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「もっと他人」新川和江 【詩】

電話が
チンとも 鳴らなくなって
わたしとあなた会わなかった昔よりも
もっともっともっと 他人!

きっとわたしたち
星がちがっていたのですね
それなのに
どこをどう勘ちがいして
それぞれの時間 それぞれの空間
それぞれの愛と微笑を
ひとつお皿に盛り合わせて
つつき合ったりできたものか

こんなことなら知らない同志でいたかった
そうすればいつかどこかで
ばったり会うかもしれないあなたに
新しい帽子をかぶった日のような気分で
「はじめまして」が言えるのに

新川和江, 私を束ねないで, 童話屋, 1997年

二連の「星がちがっていたのですね」という表現とその後の一種の自嘲的な表現が、大切な人との人間関係の拗れを「そういう星の下に生まれた」と仕方のなかったものと割り切りたい思いと、大切に思っている人との関係がうまくいかなかったことに対する不幸を呪うような、無力感に苛まれるような複雑な気持ちをうまく描写しているように感じられた。私自身も含めて多くの人が今の関係性の変化を恐れて相手に「告白」できないという経験を持っていると思う。ここでいう、告白というのは恋愛的な意味合いはもちろんのこと、自分の心のうちに秘めた本音や弱み、性的指向なども含んでいる。一方で私は、「告白」を通じてこそ他者とより親密で人生を通じて関わりの続く友(場合によっては婚約者)となりうるのだろうと考える。結局のところ私は孤独では生きてはいけないタチだし、告白を受け入れてくれる人の存在を心の支えとしている。実際これまで、「告白」したために疎遠になってしまった人もいるしそのことは時折思い出されるほどに悔やまれるが、恐れつつも自分が「この人にならば」と思った人に告白せずにはいられない。

ヘッダーは「新しい帽子をかぶった日」の桜


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