泥をくらわば笑顔で
舞台公演がまた再開されつつある中で、告知のツイートがタイムラインを埋めるようになってきた。それぞれ作品に込めた想いや、楽しげな稽古写真などを呟いており、なかなか興味を惹く作品も多い。
そんな中、ふと目にした宣伝ツイートが心にひっかかった。詳述は避けるが、要は「某お金配りの方々からお金が降ってきそうもないので、皆さん代わりにチケット買って応援してね」みたいなものだった。
たしかに今この状況でお客さんを集めるのは難しい。そもそも小演劇自体があまり儲からないと言われているので、お金に困っている団体も少なからずあるだろう。それに関しては同情する。
でも、そのツイートだけはしてほしくなかったなあと思う。
舞台なり映画なりダンスなり、エンタメは人をワクワクさせるものだ。言わば「夢を売る」ということ。一番わかりやすいのは千葉県のネズミの国だ。労働問題などブラックな報道も時々あるが、国内のキャストたちはみんなそんなことと無縁な顔をして働いている。だから我々も夢を見られる。
「夢」にリアリティは必要かもしれないが生身のリアルは必要ない。プラスな要素ならまだしも、マイナスな要素なら尚更。役者個人や団体の「お金なくて苦しい」とか「このままだと赤字」とか「知り合いの劇場がピンチだから」とか「ノルマがきつくて」とかそんなことはぶっちゃけ客からするといらない情報でしかない。客がチケットを買うのは「その団体や作品が好きだから」「その役者さんの姿を見たいから」というシンプルな理由であって、「お金無くて可哀想だからチケットを買ってあげる」と同情心でチケットを買うのは募金と一緒だ。そこに作品や役者に対する期待は一切ない。そこに愛はあるんか?
恐らく上記の発言をしている方々に悪気は一切ないだろう。ただ必死なだけで、その姿を自虐ネタとして利用しただけかもしれない。
ただ、悲壮な姿に同情して物を買うのか?もし買うんだったらマッチ売りの少女は死んでなかったよ、多分。
自虐ネタは「当事者だけど気にしてません!」という開き直りがあるから成り立つものだと思う。開き直っているから他人に助けを乞わないし、何かをして欲しいと訴えない。
勿論、普段だったら辛いことがあったら誰かの助けを求めてもいい。でも、今回みたいにモノを売る場合は別だ。特にエンタメなんてまさに夢を売ってるわけで、宣伝の時点で夢を見せてくれないところからお金を払ってモノを買おうとは思わない。
陰で座組の人を仲間外れにしようが、スタッフをこきつかおうが、自己満足のためだけの芝居をしようが、客を金蔓扱いしようが、現実や裏で何があろうと客からすれば知る由もない。ただ、そういうのは全部上手くラッピングして綺麗な夢を見せて欲しいのだ。
悲壮な顔して泥を食うな。泥を食うんだったら笑顔で食え。ただそれだけのことだ。
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