【模型】かわいい戦車を作る ~ドラゴン 1/72 M4A4戦車~
古来人間は乗り物に顔を描くものだということを、過去の中国のジャンク船の記事で書いた通り、どうも乗り物はかつては牛だったり馬だったりが引っ張ってきたという経緯があるせいか顔を描かれがちなようだ。
最近ではあまり見かけないが朝鮮戦争の頃までは飛行機にシャークマウスというサメの口と目を描くことがよく行われ、戦車もまた稀ではあるが虎の顔が描かれることがあったようだ。
これは敵を威嚇する効果を期待してのことだと思うが、中にはそんな動機ではないような気がするようなものもあったようだ。
今回は、そんな「かわいい顔」の戦車のお話である。
※以下は2008年12月15日のmixi記事より転載、加筆を行った
乗り物に顔を描くということは案外ちらほらみられるようで、福井市内を100円で走り回っているスマイルバスなんかにもニコニコ顔が書いてあったが、やはり一番多いのは意外なようだが軍隊だろう。
戦闘機にサメの口を描いたりするのはわりとポピュラーで、フライングタイガースの時代からよくこういうマーキングがされていたものだ。
また例はあまり多くはないが戦車にも同様のペイントがなされることもあり、朝鮮戦争ではM4戦車の車体前面いっぱいにトラの顔が描かれたものが有名である。
もともと黄色と黒の組み合わせはトラテープのように視認性ばつぐんであるからおもいきり目立つのだが、ああいうものは敵を威嚇するのが目的であるようだから、案外かまわんのかもしれない。
ともかく兵器に顔を描く場合は大体そういう目的であるからコワそうな顔にするのが当然なのであるが、今「例外なく」という表現を用いなかったのは、例外があるからである。
アメリカのM4中戦車は国民党の中国軍にも供与されたらしく、ドラゴンの1/72 M4A4中国国民党軍仕様の塗装ガイド図にはとんでもないマーキング指定があった。
なんだかドラえもんのようなマヌケ面でとても戦車に施す塗装とは思えないのだが、実在するのだからしかたない。
このキットにはほか複数のデカールがついていていろいろ選べるようになっているのだが、とにかくこんなおいしいデカールがついている以上こいつにしないのは勝ち負けで言えば負けである。
そういうわけで、先週から昼休みや残業中に時間をダンドリしては事務所でコツコツ組んでいたのだが、本日完成した。
やはり環境の違うところでやるとプラモはひどくはかどる。
組み立て完了
1/72なのでタバコの箱よりも小さいのだが、一昔前の1/35のキットなみの密度だ。
まったくドラゴンのミニスケールのキットは人間の手先の限界に挑戦させるようなものが多いのだが、特にエッチングパーツには難儀した。
息をするだけで無くなったり、指が接触するだけでヒン曲がって取り返しがつかなくなるような極小真鍮板のパーツをいじっていると、なんだかカビの研究をしているような気分になる。
ともかく組みあがってみると、エッチングパーツが金色に光ってかっこいい。
色を塗るのがもったいないくらいだ。
サフを吹いてから黒下地塗装。
最近下地はもっぱらガイアノーツのEXブラック(光沢)を使っている。
こいつのありがたいところは、隠ぺい力が非常に高いので厚塗りしなくてすむ点だろう。
正面から見るともっとマヌケである。
ところでこのデカール、砲塔防盾のざらざらな曲面に貼るのだが、デカール軟化剤のありがたさが身に染みて分かった。
またデカールもシルク印刷のカルトグラフ製だが、白がほとんど透けないというのも感動ものだ。
わたしがプラモに出戻ってこれで1年になるが、昔は曲面に馴染まないデカールで苦労したもんだ。
さらにウォッシングとウェザリングを施し細部を塗り分けて完成。
ぼちぼち新しいワザを覚えなければならんと思い、今回よりドライブラシを試してみたのだが、コシのつよいナイロン筆をトラ刈みたいにでたらめにはさみで切り詰めて作ったドライブラシ筆の調子がなかなかいい。
やりすぎるとバカなので控えめにしたが、ライトグレーで入れたエッジのハイライトがなかなかいい感じに仕上がった。
このキットで一番てこずったのが車体下部のドロよごれ表現で、エナメルのレベルカラー(たぶんハンブロールのOEM)の使い勝手が分からず、永久に乾かないんじゃないかと心配したほど乾きが遅い。
またレベルカラーはどうも下地のラッカーをややおかすらしく、ふき取りをやっていて下地の黒が出てきたりしておどろいた。
そういえばハンブロールは一旦乾いたら溶剤でも落ちないらしいので、どうも使いこなすには修行が要りそうだ。
さて、砲塔を10時方向に向けてみたが、本来であればこのアングルは戦車としては実にサマになるはずである。
ところがもともと丸っこくてあまり強そうに見えないM4戦車である上に、致命的なほどマヌケな目玉がついているので、「あっちのほうを見ているマヌケ戦車」にしか見えないのである。
このキットではスコップとレンチ以外の車外装備品は全部車体に一体のモールドとなっていたが、車体と装備品のスキマをデザインナイフで彫りこんでやることでなかなかいい感じになった。
そういうわけで、かわいいというよりマヌケな戦車ができた。
戦場で突然ヤブのなかからこんなのが出てきたら、びびるよりもまずはなごんでしまうのではないだろうか。
敵を笑わせて何がうれしいのかしらんが、ともかくこのマーキングは実在のものなんである。
2023年3月19日加筆
中華民国時代の中国、すなわち共産党ではなく国民党の時代の中国軍は世界の兵器の見本市のようなもので、1920年代はソ連、1930年代はドイツから兵器供与を受けていたが、1940年代に入るとアメリカから大量の物資援助を受けるようになり、兵隊の格好もドイツ兵のようなものから一気にアメリカ兵のようなものになった。
また国民党の時代は各地にまだまだ軍閥が割拠していて、それぞれの軍閥がてんでバラバラの装備を揃えていたことから、中には日本軍と大して変わらないような部隊もあったようだ。
そんな中で戦後第二次国共合作が終わって再び毛沢東の共産党軍と戦うようになると、反共を掲げるアメリカから相当の兵器援助を受けるようになり、アメリカ軍の下受けのような存在になるのだけれども、制服のデザインは微妙に中国の伝統というか好みを入れるようで、制服も制帽もアメリカ陸軍とほぼ同じであるにも関わらず詰襟であったり、ちょっとしたこだわりが見て取れるのが面白い。
戦車に漢字のマーキングを入れるのもそうだと思うが、しかしこの顔は一体何を企図したものなのかまるでわからない。
このタヌキみたいな顔がついたM4戦車は一体なにものだと思って調べてみるが、日本語のページではまるで出てこない。
そこで中国語のサイトを検索してみると、なるほど当時確かにタヌキ顔が描かれた戦車が出てくる。
どうやらこれらは国民党のビルマ遠征軍のものらしいということは分かったが、どういうわけでこの顔になったかはついに分からなかった。
考えてみれば中国の絵の中で図案化されて描かれている龍なり虎なりは結構まん丸いぱっちりおメメだったりするもので、もしかするとこのタヌキ顔も中国人なりに虎を描こうとしてこうなったものかもしれないな。