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人の少なさが助け合いを生むまちづくり〜鳥取で生まれた新しい交流の場〜

新型コロナウイルスが流行してから、リモートワークが普及したことで”新しい働き方”が定着しました。オンラインミーティングが普及したり、副業が解禁になったりと個人の活動の幅が広がる一方で、行動制限やリモートワークにより社会との距離や希薄さを感じる方も多かったのではないでしょうか?そこで改めて家族や社会など人との繋がりの大切さや生活の豊かさ、地方での暮らしが注目を浴びるようになりました。

今回は、鳥取県で株式会社鳥取銀行(以下、鳥取銀行)の職員でありながら、まちづくり会社を立ち上げた齋藤浩文さん(以下、齋藤さん)とその中のあるプログラムから生まれた不真面目商店の3代目店長を務める濱野奏さんにお話を伺いました。

齋藤浩文(さいとうひろふみ)
1982年生まれ、鳥取市で生まれ育つ。
鹿児島大学で建築・まちづくりを学び、2007年にUターンし、新卒で地元の鳥取銀行に入行。
2020年にまちづくり会社である株式会社まるにわを設立。
一般社団法人日本ワーケーション協会「公認ワーケーションコンシェルジュ」や鳥取ワーケーションネットワーク協議会の理事も務める。

濱野奏(はまのかなで)
2003年生まれ、鳥取県で生まれ育つ。
鳥取大学地域学部の2年生。
大好きな地元、鳥取のまちづくりに関わりたいと現在はまちづくりワークショップで生まれた地域の交流の場、不真面目商店にて3代目店長を務める。

日本一人口が少ない鳥取県でまちづくりに取り組む齋藤さん

ーー銀行で働きながらまちづくりを始めたきっかけはなんですか?

齋藤さん:もともと建築やまちづくりに興味があり、その分野を学ぶことができる大学に進みました。人口が減っていく社会だからまちづくりを実施していくにあたり民間資金を活用しないといけないと思い、新卒では銀行に入行しました。社会人になって5年くらいは当時の気持ちはすっかり忘れて銀行の職務を全うしていました。

しかし、2015年に鳥取市が開催したリノベーションスクールに参加したことがきっかけで、当時の気持ちが呼び起こされました。 リノベーションスクールでの活動は遊休不動産を活用した事業案をチームで考えるというもので、 鳥取大丸の屋上を芝生化する新しい使い方を提案しました。

最初は一個人として参加していたのですが、だんだんプロジェクトベースでまちづくりに関わるようになりました。本格的に鳥取大丸(現在は「丸由百貨店」に店名変更)と取引しないといけなくなったので銀行に申請し、兼業をし始めました。

お昼休憩にインタビューを受けてくださった齋藤浩文さん

ーーUターンしてあらためて感じた鳥取県の良さについて教えてください。

齋藤さん:大学の4年間、鹿児島で過ごしていたのですが、そこから鳥取に帰るとき時には、鳥取は人口最少県だから良くも悪くも人口減少社会の中では先端になるだろうなぁと思って帰ってきました。

鳥取では、人が少ない分、ひとりの役割が多くなります。そうなると助け合うなど人との交わりも多くなり、豊かな地域だと感じています。

30歳を越えてまちづくりに直接関与するようになって、コミュニティの大切さを感じるようになり、家族ができてより一層その重要性が増しました。特に子どもが大きくなってきて小学生になると地域や町内の必要性をより一層感じるようになりました。

銀行員とまちづくりの仕事を掛け持ちしたり、家族との時間をとったりすることは大変ですが、鳥取だからこそ周りの方と支えあって両立できていると感じます。

ーー鳥取でまちづくりをするにあたって感じている課題はありますか?

齋藤さん:まず、第一に「人がいない」ことですね。「人がいない」がゆえに、閉鎖的な感じもしますし、鳥取は「何もない」と感じている方も多いかもしれません。しかしそれを「何もない」と捉えるのか「余白」と捉えるのか、まずはマインドが大事です。何もないんじゃなくて「自由」なんですよね。都会のように完成しきってないし、空きがたくさんあるからむしろ伸びしろがたくさんある!そういうマインドセットがあると人生が楽しくなると常々思っています。

遊休不動産を活用して地域の交流の場を提供する

鳥取駅から徒歩5分に位置するマーチングビル

遊休不動産:店舗やビル、工場、倉庫や土地など、企業活動にほとんど使用されておらず活用されていない住居目的以外の不動産

ーーシェアハウスとシェアオフィスが併設されたマーチングビルが生まれた背景について教えてください。

齋藤さん:前のオーナーさんがご両親から引き継がれた物件でしたが、相続する人がいないと相談を受けました。駅前という好立地と、ちょうど近くに鳥取民藝美術館もあったので若者やまちづくりに興味あるひとに向けたワークショップを開催しようと決めました。

首都圏の大量生産・大量消費で隔離的な生活に比べて、手触り感や人とのつながりを感じる暮らしをしたいというメンバーがワークショップを開催することになりました。その方々が理想とする暮らしを実現したいとシェアハウスを展開することになり、ワークショップのスペースをコワーキングスペースへと運用が広がりました。

マーチングビルのワークスペース

ーーマーチングビルは地域人材と関係人口の交流の場となっていますが、ワークスペースは完全会員制度になっています。ドロップイン利用をした方が交流が広がると思いますが、なぜ完全会員制度なのでしょうか?

