北海道・札幌の乙女絵画にインタビュー(と称した友達作り)後編|161倉庫、砂嵐のサイケデリック、遅さ
はじめに
「インタビュー」の名目で気になる人と話をすれば友達を増やせる。閉店間際のガストでカルピスとトロピカルアイスティーを混合させたオリジナルドリンクを片手にGoogleドキュメントを編集している最中、天啓のように閃いた名案です。
ライターという立場を使ってアーティストとお近づきになり、半ば職権を濫用して懐に入り込み、親睦を深めながらお互いを確認する。したい。自分だけできてないのはズルい。だからする。これは休日をPCとの睨めっこで消費するだけのライターが寂しさを埋めるための不定期インタビュー連載です(書きながら思ったけど、そうして実施したインタビューをまとめるためにPCとの睨めっこをまたすることになる。ガストの滞在時間はますます増えていく)。
今回は北海道の5人組バンド・乙女絵画に話を聞きました。北海道大学の軽音サークルに現役で所属している彼ら。哀愁が漏れに漏れているフォーキーなバンドサウンドで国内のインディーファンから注目を集めています。現時点での最新EP『境界』ではよりサイケデリックに進化。踊ってばかりの国〜GEZANらの影響を受けた次世代の邦楽バンドとして、急速に成長しています。
テレビ大陸音頭をはじめ、筍のように素晴らしいバンドが育つ札幌からの刺客。彼らの初の東京公演となった8月7日(水)の渋谷クアトロでのライブの翌日、もう一度渋谷に呼び出して5人と話しました。後編では現時点での最新作『境界』から札幌のシーンの話に至るまで、たっぷりと話してもらってます(文中にはメンバーにそれぞれ撮影してもらった北海道の風景写真が挿入されています)。また末尾にはメンバーのチョイスしたプレイリストも、合わせてチェックしてみてください。
前編はこちら
北海道・札幌の乙女絵画にインタビュー(と称した友達作り)
映っちゃいけないとこが映ってる!
現時点での最新作『境界』はどんなきっかけで作り始めたんですか?
佐々木:『境界』はリズムにこだわりたくて。その時に僕らバンド内や周りでダンス系が流行ってたのも影響してたのかな。『川』は歌が主体の作品だったんですけど、次はリズムだったり自分が普段触れないようなものも入れたくなって。そのイメージで作り始めましたね。
佐藤:札幌のバンドからは本当に影響されてると思います。
吉田嵩:影響を受けつつ、逆張りもしつつね。
やっぱり札幌のシーンは大きいですよね。テレビ大陸音頭やGlansをはじめ、とても盛り上がってる印象です。個人的にはthe hatch主催の<THE JUSTICE>が気になります。
佐々木:あぁー、めっちゃ面白いですよ。
金城:今年は僕らも出たんですけど、その一年前からバンドで遊びに行ってるんですよ。
どういうイベントなんですか?
佐藤:いやぁ、あんま適当なこと言えない(笑)。
佐々木:恐れ多いからね……(笑)。西沢水産ビルっていう、水産ビルの跡地を建物ごと貸し切ってフロアにするというか。
佐藤:6フロアあって、バンドが演奏できるのも3つくらいあります。インタビューとか読んでると、最初は161倉庫っていう同じ建物のライブハウスをthe hatchは拠点にしてたみたいで。僕らも最初にライブ観に行った時は泣きそうになって……汚いし暗いし……(笑)。
金城:札幌の本質みたいな場所だよね。ライブが終わった後は床も汗でビチャビチャで(笑)。
佐々木:今一番盛り上がってる場所ですよね。the hatchをはじめCARTHIEFSCHOOLとかテレ大(テレビ大陸音頭)とか。
佐藤:テレ大もバズる1年前くらいからちょっとずつ出てるんです。高2の時には<THE JUSTICE>に出てた。
吉田蒼:まだ高3とかだもんね。
ニュース番組で特集されたり、とんでもないバズり方ですよね。
佐々木:めちゃくちゃバズってる時にZIPでライブ映像が流れてて、それが161倉庫だったんですよ。それがマジでヤバくて(笑)。「映っちゃいけないとこが映ってる!」みたいな(笑)。
金城:朝9時の地上波で映していい場所じゃない(笑)。彼らはその前から北大の学園祭にもゲストで出てもらってたんですよ。
吉田嵩:それがバズる1週間前とかで、その直後にドーンって感じで。
Spotifyのバイラルチャートでずっと一位でしたもんね。櫻坂46とかJO1よりも上っていう。
佐藤:かなり奇跡的ですよね。ショートチューンでインパクトがあって、っていう。完璧にハマったというか。
札幌バンドシーンの熱源
ハードコアだったりポストパンクだったり、なんで札幌にはアンダーグラウンドにカッコいいバンドが多いんですか?
