったり、お金持ちの屋敷だった場所を見たりした。
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建物の面積を広くするために柱を使い、川に突き出している
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この辺は観光客が少ない
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上海でも漢服を着た女性を見かけた。漢民族の文化を見直すことがブームなのかもしれない。
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賑やかな方へ戻ってきた
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庶民は城壁の中で暮らせなかったため、吊脚楼は城壁の外側で面積を広くする工夫がされている
ミャオ族女性の民族衣装に銀がふんだんに使われているように、この辺では銀製品のお店が多い。少数民族の綺麗な織物や刺繍小物も(店に限らず、道端でも)たくさん売られていて、刺繍が施された小物入れを友達へのお土産に買った。道端で刺繍をしている女性から購入したのだが、その質の高さに比して安価だった。作る手間を考えて、値切り交渉をする祖母を思わず制止してしまった。値切った額で買ったかどうかは覚えていない。
数日前に友人の家にお邪魔したのだが、彼女の部屋でその時買った小物入れを見つけ、なぜ自分の分を買わなかったのだろうと思った。
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3日目は近くにある南方長城へ行った。長城と言えば万里の長城が有名だが、南側にも短い防御壁がある。少数民族の住む地域なので、このように設置されているのだろう。鳳凰古城とは打って変わって観光客が少なく、静かだった。
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観光客は少ないが、サトウキビや水など、売り物を持った人々は変わらずいた。鳳凰古城では女性観光客に花冠を売る人がたくさんおり、こちらでも花冠を売る少年が後をついてきた。少年があまりにも小さいのでひとつ買おうか迷っていると、迷っているうちに諦めて去ってしまった。
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長城を一周して戻ると、母親がサトウキビを売る少女に「今日は平日なのに学校は無いのか」と話しかけていた。少女が何と答えたのかは忘れてしまったが、母親は1本買って「ちゃんと勉強しないといけない」などと言っていた。
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長城から古城へ戻り、帰りのバスまでしばらく時間があったので、民族衣装体験をした。観光客に物を売ろうと彷徨う人の中には、少数民族の衣装を簡単に着せて写真撮影し、その記念写真を販売する人もいた。
それまではそういった人を無視して歩いていたが、着てみようという話になり、そばにいた女性に話しかけた。女性は慣れた手つきで私の服の上に衣装を着せ、ポーズ指示を出して撮影を始めた。
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その後再び6時間バスに揺られ、長沙へと帰った。
鳳凰の近くには「張家界」と言われる有名観光地もある。本当はそちらにも行きたかったが、既に私は2学期が始まっていたので、長沙に帰るとすぐ日本に戻った。
大学受験が終わればまたいつでも中国に行けるだろうと思っていたが、コロナが出現し、それから一度も日本を出ていない。
鳳凰への旅は、私に大変良い印象を与えた。街並みは綺麗だったし、少数民族の文化に触れたのも初めてだった。日本に帰ってからも懐かしく思い返すうちに、NHK『世界ふれあい街歩き』が鳳凰に訪れていたことを知った。
NHKが記録した鳳凰は、もっと昔の鳳凰だった。
2005年に撮影された鳳凰の街を見て、自分の見た街と全く違うことに驚いた。
観光する人の姿は、ほとんど映っていなかった。
宿の主人が、「昔学校だった」と説明してくれた場所に生徒がいて、川に集まってみんなで洗濯をしていた。早朝の霧の中、川沿いでおじいさんが体操をしていた。石畳の上に座って、住民が野菜を駒代わりにボードゲームをしていた。
迷路のような街。川沿いにひしめく建物、城壁、立派な橋、怖い跳石。景観は同じなのに、全く異なる街が画面の中に広がっていた。
観光する人はいても、そこには生活が広がっていた。
川を挟んだ美しい街はぼんやりと霧がかり、普通の暮らしが静かに繰り返されていた。NHKが録ったものは、時代を経るごとにますます貴重になっていくだろう。確かに、「中国で最も美しいと言われる古城」が存在していた。
夜には願いを込めて、ランタンを川に流す様子が録られていた。建物にライトアップは無く、夜闇の中、黒い川の上をたくさんのランタンが仄かに輝きながら、流れていく。
13年の間に古城が失ったものと、得たものを比較して、複雑な感情を抱いた。もし鳳凰が、中国が2005年のままだったら、私はあそこに訪れられただろうか。私はバスに6時間乗ったけれど、「高鉄(高速鉄道のこと。新幹線のようなイメージ)が出来ればもっと便利になる」という声も耳に挟んだ。私が帰ってから5年が過ぎた。今はどうなっているのだろう。
鳳凰の記憶は、二重になって私の頭に刻まれることとなった。
美しい景観がこれからも残り続けることを願って
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