【模型】めくるめく中華プラモの世界
ただ今これを書いている2023年は極端な円安が進んだせいか輸入品が軒並み高くなり、中国製品も昔のようには安いというようなイメージが持てなくなった。
模型の世界ではもう今から10年以上も昔から中国製キットの日本での販売価格が国産品と同等かそれ以上な価格に設定されるようになったことで、すでに安いものではなくなっていたのだけれども、私が雑貨仕入れのため広州のローカルな市場街を歩き回っていた15年前の2008年は、今から思うと中国が安かった最後の時代かもしれない。
あの頃は広東省で仕事をしていたが、一事が万事おおらかなもので、日本では想像もしないようなトラブルが業務上いろいろ発生してくれるのでまるで退屈せず、商社駐在員として本国の利益を守るために盛大に工場の現場で暴れまわったことを覚えている。
この時期の中国製品は確かに品質が悪いものが多く、当時商社の品質マンとして駐在していた私は何かと苦労させられたものだが、同時にいろんなものが安かった。
めしも安ければ給料も安いし家賃も安ければ命の代金まで安かった時代で、その分いろんなことが追い付いていなかったものだ。
ちょうどこの時期に広州でプラモ屋を見つけたことから私はプラモに出戻ることになったのだけれども、当時のプラモ屋に並んでいるものはたいていが輸入品で日本のものが大半、残りは成長期のドラゴンとトランぺッターという具合だった。
香港のドラゴンは香港人らしく日本語の誤植などまるで気にしない様子で、「つや消しブうッワ」といった調子でへたなパチモンよりもパチモンくさかった。
一方中国企業のトランぺッターは当時唯一のまともなプラモデルを作るメーカーで、パーツの合いがわるいとか離型剤がべっとりついていてランナーを洗浄しても塗料をはじくとかいろいろあったが安いのが魅力だった。
ところが、模型屋以外で売られているプラモデルというのがあって、これが実に怪しげな代物だった。
文具関係の問屋が集まるビルや市場というものがあって、そういうところを歩いていると恐ろしく安っぽいノートなんかが山積みになっていて、見ていて楽しいのだけれども、何やら模型を積み上げて売っている店がある。
なるほど日本もプラモデル黎明期は模型は科学教材という位置づけで、文房具屋で売ることが多かったと聞くが、当時プラモがまだまだ一般的ではなかった中国でも同じことなのかもしれない。
たいていのキットはパチモンだったに違いないが、一部はどう考えても海外のメーカーは作らないであろうという「愛国教育向け」のものもあったりしたので、頑張っている国産メーカーもあったようだ。
今回は、そんな「安かろう悪かろう」時代の中国のプラモデルのお話だ。
以下2008年7月21日のmixiの記事に転載加筆を行ったもの
プラモは作ってナンボだと思っていたが、キットのレビューというのも実に面白いもので、積んでいるキットを眺めているだけでも結構面白いものだ。
そういうわけで、今積んでいる中華キットのレビューのマネゴトなどをしてみたくなった。
先日広州出張の帰りにプラモ屋に寄ってきたのだが、最近身の回りで中華キットに興味を持たれる方が多いので、今回は中華バッタキット専門でごっそり仕入れてきた。
キット5個でお代は125元、邦貨換算ならちょうど2000円くらいなので、あまりの安さに涙が出てくる。
これでちゃんと組めるなら、駐在しててよかったなあと感涙に耽るところだが、さてさてモノはどんなもんだろうか。
この航空会社は今まで出張のたびにイヤというほど乗ったもので、白ベースに原色の赤と青のラインが入っているというこれ以上ないくらい安直なデザインでおなじみの航空会社、機内食はあまりうまくないがとりあえず私が乗った限り落ちたことはないので別に不具合はない。
キットにはディスプレイもついていて、これなら事務所の机の上に飾っておいてもそう違和感はあるまいと思い、すぐに飛びついた。
なお、KITECHからはAIRLINEシリーズということでいろんな航空会社のシップがリリースされているが、AWACS(早期警戒機)とAIRFORCE ONE(米大統領専用機)はどう考えてもエアラインではなかろう。
そういう節操のなさからいってこのキットはパチモンではなくKITECHのオリジナルなのかとも思うが、よく分からない。
キットはランナー2枚とディスプレイから構成されていて、成型状態はあまりよくなく、筋彫りが甘かったりヒケが目立ったりしているが、まあ修正できる範囲内であるから問題ない。
パーツは離型剤のアブラでギラギラなのだがこれは中華キット全般に言えることなので、ちゃんと中性洗剤と湯で脱脂洗浄するという作法どおりやればどうということはない。
残念なことにキャビンの窓は全部デカールによる表現のみでモールドは一切ないのだが、筋彫りの上にデカールの窓がカブるようなマヌケなことになりさえしなければ、まあよかろう。
窓は銀で印刷されていて、ところどころ印刷不良でかすれているので、タッチアップは必要かもしれない。
まあモノが旅客機だけにパーツ点数も少なく、やろうと思えば2日で完成するだろう。
飛行機キットは丁寧な塗装と丁寧なマスキングが命なので、練習がてらにはちょうどよい。
1機完成したら、いつも航空券の手配を依頼しているHUIMEI酒店のチケットカウンターに進呈してやろうかと思っている。
なお説明書の左片隅にはタミヤの「作る前に」おじさんみたいなカットがあるが、いよいよこいつがオリジナルなのかパチモンなのか分からなくなる。
こいつは懐かしい。
私が学生のころだから、もう15年ほど前だろうか、たしか一般公募で小学生の女の子が描いたデザインが全日空に採用されて、マリンジャンボという特別塗装の飛行機が一時期飛んでいたものだ。