佐々木:今は無くなったんですけど、SPIRITUAL LOUNGEっていうハコが札幌にあって。そこで初めてCARTHIEFSCHOOLを観た時のブッキングがめちゃくちゃだったんですよ。高校生バンドもいるし、もっと邦ロック然とした人もいる。ごちゃ混ぜなんですよ。それでみんな満遍なく触れるっていうか。
「このライブハウスはこれ」みたいな色が東京にはあったりするんですよ。それが希薄なんですかね?
吉田嵩:その意識もあるにはあるけど、東京ほどジャンルが別れてないんです。そもそも東京に比べて箱もバンドも圧倒的に少ないので、ジャンルごとのイベントを組むことが札幌では難しいと思うんですよ。だから他のジャンルと一緒になる機会も多くて。自分が観ようと思ってなかった人たちにも触れるようになるというか。
佐々木:まぁ、あんま適当なこと言えないよね?(笑)先輩たちが作ってきた歴史があるし。
金城:まぁ歴史を全部語るのは無理ですよね。
佐藤:そもそも僕らを入れると語りづらくなるというか。 拠点が決まってるわけでもないし、友達のバンドも多いわけじゃなくて。ただ、お互いに聞きあってはいます。例えばサークルの同期のちゃんちゃらおかしいズとか先輩のCHEMTRAILとか。
札幌からは離れますけど、苫小牧には偉大な先輩としてNOT WONKもいますよね。なんか……総じて音がデカいですね。
金城:<THE JUSTICE>のNOT WONKがヤバくて。現実世界であんな音割れを聞いたの初めてでした(笑)。
佐々木:めちゃくちゃデカかった。みんな爆笑しながら暴れてた。なんでみんな音デカいんだろうね?
金城:音がデカいとカッコいいから?(笑) なんか、「フルでいけるとこはフルでいこうよ」みたいなノリというか。逆に小さくできるとこは極限まで絞って。
Glansとかにはその絞る感覚がありますよね。ライブの中に波を作るというか。
吉田蒼:ブッキングライブって基本的に30分なんですけど、Glansは30分ワンセットみたいな。
佐藤:この前出たアルバムも良かったですけど、ライブがとにかく凄いです。
モノクロサイケの『境界』、そして先輩
その上で『境界』の話に改めて戻りたいんですけど、札幌のシーンから影響を受けつつ、『川』の頃よりも洗練された録音になってますよね?
佐々木:そうですね。スタジオも変えつつ、エンジニアも以前とは別の方にお願いしました。
どのタイミングで楽曲は固まったんですか?
佐々木:1stアルバムの『川』を出した頃にはもう演ってたんですよ。録音してからリリースするまでの空白期間、学園祭くらいのタイミングが過渡期で。『川』は慈愛系の気持ちで作ってたんですけど「慈愛じゃなさすぎるだろ!」っていうか、怒りまくりみたいな。そういう暗くて激しいのもやりたかったんです。それが元になって『境界』の曲を作っていきましたね。最初が“さよならを教えて”だっけ?
金城:いや、“風の模様”じゃない?
佐々木:あぁそっか。“風の模様”が一番上手くできた気がしたんだよね。
吉田嵩:割と早い段階から“風の模様”のデモはあったけど、みんなができるかどうかはちょっと微妙で……俺はアルペジオ弾けないし。それで一旦置いといて、他の曲から取り組んだんです。
冒頭の“夜が明けない”から『川』との違いが明確に伝わってきます。
佐々木:「同じことばっかりやりたくない」っていう意識はバンドで共有してると思うんです。
金城:シンセの細い音はTame Impalaを意識しましたね。
佐々木:あとはBroadcastとか。モロ、って感じかも。
『川』の時にも形容されてましたけど、よりサイケの濃度が強まった印象です。
金城:そうですね。ただネオサイケというよりも、微睡の中で見るサイケっていうか。色んな音色が絶えず鳴っていて、色とりどりって感じよりふわ〜って広まっていくイメージで。いわゆるLSD的なカラフルさはないと思うんです。
吉田嵩:アナログテレビが映らない時の砂嵐みたいな。曲を演奏していく度にそのイメージが浸透していく感じなんです。
佐々木:モノクロのイメージは(裸の)ラリーズとかが好きだからかもしれない。
『境界』リリース後の反響はいかがですか?
