ルーキー

 以前、音響スタッフとして入った現場。
 役者の集まりが悪かったのか、何故なのかはわからないが、通しを一度も見せてもらえない(というかやっていない)まま小屋入り期間を迎えた。
 主宰兼演出兼主役の方には、「音響さんにお任せします」と言われたので、事前に音の候補も出していたのだが「劇場のスピーカーでないとわからない」と言われ小屋入り前に確認すらしてもらえなかった。
結果、提出した楽曲は場当たり時に「これは違う」とことごとくボツになり、結局その場で選んだ楽曲を初見の演技に合わせることになった。
 「演技が盛り上がるところで音を上げて」と言われたので何回かやってみるも「そうじゃないんだよなあ」しか言われず、挙句の果てにベテランの出演者に「あの子、芝居が分かってないから」と笑って話しているのを聞いてしまった。正直、はらわたが煮え繰り返る思いがした。確かに私の音響としての技術が未熟だったかもしれないが、役者、ひいては演劇に関わる人間として否定されたからだ。

 今思えば、いわゆる「マンスプ」というやつだったのだろうと思う。(相手は15歳近く年上の男性だった)だけど自信喪失してしまった私は、暫く個人で演劇に関わることを辞めた。音響の仕事も、今は全て断っている。

 問題の公演は中止になったけれど、その後その団体はまた公演をいくつか打っている。フォローは外したが、ツイートが流れてくる。その度に「あの子芝居が分かってないから」という言葉が頭をよぎる。

 事務所に入って、先日初めて舞台の仕事をいただいた。自分より若い子が多く、初舞台だという人も少なくなかった。彼女たちと一緒に作品を作っていく中で「芝居が分かる分からない」ではなく「芝居が好きか否か」が大事なんだと気付かされた。そして、それを「商売とする」ときには芝居が分かるか否かではなく、「お客さんに対する誠意」が必要なのだと学んだ。共演した方々は一生懸命に役に向き合い、一人でも多くのお客さんに届けるためにどうしたらいいかを日々考える「プロ」の姿勢を見せてくれた。

 今なら多分、「あの子芝居が分かってないから」と笑われても、目の前で「うっせぇわ」を熱唱できると思う。まだまだ学ぶべきことは多いけれど、誰かの根拠のない悪口に足を引っ張られるのはやめようと決めた。むしろそれをバネにして、その人たちが歯軋りするくらいの高みへ飛んでやろうと思う。そして再会したらこう言ってやるのだ。

私なんかまだまだですよ、芝居が分かってないもので。

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