明けてぞ今朝は、を終えて

明けてぞ今朝はという舞台が終幕を迎えた。
昨年9月。劇団に所属していたものの休団中の私の元に、脚本・演出のイシケンさんから連絡があった。「出てくれませんか?」
当初は固辞したが、のちに再び連絡があり、結局「お願いします」と返事をした。それには理由があった。固辞した理由として、①子供がいてまた仕事も本格的に忙しくなってきており、逆に迷惑をかけてしまう ②仮にそれでもいいとしてもフルで稽古できないと他の団員に本当に申し訳ないし、周りのモチベーションを下げてしまったり、そんなふわふわした参加では自分が自分を許せない
そのようなニュアンスを伝えた。
しかし、二週間後また連絡が入った。その中で、フルで参加出来なくてもいい、稽古は途中から参加で大丈夫。決してそれを責める団員はうちにはいない、そうすればオール団員で公演ができるという旨を伝えられた。これには心が動いた。ここまでの言葉を演出に言わせてはならない。私が演出なら、「あ、大丈夫でーす」とか言って、もっとうまい役者を呼ぶだろう。申し訳なさとありがたさで胸がいっぱいになった。それは9月の終わりあたりだったと思う。ちなみにこのイシケンさん、三年前の何かの稽古の時に、「あ、誕生日ですよね、お祝いの缶ビール家に置いてきたんで!来週持ってきますね」と言ってくれたが、そのまま忘れていた事があった。それほど多忙なのだ。毎週県を超えて芝居を作りに来る、それほど演劇愛が強い。劇中でも似たようなセリフがあったが、私はこの人が書く作品が好きだ。この人の演出が好きだ。歳は私の方が上だが心から尊敬している。だからこの劇団に所属しているし、今回は出させて頂けた事に感謝している。
私は古いタイプの人間だから、演出家が絶対で自分の意見はほとんど出さないので今後とも機会があればよろしくお願いします。でも快諾した直後、公演日が次男の大学入試日だってわかってからは、(なんてことをしてしまったんだ)と一瞬思った。でも出てよかった。44歳でまさかゴキブリをやるとは思わなかった。だから、イシケンさん。缶ビールの事は忘れます。ありがとうございました。