佐藤:東京にライブで呼んでくれたりすると反響を感じますよね。「こんなに聞いてくれてる人がいたんだ!」って。
佐々木:確かに、『川』より聞いてくれた人が増えた印象です。でもそれは『川』を出したおかげでもあるというか。ただ、作品をより客観的に聞いてくれる人が増えたというか、betcover!!の流れで聞く人が多くて。『川』のちょっと暗いフォーク歌謡らしさだったり、『境界』でも“さよならを教えて”のプログレッシブな構成は『卵』と重なる部分もあると思うし。その文脈で触れた人が多い印象ですね。
“日が落ちた”のブリッジミュートで刻むノリとかは、betcover!!をはじめハードコアを感じます。
佐々木:「こういうの、あってもいいよね」ってので作ったんですよ。これまでとんでもなく遅い曲ばっかりだったから……速いのを作ろうとして3分くらいで終わる曲を書きました。ちょうど54-71も好きだったし、色々アイデアを入れました。
それこそ札幌のシーンには、速くて音も太いバンドが多いじゃないですか。その影響もありつつ、どっぷり方向性を寄せてはないですよね。
佐藤:そうですね。影響という点だと、僕らがどう思われてるのかもあんまり知らないです。
吉田嵩:友達で褒め合うことはあっても、それに留まってますね。
周りで共感できるバンドっていますか?
佐々木:同じようなことをやってる人たちがあんまりいなくて、孤独感とかもあったんですけど、天国旅行ってバンドの田澤さんっていうギターボーカルの人と最近喋るようになったんです。〈NEWFOLK〉からもリリースしてる、僕らよりもパンキッシュなロックをやってる人たちで。「先輩、いたわ!」みたいな(笑)。ベクトルが違っても通じるものがあるバンドです。
金城:ドラムの岳さんが、僕らがサークルに入った時の4年生の先輩で。その繋がりもありました。
棲み分けより役割
『境界』のリリースから東京での初ライブまで、結構怒涛でしたよね。
佐藤:確かに。6月の<しゃけ音楽会>とか、すごいメンツの中で演奏したりして。4月にオーディションがあって、その縁で出演したんですよ。
佐々木:オーディションも周りのカッコいいバンドがたくさん出てたんですけど、僕たちが選ばれて。
佐藤:そのオーディションの後に<THE JUSTICE>に出て、『境界』もリリースして、それから<しゃけ音楽会>に出演して……ってのが重なりましたね。
金城:そういえば<しゃけ音楽会>には君島(大空)さんがいて……もう、好きすぎて全然喋れなかったです。写真も撮ってもらいました、宝物です。
これからも共演の機会はあるんじゃないですか?
佐々木:あるんですかねぇ? 来年、再来年とか……。
対バンしたいバンドはいますか?
佐々木:pile of hexとかやりたいですね。
吉田嵩:くぐりとかもやりたい。
金城:うん、ずっとやりたくて。『形』ってEPがリリースされた時から聞いてて、いつか絶対やりたい。
佐々木:あとは山本精一さん。観たいし、話してみたい。
それこそ、betcover!!とかはいかがですか?
佐々木:やりたいけど、まだかな〜。心の準備ができてない。もっと成熟した状態で挑みたいというか。一番好きなんで。『卵』をリリースした時の対バンツアーで北海道に来た時も観に行きました。もう好きすぎて聞いてない域というか(笑)。
吉田嵩:一時期聞きすぎて、今は聞かなくなってはいるけど、ずっと特別な位置を占めてる。
佐藤:サウンドもギターがちゃんと聞こえるような構成になってて、参考にしました。
乙女絵画には3ギターの曲もあるじゃないですか。場合によっては干渉しちゃいますよね?
吉田嵩:そういう時期もありましたね。
どうやって克服したんですか?
