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インナーブランディングとは?―『デザイン経営』講座



社内に“自信”を与え、社外に“共感”を生む、デザイン経営

こちらでは、デザインの力を活かして経営や事業の推進力を高めたいリーダーに向けて、TCDが日頃取り組んでいるブランディングのテーマから、旬な内容をピックアップしてお届けします。

今回は、特に最近相談の多い「インナーブランディング」についてです。

・なぜ今、インナーブランディングが必要とされているのか?
・インナーブランディングを進める際のポイント
・成功事例に学ぶ、インナーブランディング

上記の流れでまとめていきたいと思います。



なぜ今、インナーブランディングが必要とされているのか?


●社内の結束力、社員とのエンゲージメントを強化したい

代替わりや世代交代、事業拡大に伴う人員増加、合併などにより社員構成が変化し企業文化が薄れてきた、または新しい局面に向けて企業文化を見直したい、そうした理由でインナーブランディングのご相談をいただくケースが多くあります。こうしたときに重要になるプロセスが、新旧世代・層を交えて「働くこと」の本質、仕事に取り組む「価値観」を見直すことです。

自分たちが「これまで」、または「これから」大切にしていきたい価値観についてオープンに議論することで、社内の結束力を高める、エンゲージメントを強化していく“空気づくり”を行っていきます。


●ベクトルを合わせて、社員の潜在力を引き出したい

モノづくりを行っている会社、サービス事業を展開している会社に関わらず、日本の企業は高い「現場力」を持っています。そうした現場力を活かす上で大切になるのが、「どこを目指しているのか?」、会社が目指す方向(ベクトル)を共有することです。

そこから社員一人ひとりのやりがいや仕事に対する満足に繋がっていく、会社と社員とが同じ方向・目標を目指していくことが重要となります。


●ブランディングに統一感をもたせたい

社外に向けたブランド表現において統一感が保てていないといった課題もよくお聞きします。製品ごと部署ごとにアウトプットを行う際にも、社内の誰もがブランドが目指す姿について共有できていることが必要です。

ブランドの強みやイメージ目標、ブランド戦略など、社内でしっかり理解され、浸透しているからこそ、社外に対して一貫したブランディングを行うことができます。



インナーブランディングを進める際のポイント


●社員の関与を高めるには?

様々な社会課題が取り沙汰される中、改めて自社のビジョンやパーパスを策定された会社も多くあるかと思います。一方で、それを実現するための「実現フェーズ」に課題を持たれている会社も少なくありません。その成否を分けるのが社員の関与度になります。

これからビジョンやパーパスを策定する場合は、できるだけ多くの社員を巻き込んでいくことをおすすめします。またビジョンやパーパスを実現する段階であれば、社内ワークショップを行うことで様々な立場の声を聞きながら、理解の促進を図ることができます。またアンケートを行うことで、定量的に社内の理解のギャップを浮き彫りにし、インナーブランディングの課題、ゴールを明確にすることもできます。

まず理解を促進することがスタート地点になります。


●「自分ごと」ってどういうこと?

インナーに向けては、「自分ごと」「腑落ち」といった言葉がよく聞かれます。実際、事業を動かしている社員一人ひとりが課題解決に向けて本気で取り組む状態にするにはどのようにすれば良いでしょうか。

ビジョンやパーパスに描かれた「理想」と「現実」との間のギャップにフォーカスし、社員自らが「取り組まねば」または「取り組みたい」という空気をつくっていく必要があります。

そこで、研修プログラムや日々の業務プロセスにインナーブランディングを組み込んでいくことで理解を深め、さらには「共感」へとレベルを高めていきます。ここではアウターブランディングと同様に、コミュニケーションデザイン、ストーリーデザインが重要な役割を果たします。


●行動促進とフィードバックの両輪で

インナーブランディングは一度きりの取り組みではなく、継続的に企業文化を作り上げるプロセスになります。常に行動を促進しフィードバックし、新たな気づきを共有し改善を繰り返すことで行動様式に定着させていきます。

ビジョンやパーパスを社内に根づかせるには、いろんな仕掛けや社員の日常に組み込まれるような工夫が必要になります。次に、いくつか例を見てみましょう。



成功事例に学ぶ、インナーブランディング


●IBMのValues Jam

世界的にも、歴史的にも有名なインナーブランディング事例は、IBMが2003年に行った「Values Jam」ではないでしょうか。かのIBMも1990年代の初頭、経営の危機に陥った時期がありました。その後事業は持ち直しますが、その過程で事業体・構成員が大きく変わり、創業以来の理念、入念な新入社員研修とキャリアプランで育んできた“IBMer”とは違う形の理念体系が必要となりました。

そうした中、全世界の社員がイントラネット上で公開ディスカッションを行うValues Jamが開催され、「IBMのバリューは? IBMにバリューはあるのか? 次代のIBMのあるべき姿と必要なバリューは何なのか?」、そういった根源的なテーマについて、ネット会議(当時は掲示板のようなもの)に2万2000名が参加し、108万ページビューが閲覧され、9337件ものコメントが寄せられたそうです。国境を超え、まさに全員参加型の企業理念づくりがなされました。