齋藤さん:単純にリソースが足りていないからですね。常にこの場にいて誰かがきたときに案内できる、人をつなげるコンシェルジュが常駐できないんです。なので、せっかくきてもらっても結局つなげることができなくて役割を果たせないんですよ。

また、うちがその役割をすべてになう必要もないと思っています。独占する必要はなく、地域で連携できたらいいなと思っています。
例えば、鳥取砂丘の前にSANDBOX TOTTORIというコミュニティプレイスができました。ドロップインでふらっと来た方にはそちらを訪れてもらい、鳥取にもう少し深く関わりたいと感じた人はうちにつなげてもらうように連携しています。

ーーHPを拝見し、マーチングビルには「オンライン」×「オフライン」のコミュニティがあると知りとても興味を持ったのですが、具体的にどのようなものなのでしょうか?

齋藤さん:もともとはオンラインコミュニティから始まりました。3年半が経ち、現在参加しているメンバーは約80人です。鳥取は人口が少ないので、もちろん移住してくれる人を増やしたいのですが、移住者数を増やすことには、限界もあるのでまずは関係人口を増やすという目標が県として2019年に発表されました。

そんなときにちょうどコロナ禍になってしまい、実際に訪れてもらうことが難しくなりました。そこで関係人口についてやワーケーションに関して勉強したり語ったりなどオンラインでの交流をスタートし始めました。

その後、実際に訪れるようになってくれたり、オンラインで話題にでた内容を実践にうつしていくなどオフラインで交流も盛んになっていきました。実際にその中でできたのが不真面目商店です。そこも面白いので行ってみるといいですよ。

Marching Bldg(マーチングビル)
住所:〒680-0831 鳥取県鳥取市栄町 627
HP:https://www.maruniwa-tottori.com/
Instagram:https://www.instagram.com/marchingbldg/

不真面目商店で3代目店長を務める濱野奏さん

次にお話を伺ったのは、不真面目商店にて3代目店長を務める濱野奏さん(以下、濱野さん)。

不真面目商店とは齋藤さんが主催するまちづくりワークショップで生まれた空き家をリノベーションして地域の交流の場となっている場所です。そこには近所の人がふらっとコーヒーを飲みにきたり、談笑したり、小学生〜中高生たちが放課後に勉強したりする姿がありました。

不真面目商店で3代目店長を務める濱野奏さん

ーー不真面目商店とはどんな場所ですか?

濱野さん:不真面目商店には「たなオーナー」制度があり、街の人が個人からでも気軽にお店を構えることができます。ピンクの付箋は月額2,2
00円(税込)で借りることができ、商品をここに置いてお店を開くことができます。青い付箋も月額2,200円(税込み)で借りることができ、趣味や街の方に見てほしい物を置くことができます。その棚の物は購入することはできず、その場でみることができます。

放課後に遊びにくる小学生から散歩途中に立ち寄る高齢者まで地域の人の溜まり場になるような場所です。

棚の商品をみる小学生たち

ーー不真面目商店と関わることになったきっかけはなんですか?

濱野さん:生まれ育った鳥取が大好きで鳥取に何か還元したいという気持ちがあったんですけど、何をすればいいのかわからなかったんです。それをX(旧Twitter)でつぶやいていたら、あるツイートが多くのひとに見てもらえる機会がありました。当時、フォロワーは数十人しかいなかったのですがリツイートしてもらい、数珠繋ぎに株式会社まるにわの方に繋がったんです。

🔻当時のツイートがこちら

そのときはすでにまちづくりワーケーションプログラムで、不真面目商店が実際に街にできると決まって施工に取り掛かっていく段階でした。「とりあえずきてみたら?」と株式会社まるにわの社員さんに言われて行ってみたのが始まりです。気づいたら通っていましたね。

ーー「気づいたら通っていた」から2年半通い続け、3代目店長を務めるまで関わり続ける魅力はなんですか?

濱野さん:2年半、毎週のように通っていて嫌になることもありました。子ども供たちに宿題を教えてもバイト代が出るわけでもないし、自分がしたいことってなんだろうと思う日が何日もありました。

学校終わりの子どもたちとの交流が行われている

でも、得があるわけでもないけど、来たいと思っちゃうんですよね。
もともと子どもが好きということもあるんですけど、いつ誰が来るかわかんなくて、どういう出会いがあるかわからないことが楽しみです。

近所の方が集まることも魅力ですが、鳥取県内だけじゃなくて、いろんなところから来た人に知ってもらえたら嬉しいです。

不真面目商店
住所:〒680-0037 鳥取県鳥取市元町205
Instagram:https://www.instagram.com/humajime205/?hl=ja

4年ぶりに訪れた鳥取は人との濃いつながりがあった

実は私は大学生のころに4年間、鳥取で過ごしました。正直、当時の私は車がなく「どこにいくにも不便だな」、人が少なく閉鎖的なので「窮屈だな」と感じていました。4年ぶりに訪れた鳥取県は今の私にとって「余白」を楽しみ「人とのつながりを感じる」素敵な場所でした。

自分も大学生の頃にこんな場所があれば、入り浸っていたことでしょう。鳥取の魅力を再発見することができ、また定期的に訪れたい土地になりました。

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