金城:棲み分けより役割、ですね。「引く」感じ。
佐々木:それぞれタイプがあるというか。金城は決まったものを弾きたくないタイプで、僕は僕で歌いながらピロピロ弾けないからバッキングだけをやる感じになって。その間を埋めて根幹になるようなギターを3本目が絡んで。
佐藤:3本目入れたいし、シンセも入れたい時期があって。それでコイツ(吉田嵩)なら練習してくれるだろうってので頼んで(笑)。
吉田嵩:奴隷根性だけを買われて(笑)。
金城:俺が勝手にイメージしてるのは、ピアノで左手はコードのコンピングで右手はリード弾いたりコンピングの補助やったりみたいなのを3人でできれば良いかなって。
ネクストステップとしての「遅さ」
ライブを観てても、5人全員が闇雲に音を出すだけの時間が意外とないというか。役割がキッチリ振られていて、それに準じたものを出してる印象があります。
佐々木:そうですね、そこは決めてます。
あとは「遅さ」ですよね。ライブで観た“燃えて”と“川”の遅さが凄くて。もうスロウコアとかでもないというか、怖いくらい遅い。
佐藤:どんどん遅くなってますね。
佐々木:個人的に一番気持ちいい瞬間なんですよ。
観客としても、その気持ちよさは感じます。
佐々木:あと、最近個人的に思ってることとして、さっきも札幌のシーンの話で触れたんですけど、なんかダンスめっちゃ流行ってるなと。
ダンスが流行ってる?
佐藤:その感じはあるよね。
佐々木:自分から意図的に近づいたのもあるし、周りのGlansとかLAUSBUBもそうなんですけど、ダンスって聴衆との肉体的な繋がりというか。そこから離れようというか、次のステップとして「心で繋がり合わね?」っていうのがあって。だからもっとどういう風に聞いてくれてもいいというか……心の表面が燃えてて「ヤベェ!」って感じでもいいんですけど、その燃えてる火を包み込んで、その中でもまだ燃えてたらカッコよくね?みたいな。すみません抽象的で……。
いえいえ。そこで「遅さ」に向かったんですね?
佐々木:ラリーズのメンバーの人が奥さんとやってる静香 Shizukaってバンドがいて、そこで思ったんです。表面的な激しさから進みたいというか。『境界』ではガシガシ弾く曲も作ったんですけど、それを経て、遅くて静かだけどめっちゃ燃えてるなって状態を目指したくて遅くなってます。
金城:決まったテンポとタイム感で演るより、走ってモタって結果的に一つになるやつが人間的で好きなので、遅いのはすごいやりやすいです。それに、遅くてカッコいいバンドって本当にカッコいいと思うんで。
溜めるような節回しに晩年なるというか、それに近いと思うんです。
佐々木:そう、玉置浩二はまさにそうなんですよ。あれって、曲がどんどん進んで行くことに対して「もうちょっとゆっくり歌いたいよ」って唸ってるというか。
乙女絵画が面白いのは、そこで「重さ」を増す方向にはいかないですよね。演奏の縦の線をしっかり揃えるより、タイム感をある程度フリーにして演奏の余地を広げるようにしているんじゃないかと。ドラムとか、演奏してて怖いですよね?
吉田蒼:ゲロ大変ですね、ここ以外で求められることのない技術というか(笑)。“燃えて”とかは歌いたいだけ歌わせて……「あ、歌ったな……叩いていいよな?」みたいな。美味しくなったくらいのとこでドラムを入れる感覚ですね。
佐々木:まぁあんまり明示的に意識しているというより、その方が気持ちいいしカッコいいし聞こえると思ってやってるんです。自然なのを求めてるというか。
なるほど。
佐々木:あと、そういう気持ちよさも札幌で観たから感じれたと思うんです。カーシーフとか、不意に溜める瞬間があって。そのカタルシスは札幌の重ためなハードコアだったりオルタナティブな人たちから学んだのかもしれないです。the hatchとかも、後ろにどんどんズレていって、限界まできたところでボン!って重なったりして。あぁでもあんまり言えないな……(笑)
めちゃくちゃ尊敬してますね(笑)。
佐々木:まぁでも、そういう気持ちもありつつも、最近はミディアムなのも欲しいし。次はアルバムを作ろうと思ってるんですけど、いつ聞いても満足できるようなクオリティに仕上げるまでは作りたくないと思ってて。なんなら2〜3年くらいは時間を作ろうかな、とも考えてるんです。ちゃんと計画的に、もっと芸術的な質を高めたくて。それもあって、今は過渡期かもしれないです。マスターピースにしたい。
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LIVE INFORMATION
11/9 soul @ 161倉庫
11/23 Hand down vol.2 @ sound lab mole