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【木工屋】全てはここから始まった⑥ 〜掃除機用スタンド〜

2016年の10月24日が、私のサラリーマン最後の日となりました。
その日は足取り軽く帰宅、翌日からは有休消化のため籍こそ会社にありますが、会社を出た瞬間に感じた開放感は今でもよく覚えています。
今までもブラック企業を辞めた日の開放感はよく覚えていましたが、あれはむしろ解放感というべきで、これで自由になれるというようなものでした。
最後の退職の場合、やはり自由になったという点では同じですが、前者がfreedomという「単に束縛を受けていない」という消極的な自由であるのに対し、後者はliberty、「自ら勝ち取った自由」という積極的で能動的な自由であるという点で、その意味合いは大きく異なります。
会社を中途で辞める理由としては、今までは割に合わない境遇からの脱出というネガティブなものでしたが、今回は違います。
これから自分の裁量で生きていくのだという前向きな理由です。

作業場を探せ

さて、話は少し前に遡ります。
退職届を出すことでいよいよ起業への準備を進めることになるのですが、なんといっても解決しなければならないのは工房をどこに置くかです。
今までは実家の庭でやっていたのですが、住宅地で毎日モーターツールの騒音を垂れ流すわけにはいきません。
それに文字通り青天井なので、時には雨も降りますし、北陸地方の福井は豪雪地帯でもあり、雪でも降ればまず仕事になりません。
それで、どこか作業場を貸してくれるところはないだろうかと知人に相談したところ、以前は大きな工務店だったが今は廃業して大きなスペースが余っているところを知っているというありがたい情報をいただきました。
早速連絡を取って、仕事が休みの日に話を伺いに行きます。

今は元工務店の方が一人で作業をやるのに使っているとのことで、かなり広いスペースが空いているが、貸すかどうかは会って判断したいという様子、どうも入社面接のような緊張を感じます。
それで実際に会って話を伺い、作業場を見学させていただいたところ、想像していたよりも広く天井も高く、木工の作業場としては大変魅力的です。
築どのくらいになるのかわからない古い作業小屋ですが、綺麗な社屋でないといい仕事ができないということはありません。
今までは外でやっていたのだから屋根があるだけでありがたい、もっともこれは後に別の意味でいやというほど痛感することになるのですが、それはまた別の話。
事業展開の予定などをお話しさせていただき、それではということで無事作業場を間借りできることになりました。
その家主さん自身も大工さんなので、木工のアドバイスなどもいただけるかもしれない、これはいいところに工房を見つけることができたなと思いました。

ここが工房になる

工房黒坂製作所の第一日目

さて退職する月は仕事が忙しく、中国出張などもあり販売は一時中断していたので売り上げは前月の半分くらいにとどまっていたので、これからしっかり作ってしっかり稼がなければなりません。
仕事を辞めた翌日の10月25日は実質的な工房黒坂製作所の開業日となりました。
まずは出がけに材料の木材をしっかりと買い込んで、また実家の物置にしまっていた工具一切合切を車に積み込んで工房へと向かいます。
それでも車1台に積み込んでしまえるほどの量で、工具類に至っては大型のバスケット一つに収まる程度なので、今から見たらずいぶん身軽なスタートでした。
大きな小屋の1/3くらいが私が間借りすることになるスペースで、これから私の城となります。
早速持ち込んだ道具類や材料を並べ、今までの遅れを取り戻すべく作業を始めます。
まずはヤミ商売でやっていた時と同じくらいのロットで製作を進めますが、今まで庭でやっていた時と比べるとスペースが無尽蔵にあるように感じたものです。
こうして工房黒坂製作所の日々が始まりました。

さっそく材料を運び込む
この頃は使っている道具もこれだけ

さて、恒久的に使える場所ということになれば、仕事をやりやすくするためのものをいろいろ揃えることができるようになります。
道具類を保管する棚も必要であれば、今まではスペース的に買うことができなかった大型の加工機材なども揃えたいところです。
棚は普通だとスチール製の組み立て式のものを買ってくる所なのでしょうが、そこは駆け出しではあるものの私は木工屋、必要なものは自分で作れば安く上がりますし、作業に最適なデザインと寸法のものを仕上げることができます。

仕事の前にまずは棚を作ろう

必要なものを揃えよう

機材についても以前から必要だと思っていたテーブルソーを思い切って購入しました。
掃除機スタンドの側板は1×4材を縦に均等に割った寸法の材を使うのですが、従来丸鋸でやっていた時はどうにも寸法が安定しません。
テーブルソーは文字通りテーブル状の台に回転するノコギリの刃がついていて、材料を送り出しながら一定の幅で切断できるというものです。
これから私は数をこなさなければならないので、効率こそが重要です。
とはいえ私自身もちゃんとしたプロ向けの機材をいきなり買う度胸はなく、また初めて使う機材でもあるので、まずはホームセンターで廉価で売られているもので扱いを慣れるというところからのスタートとなります。
とりあえずこれから必要となるであろう機材はひどい安物でも構わないから一通り揃えるべきだと考えたからです。
何せ私自身日曜大工程度の腕で、木工をちゃんと学んだこともなければそういう仕事をしていたわけでもないので、全てが勉強です。

早速購入したテーブルソー

どんどん製品を作ろう

起業して新しい工房で作った初めてのロットのオイルフィニッシュが終わった時点で出品を再開すると、ありがたいことにAmazonでものが売れるチャリンという音が再び聞こえるようになります。
ともかくも今は腕を磨き、大量に同じものを作ることで新しい加工に習熟することが先決です。
個人事業主になったのだから経営のことなど色々覚えなければならないことは山のようにあるのですが、まずはAmazonでチャリンチャリンという音が鳴り続けてくれる間に少しでも多くの製品を作り、売り上げを確保しておかなければなりません。

新しい工房に移ってから最初に作ったロット

普通に起業される方でしたら、事前にそれなりの資金を貯めるか借りるかして事に望むのでしょうが、私の場合は全くそういう必要はありませんでした。
何せヤミ商売でやっていた時の延長からのスタートなので、少なくとも道具は全部揃っています。
新しく機材を入れるにしても、まずはホームセンターで買える廉価なもので揃えるので、それほどの金額にはなりません。
従って自己資金というものも別に大金を持つ必要などなく、当座必要なものは新規ロットを投入するときの材料代と、都度必要となる消耗品費程度なので、ポケットマネーで十分賄えます。

さらに、Amazonのいいところは売上金の入金が2週間おきにあることで、これはキャッシュフロー的に大変ありがたいものでした。
通常日本のECサイトだと月末締めの翌月末払い、楽天に至っては月末締めの翌々月払いというものでしたので、さすがAmazonは給料週払いの国の会社だなと感心しました。
開業してからは売り上げも順調に伸び、やがてAmazonで一番売り上げが伸びる年末を迎えます。

つづく

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