
【旅行】仙台苫小牧ドンブラコ -9- 仙台発苫小牧行きフェリー
絞ったばかりのォー 夕日のォ赤がァー
水平ー線からァー 漏れェーてェ来るー
苫ァ小牧発ゥー 仙台行きフェリー
あァの爺さんときたらァー わざわざ見送ってくれたよォー
※吉田拓郎「落陽」より
という歌が大昔あって、若い頃からカラオケの持ち歌の一つだったのだけれども、この「苫小牧発仙台行きフェリー」というフレーズに反応する人は意外とおられるんじゃないかと思う。
この歌は私が生まれた1973年のものということで、もう今から51年も前の歌かと思うとずいぶん気の遠くなる思いがするが、その頃から仙台と苫小牧の間にフェリーが走っていたということらしい。
曲の中ではバクチで身を持ち崩した爺さんが出て来ては、フェリーの出航の時に紙テープを拾ったりしていたようだが、そういえば船の出航で見送る方と見送られる方が紙テープを持っていたというのはいつまでやっていた習慣なんだろうか。
昔の南極観測船が出航する写真なんかでは紙テープが無数に風に舞う情景が印象的だが、今これをやったら港を掃除する人は大変だろう。
してみれば、「落陽」に出てくる爺さんはえらいもんだ。

さて、なぜ我々が仙台からフェリーに乗るかというと、福井県まで帰るためだ。
フネは苫小牧に行くので福井は真逆ではないかと思われるかもしれないが、苫小牧からさらに福井県の敦賀まで出ている新日本海フェリーというものがあって、これに乗って帰るためだ。
もともとは仙台から福井まで青春18きっぷでのんびり帰ろうかとも思っていたのだが、第1話で書いたようにJR北陸線の在来線がブツ切りの第三セクターになってしまったことからどうも使い勝手がよくなくて、何か代わりにおもしろい経路はないかと検討しているうちに、苫小牧経由で船で帰ってくるというルートに思い至った次第。
船といえば今年(2024年)の2月に那覇発着のクルーズ船ベリッシマ号に5日間乗ったこともあって、船での移動が大変楽しかっただけに、このルートを選んだわけだ。

このフネは名古屋-仙台-苫小牧を往復しているもので、仙台を19:40に出港して苫小牧には翌日の11:00に入港する。
夜行の交通機関は寝ている間に移動できるので時間やホテル代をだいぶ節約できるのがありがたいのだが、特にフネは夜行バスや夜行列車と違ってホテルのように伸び伸びでき、海が荒れなければホテルよりもいろんなことが楽しめるのがいい。

まずは仙台港のフェリーターミナルでチェックインをすることから始まる。
ターミナルの建物に入るとなかなかの行列で、これは結構時間がかかる。
並んでいる人を見てみると、我々のような旅行者という風情の人は半分くらいで、後はトラックドライバーのような雰囲気の人が多く、カーフェリーというのは単なる客船じゃないわけだ。
考えてみれば仙台-苫小牧という航路は本州と北海道を結ぶ輸送路としてはかなり効率がいいものなのだろう、北海道に送る物資のうち相当数がこの航路で運ばれている感がする。
そういえばフェリーターミナルはとんでもなく広大な駐車場に囲まれているのだが、その多くがトラックやトレーラーで埋め尽くされている。
またターミナル内には戦闘服の自衛官が結構いたが、どうやら演習かなにかで北海道で部隊展開するのか、そういう移動で民間のフェリーもよく利用されているようだ。
しばらく行列に並んで手続きを済ませ、二階の待合に移動する。


どうも本気の警告のようだが何があったのだろう

2階の待合室で乗船まで友人と話をし、やがて6時すぎくらいに乗船開始となる。
飛行機と違って安全検査もなく、ボーディングブリッジを荷物を引いて船に向かうのだが、空港と違ってボーディングブリッジがものすごく長いのが面白い。






この船は「きたかみ」といって、全長192m幅27m総トン数13694トンの貨客船だ。
割と新しい船のような雰囲気で、至る所が清潔だ。
乗船するとすぐに3フロア分が吹き抜けになったホールになっていて、どうもタイタニックの昔から客船というのはこういう構造になっているようだ。
ここで船室の案内を受け、我々の今夜の宿となる773B寝台室を目指す。
B寝台は2段式になっているが、2段ベッドというよりもカプセルホテルの構造に近く、割とプライバシーが守られるタイプの寝床になっている。
ただし施錠することはできないし、トランクルームもないので荷物の保全は自己責任だ。
私はバカでかいスーツケースを引きずっていたので、この日の晩はスーツケースと同衾ということになる。
出航まではまだ時間があるし、直前まで話をしていた仙台の友人の体験談から、どうやらレストランの食券はなるべく早く確保しておいた方がいいらしく、またレストラン自体も出航前から営業を開始するようなので、まずはご飯を食べようということになる。



この船のレストランはブッフェスタイルになっていて、それもなかなかの料理を出してくれるので驚いた。
お代はひとり2000円だが、陸でも2000円でこの内容の食事を出してくれる店はそうはなかろう。
どれもひと手間かかったような料理ばかりで、とてもよかった。
食事を済ませて船室の寝台でひっくり返っていると、ゴトゴトと背中に伝わってくる船の機関の振動が強くなってきた。
そうかそろそろ出航だなと思い、外のデッキに出てみる。




出航の様子は何度見ても面白いもので、こんなにばかでかいものが果たして動くものなのかと思うように巨大な船が岸壁を離れ、足元に軽い搖動を感じるようになると、俺が今乗っているのは巨大建築ではなく乗り物なのだなと改めて思う。
左弦からきたかみを引っ張っていたタグボートからホーサロープが切り離され、船首が完全に港口を向くと、きたかみはエンジンの回転数を上げて自力で前に進みだす。
これに合わせてしばらく左弦側を並走していたタグボートは港口のあたりできたかみを見送るように汽笛をひと鳴らししてから大きく取り舵を取って離れていく。
明るく見えていた陸の景色もやがて見えなくなり、周囲は真っ暗になる。
エンジンは一層回転数を上げて太平洋を巡航し始める。
つづく
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