経営革新を図るIBMの世界同時ネット会議「イノベーション・ジャム」の挑戦(日経XTECH)


●パーパスの実現を推進する味の素のASV

味の素の西井社長は「パーパス経営」を表明し、様々な取り組みを行っています。具体的には「50%環境負荷を削減」「10億人の健康寿命を延伸」この2つのゴールを設定し社会課題の解決に取り組んでおられます。

その中でもユニークな取組が「ASVアワード」です。社会課題への取り組みを単なるCSR活動に留めるのではなく、経済価値にしっかりと結びつける活動で、「パーパス」を実践する好例と言えます。

ASVとは?味の素グループが推進する未来への取り組み


●バリュー(行動規範、行動指針)の参考例

最後に、行動規範をいくつかご紹介して今回の記事を締めくくりたいと思います。

行動規範というと「クレド(Credo)」の代名詞でもあるザ・リッツ・カールトンホテルのクレドブックや、ジョンソン&ジョンソンの「我が信条」が有名かもしれません。以下は少し前になりますが、「顧客にワオ!(感動)をもたらすサービス」として、徹底的な顧客視点を実現したザッポスの行動指針です。


ザッポス 「10のコアバリュー
1. サービスを通じて、WOWを届けよう。
2. 変化を受け入れ、その原動力となろう。
3. 楽しさと、ちょっと変わったことをクリエイトしよう。
4. 間違いを恐れず、創造的で、オープン・マインドでいこう。
5. 成長と学びを追求しよう。
6. コミュニケーションを通じて、オープンで正直な人間関係を構築しよう。
7. チーム・家族精神を育てよう。
8. 限りあるところから、より大きな成果を生み出そう。
9. 情熱と強い意思を持とう。
10. 謙虚でいよう。

不幸にもザッポスCEOのトニー・シェイは2020年に亡くなりました。ザッポス自体は2009年からアマゾン傘下に入っていますが、そのアマゾンの「リーダーシップ・プリンシプル」もその根幹、新しいビジネスモデルを産み出した指針として有名です。

アマゾン 「根幹をなす14か条」
1. Customer Obsession(顧客へのこだわり)
2. Ownership(オーナーシップ)
3. Invent and Simplify(創造と単純化)
4. Are Right, A Lot(多くの場合正しい)
5. Learn and Be Curious(学び、そして興味を持つ)
6. Hire and Develop the Best(ベストな人材を確保し育てる)
7. Insist on the Highest Standards(常に高い目標を掲げる)
8. Think Big(広い視野で考える)
9. Bias for Action(とにかく行動する)
10. Frugality(質素倹約)
11. Earn Trust(人々から信頼を得る)
12. Dive Deep(より深く考える)
13. Have Backbone; Disagree and Commit(意見を持ち、議論を交わし、納得したら力を注ぐ)
14. Deliver Results(結果を出す)


一方国内では、様々なところで引用されているのでご覧になったことのある方も多いかもしれません。

ソニー 「開発18か条」
1. 客の欲しがっているものではなく客のためになるものをつくれ
2. 客の目線ではなく自分の目線でモノをつくれ
3. サイズやコストは可能性で決めるな。必要性・必然性で決めろ
4. 市場は成熟しているかもしれないが商品は成熟などしていない
5. できない理由はできることの証拠だ。できない理由を解決すればよい
6. よいものを安く、より新しいものを早く
7. 商品の弱点を解決すると新しい市場が生まれ、利点を改良すると今ある市場が広がる
8. 絞った知恵の量だけ付加価値が得られる
9. 企画の知恵に勝るコストダウンはない
10. 後発での失敗は再起不能と思え
11. ものが売れないのは高いか悪いのかのどちらかだ
12. 新しい種(商品)は育つ畑に蒔け
13. 他社の動きを気にし始めるのは負けの始まりだ
14. 可能と困難は可能のうち
15. 無謀はいけないが多少の無理はさせろ、無理を通せば、発想が変わる
16. 新しい技術は、必ず次の技術によって置き換わる宿命を持っている。それをまた自分の手でやってこそ技術屋冥利に尽きる。自分がやらなければ他社がやるだけのこと。商品のコストもまったく同じ
17. 市場は調査するものではなく創造するものだ。世界初の商品を出すのに、調査のしようがないし、調査してもあてにならない
18. 不幸にして意気地のない上司についたときは新しいアイデアは上司に黙って、まず、ものをつくれ



さて、インナーブランディングについて見てきましたがいかがだったでしょうか?
改めて社内を見回して、どのように企業文化が築かれているか、みんなが同じ方向を向けているか?社外だけではなく、社内に向けた“ブランディング”に取り組む際のヒントにしていただければ幸いです。



[ 筆者プロフィール ]
川内 祥克
株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブ・ディレクター
企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、ブランドマネジメント業務に従事。『デザイン経営』など公開セミナー、組織内ワークショップも開催。

インナーブランディングとは?―『デザイン経営』講座
(TCD Corporationサイト)


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Katz
日々の業務の中から、ちょっとした気づきをお届けしていければと思います。