(10年程前の)失禁事件簿①
10年ほど前。僕は別の仕事をしていた。反響営業というやつだ。
その日は大雪。白いワンボックスの営業車で、郊外のエリアにさしかかった。
とても寒い。立ち寄ったホームセンターのトイレで用を足した後、自販機で缶コーヒーで暖をとる。自由に時間が使えるのも営業の醍醐味だ。
缶コーヒーをがぶ飲みして、再び営業車で走り出した。
~20分後~
そわそわ。利尿作用があるとされるカフェインを急に体に入れたせいか、早くもトイレに行きたくなってきた。しかし、周りを見渡すとなかなかコンビニは無い、困ったものだ。一度、おしっこしたいと思い込んだら男たるもの、あんまり長時間我慢ができない。
(ここは立ちしょんか・・・)
と一瞬頭をよぎったが、いやいやいや!会社のロゴが入った営業車!
「おたくの社員が車を停めて立ちしょんしてたんですけど!」
などと苦情が入るに違いない。それはまずい。これでもまじめな会社員だ。
(ならば車内に置いてあるジュースが入っていたカラのペットボトルはどうだ)
・・・いかん。決して見栄を張るわけではないのだが、そもそもペットボトルの注ぎ口って狭いだろうが。上手に【あてがえる】ものだろうか。いや、無理ではないか。というか、そんなペットボトルにあてがおうとしているサマを、仮にそこに通りかかった車高の高いトラックの運ちゃんが、ひょいとのぞいてきたらどうなるんだ。死しかない。しかし、そうこうしている間にも尿意は刻一刻と突き上げてくる。男の人はご理解いただけるかと思うが、ああなると、もう腰をくねくね動かしてごまかしたり、つよくつかんだりしてごまかすか・・・。しかしそれにしたっていっときの現実逃避だ。やばい、もれる。
そんな時。車載のカーナビ(テレビを映していた)から、CMが流れてきた。
『○○パンツでぐんぐんおしっこを吸収!』(赤ちゃん用のおむつのCM)
これだ!!!!!!!!!!
「どうして気づかなかったんだ!車内でフル○ン(手にはペットボトル)になったら窓からのぞかれるが、ズボンのまま何か吸収するものを中に押し込み、放尿するってのはどうだ!我ながらナイスアイデア!さっそく車内を見渡すと、そこにあったのは鼻をかむ用のボックスティッシュ。
そうだ。ティッシュ毛利元就作戦だ。
脳内元就「一枚のティッシュでは確かに吸収はしないのう。しかし、どうじゃ、お前たち。一枚ではビタビタのティッシュも、何枚も重ね合わせれば大丈夫じゃ。さすれば、まずはかようにティッシュを大量に手に取り、空気を含ませるのじゃ。使い切る勢いで手に取った、こんもりとしたティッシュの山。これをズボンの中に入れるのじゃ。これで、たとえ尿をたれてもたちどころにそれらが吸収するであろう!」
ありがとう元就。額には脂汗。マカレナを踊る中南米のおじさん(誰)のように腰をくねくねしながらズボンの中の股間部分におもむろにティッシュを詰めた。こんもり盛り上がる股間。しかし、ズボンをいちおうはいているので、仮に外からのぞかれても大丈夫だ。ならば迷うことはない。GOだ。
じょじょ・・・じょわー。
!!!!!!内ももに伝わる暖かい尿の感触。こ、これは全然吸い取ってないではないか。脳内元就、殺す。
そりゃあそうか。冷静に考えると、吸収ポリマーだったかそんなゲル状のやつが吸収するんだね。文系だったから気づかなかったのか(関係ない)と走馬灯のように頭はスローモーション。股間は超スピードの暴走バス。めちゃくちゃ素早く濡れていく。ありがとうキアヌリーヴス。これもおとこならわかると思うが、一度出始めたおしっこは、途中でなかなか止められない。放尿後の安堵感と引き換えに、内ももから尻にかけてもう尿まみれになってしまった。尿意が限界を超えると正常な判断ができなくなった例だ。
仕方なく30分後、途中のコンビニに寄った。片手にはカラのペットボトル。白々しく自ら頭を掻きながら、股間を気にしつつ入店した。やっちまった感すげえ出した。エチュード:【営業途中でうっかりジュースをスラックスにこぼしてしまった人】だ。
急いで、パンツを購入してトイレに入って着替えた。きっと店員からは「あーあ、あの営業マン、ジュースこぼしてパンツ買ってるよ。馬鹿だね」程度にしか思われていないだろう。ごめんね、本当は【パンツとティッシュが尿でビタビタ、その外側のスラックスも尿でビタビタのもうサイコパスおじさん】なんだ。ほんとうに申し訳ない。
とりあえずパンツを替え、エアコンMAXにして(焼け石に水)、会社に帰って、伝票を打ち込み、そ知らぬ顔で仕事をなんとか終えて帰宅した。
翌日。洗濯物を干してた妻が、見慣れぬ柄のパンツを指さして不倫を疑ってきた。
「不倫や浮気などじゃない、安心しろ。故意の放尿だ」
疑惑が軽蔑に変わっただけだった。