ともかく、そんな心を知ってか知らずか稽古は始まった。もちろん稽古に途中参加だから台本は頭に入れておくべきだったが、なかなか入らない。まわりの俳優陣は当たり前だがセリフが入っている。これには参った。焦っていて演技どころではない。だが、そこに入って間もないりょうがさんを見つけた。稽古中に台本らしきものを持って演技をしている。よかった!セリフ入ってないのは私だけではなかった!……と安心したものの、それはただの劇中で使う小道具だった……。彼は既にセリフが頭に入った上でただ小道具として手に書類を持って稽古をしていたのだ。
そんなこんなでセリフを頭に入れるのに苦労している中年をよそに、稽古は続いていった。
多忙の看板女優で現代表のまゆはさん(まゆは)は私を見つけると、「すみません、本当にすみません!」と劇中のセリフをいきなりふってきてくれる。練習したいからつきあって的な雰囲気出して、実は私を練習してくれていた気遣い。私は、『お、おふう…なな、何べんも言ったねっか・・・』としどろもどろで返す。彼女はあんなにスタイルがいいのに食べることが大好きだ。覚えることに費やす時間より、さっさと体にしみこませて役作りをし、その分おいしいものを少しだけ食べて体を動かしたい、そんなタイプだ。おなかがすいているときには殴りかかってきそうな目をするが、普段は誰からも愛されるスター性を持っているし、瞬発力もある。そしてああ見えて責任感が強い。今回はくせがあまりない女の子を演じているので、代表の責任感と仕事量と合わせて本当に大変だったと思う。
重要な役どころを担っていた永井さん(なーさん)は、背が高い。当初は【背が高い天パの子】(言いかた)と思っていたが、【演劇愛が実は強い】ということが稽古を一緒にやっていてわかった。あと、視線の送り方が絶妙にうまい。あれは多分天性のものだろう。誤解を生む表現だけれども、しぐさが妙にセクシーなのだ。本当にずるい。クライマックスシーンで最後少しだけ微笑むんだけど、舞台袖から見えるそれは本当にいいシーンだと思った。でももう骨折はしないでほしいから重いものは持たないで。絶対。
りょうがさん(りょうが)はさっき触れたとおりだが、ポテンシャルが高そうだし、器用すぎる。たぶんどんな役でもこなせそう。Slackと呼ばれる連絡ツールで繰り広げられてた、イシケンさんと彼を含めた舞台美術チームの会話は、おじさん何を言っているのかわからなかったよ。ただし許せないのは、顔がいいことだ。髪の毛伸びても切っても、彼はなんで顔面偏差値が高いんだろう。ずるい。劇中の役(お金を盗んじゃう役)のせいで、正直に言うよ。本当にお金が心配になって、初日に実は私、財布が心配になりコインロッカーを使った。(楽屋誰もいない時も多いのでって事)ごめんなさい。あなたの演技力のたまものです。
そらさん(そら)は、確か初めて見た時はトライアル公演の【人の話を聞く】だった。(彼って何者?)って一目見た時にぐっときた。コメディリリーフをさせたら天才的。言葉のストックが多いし、突発的にすごく面白いこと言う。引き出しからの言葉のチョイスは才能。あと体を舞台上で動かすときのしなやかさとリズムがいい。体が硬いようには見えない。そしていつも何かを聞いている。いったいなんの曲だろう。
「イヤホン?ああ、これはAirPods的なやつっす」
的ってなんだ。君の耳には何がはいっているんだろう。
三浦さん(ポッター)は長らく劇団を支えているイシケンさんの右腕的存在。周囲への気配りも怠らず優しい。イシケンさんとの会話は阿吽の呼吸なので、だいたい私はわからない。長年連れ添った夫婦みたいだ。この人も遠くから通っているのでおそらく感覚がマヒしている、演劇熱が高い人。写真への熱量も高く、本人も出演する芝居なのに、ゲネ中に写真を撮り始めた時は本気で心配した。今回初めて役者として共演して頂いた。優しい夫を演じていたが、絶対この人は【狂気】な役が抜群に合いそう。
うららさん(うらら)はとにかく笑顔がすばらしい。(10年たっても変わらない美しさだと勝手に私は思っている)そんな顔をしているにも関わらず、恐ろしいほどストイックで常に向上心の塊。演技への向上心が常人の10倍はあるので、自分自身にとても厳しい印象。そのあおりでいつか私が怒られるんじゃないかとドキドキしている。たぶん【演劇】という二文字だけでずっと酒が飲めるタイプの人間。セリフの第一声目の透明さ加減はたぶん天性。今回も舞台袖で出番を待つ私を優しい言葉で気遣ってくれたやさしい子(一瞬怒られたかと思った)でも、ちょっと前から車の後ろがへこんでいてお父さんは心配だよ。
白井さん(しろ)は、今回一番絡みが多かった。とにかく【強い】。セリフも強いし、表現力も強い。(ん?語尾が聞こえないよ?)って事はまずない。華があるし、常に一段高いポテンシャルを発揮する。表現マシーン。気遣いがしっかりできる。きれいな顔して名コメディエンヌ。どんだけ吸収力ある頭してんだ、この子。
大崎さん(ちゃんもも)は、完全に役に憑依していた。とにかく役に入り込んでいた。稽古中は四次元ポケットのようになんでもカバンから出してきたので、芝居作りが好きなんだなって思ってみていた。衣装を任されていたので【兄】を演じた私の頭につける衣装を用意してくれた。途中、2回ほど改良してくれたのだが、いまだにその構造は謎。最初は都度都度直してくれていたが、毎回グネっと曲げてしまうので、だんだん苦笑いをするだけになってきた。今回彼女は【演劇を離れた】人間を演じていて、奇しくも本人も今回転居で劇団から離れてしまうが、15年以上演劇から離れていて再開した私が言うんだから間違いない。魂の火だけ絶やさずにいてください。いつでもまたできます。
ひなさん(ひなごろう)は小さな体の大型新人。馬鹿じゃないのってくらい初期パラメーターが高いので、「演劇、実はやってたんじゃねえのか?」と疑いたくなる。気が付くと歌っていて、ついつい一緒に口ずさみたくなるが、(おじさん、騒音です。やめてください)と言われそうだから黙ってた。BGMじゃなくてオープニングで彼女の歌声から始まる芝居なんて素敵だろうなって思った。ラジオ体操する時一生懸命体を動かしていて、なんだか【ジブリ映画に出てきそうな子】のイメージ。とにかく努力家だし、きみすごいよ。
そして、佐藤勇さん(ちょぶ)はちゃんと役の中で芯を通していた。ちょっと前は作品作りに対して理想が高くついつい欲張って、結果体を犠牲にしがちな部分があったのに、しっかりしたリーダーになっていた。お父さん(嘘)はうれしいです。人間力です。あーあ、芝居の沼にはまりやがって。(ほめてます) 劇中でお金を貸してくれと言われ、「いいよ」と返すシーンがあるんだけど、その「いいよ」具合が最高によかった。
と、とりとめもなく深夜のテンションで書いたけど、私の中の軸が今回二つあって、
①物語の中の先生が、昔演劇をやっていたが今は離れてしまった・・・のあたり。そこは15年以上離れてしまい、外郎売すら半分忘却してしまった私がここに存在しているので、大丈夫。【いつでも再開できる】【結婚や子育て中でも芝居はできる】という事を誰かに伝えたいと思い、今回の公演に混ぜてもらった。もちろん、【子供にスポーツをさせようと思ったら、土日に連れていく父兄としては演劇との両立は難しい問題】【一日の中でセリフを入れる時間なんて限られているよ問題】などは残る。
それでも今は恵まれている。私が18歳のころはネットなんてもちろん普及してなく、大学生でもなければ高校演劇部出身でもない自分は、バックボーンも情報もなく(雑誌の演劇ぶっくくらいか)、勢いで上京するしかなかった。

②なぜ演劇をやるのか、に対するアンサー。私の答えとしては、この人の書くホンが好きだから。そんな単純な理由でも許してくれるかな。おじさん頭悪いから難しいことわかんない。

スタッフワークをほとんど外してくれ、それを許してくれた劇団のそのやさしさと申し訳なさで苦しみながらやりました。スタッフの皆さん、エキストラの皆さん、演出家、演者の皆さん、本当にありがとうございました。

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