最近の蚊について
夏だ。
布団に入った瞬間にあの耳障りな羽音を聞くと特にそう思う。
だいたい夏を感じさせるものが蚊の羽音だというのも、よく考えてみれば悲しい話だ。できることなら風鈴がチリンとなる音が夏の合図であってほしかったし、呑気にスイカの種でも飛ばしていたかった。
「なんだかこいつ手強いな」
そう感じ始めたのは5年前くらい。それまでは、蚊を叩き潰すことなんて簡単なことだった。だけど、最近彼らは本当に強くなっている。
僕は羽音が聞こえたら彼の息の根を止めるまで絶対に諦めないタイプの人間だ。たとえそれが夜中であろうと、次の日が一限であろうと、羽音を聞きながらぐっすり眠るなんて芸当は出来ないし、やりたくもない。
だから、羽音が聞こえたらむくりと起き上がり、彼と対峙する。「天下の人間様をもてあそぼうなんて思い上がりもいいところだ」なんてことを思いながら手をバチバチ叩く。なかなか○せない。多分だけど、思い上がってるのは僕の方だ。
とにかく、最近の蚊は手強い。
前はふらふら飛んでいるだけだったのに、最近は非常に鋭く飛行する。蚊が鋭く飛行するってどういうことだと書きながら思っているけど、マジで鋭く飛行する。いわゆる「クン」という効果音がつけられる感じ。
そしてちょうど叩き潰そうとしたそのタイミングで逃げ出してしまう。激動の時代を生き抜いた彼らは、危機察知能力が高くなっているのかもしれない。そういうのは守備的ミッドフィルダーだけで良いのに。
蚊を退治するのに時間がかかる分、その喜びもひとしおだ。
なんてことを感じるはずもなく、普通に時間を無駄にしたなと思い眠りにつく。
世の中色々な無駄があるけど、蚊と戦っている時間が一番無駄な時間だと思う。人生とは無駄を楽しむ物だと思っているけど、こういう無駄はほどほどにして欲しい。
朝起きたら蚊に刺されていた。やっぱり彼らは手強い。