まさかそんなもんが大陸バッタキットメーカーのKITECHからリリースされているとは思わなかった。
なんだか日本の伝統工芸品が広州の貿易(輸出専門)卸売市場で売られているのを見るような気分だ。
パッケージの「マリンジャンボ」というカタカナのフォントがまったく破綻していないところを見ると、やはりコイツは日本のメーカーのキットのパチモンなんだろうか。
筋彫りなどのモールドが甘く見えるのは、もしかしたらベリ鋳形金型のせいなのかもしれないが、どんなもんだろうか。
さっきのエアバスと比べるとB747はさすがにでっかく、翼面などもひどくでっかい。
成型色は塗装の色に合わせて青い色になっているが、これだと機体下面や主翼上下のグレー/白の発色が悪くなってしまうので、できればエアバス同様に成型色は白のほうがありがたかった。
さて、このキットは平面部にはわりとえげつないヒケが目立つのだが、翼面がひろいB747なら塗装前のパテ埋めは必須だろう。
また金型も表面が結構荒れているので、下地はしっかり処理しておきたい。
成型もあまり上手ではなく、ヘタをすると塗装後も見えるようなハデなウェルドがあるが、そういう意味でもこいつはベリ金型製のパチモンなのかもしれない。
このキットの場合一番の売りはデカールだ。
なんといってもマリンジャンボの仕様を塗装で表現するには無限の時間と根気とキアイが必要であって、デカールがなければ話にならないのである。
そのデカールだが、なかなか雰囲気よくできている。
もっとも口の部分の黄色やその他の絵柄は下地が濃いブルーになるため、透けないかどうかがちょっと気になるところではある。
デカールの印刷品質はあまりよくなく、線がかすれていたりもするのだが、まあこういうのは雰囲気だからとりあえずよしとしよう。
うまく貼れるかどうかがポイントになりそうだ。
もっともキットの単価がたった15元(220円)なので、デカール貼りに失敗してもデカール調達のためだけにキットをもうひとつ入手するという荒業もできるのがありがたい。
今度はKITECHと並ぶ大陸の中堅プラモメーカーのC.C.LEEで、安いがなんとか組めるキットメーカーとしてはこの2社が竜虎と言えるかもしれない。
ところでこの帆船キットだが、これもオリジナルなのかパチモンなのか判然としない。
もし日本にまったくおなじシリーズのものがあればパチモンだと断定できるのだが、そうではないと思わせる要素も少なくないので、正直どうだかわからない。
もしオリジナルだとすれば、中華バッタキットと言えどそうそうバカにできないレベルのものを作れるようになったと言えるだろう。
(註:のちにこれは旧イマイのキットのコピーと判明)
まずパチモンだと考える根拠の一つは同時にリリースされているものに海王丸と日本丸が入っていることだが、ほかにも聞いたことがない(私が知らんだけ)フネもリリースされているので日本メーカーのパクリと断定する根拠としてはやや弱い。
次に、説明書の図案(写真部分)の印刷がちょぼいことで、メッシュ印刷を転載した時特有の荒れ方をしているので、ちゃんとした版下を使わずに安直にほかの印刷物を版下に使ったようだ。
加えて、パッケージの作例画像がヤケに丁寧であることに違和感を感じる
大陸キットの場合トランペッターなどの高級メーカー(大陸ではそうなのだ)ですら作例はシロウト同然のものであることが珍しくないので、こいつのように「ちゃんと」見れるさまになっているというのは却ってあやしいのである。
(註:この部分は当時このキットのオリジナルが旧イマイであることをしらずに書いている)
一方でオリジナルだと思わせる根拠も複数あり、まずパーツの展開がC.C.LEE独特の色プラによるランナー展開になっていることで、現在製作中のドイツの家同様に初めから完成後の色に合わせた成型色で固めている。
また、短艇などはわりと深いモールドで艇内のディティールもそれなりにがんばっているが、こういう表現はC.C.LEEらしい分かりやすさを感じる。
加えて、ベリ銅型によるパチモンの場合は元のオリジナルについていた原産国が分かるような部分はすべてリューターで削るなどの処理を行っているものだが、このキットにはそういう後で追加した加工が見られず、MADE IN CHINAの刻印も不自然なものではないことから、正規の金型でちゃんと作ったもののように見えるのである。
さて、エスメラルダというのはチリ海軍の練習艦で、わりと有名なフネらしい。
そういえば横須賀の軍艦三笠を復元する際にこいつの備砲を分けてもらったということもあったと聞く。
甲板がかなり入り組んでいるのだが成型状態は悪くなく、マスキングさえきちんとしてやれば結構模型映えしそうなキットだ。
帆船キットなので、ロープの表現は避けて通れないだろうから、ちゃんと完成させるにはかなりの時間を使うに違いない。
ともかくドイツの家でもそうだったが、C.C.LEEは組みやすいパーツ構成になっている上にモールドがしっかりしていて分かりやすいので塗装もやりやすく、こいつを作るのは結構楽しそうだ。
このキットに限っては間違いなくパチモンでないと断言できるだろう。
なんといってもコイツの背景には政治の力がプンプンするのである。
どういうことかというと、このキットはもともと博物館の記念品、すなわちミュージアムショップのおみやげ物なのだが、大陸のこの手の博物館をナメてはいけない。
甲午戦争(日清戦争のこと)博物館というのがどこにあるのか知らないが、多分北洋艦隊の根拠地だった山東省の威海あたりではないかと思うのだが、この手の場所は大陸ではいわゆる「愛国教育基地」とやらに指定されていて、あることないことプロパガンダをタレ流す油断できない場所だったりするのである。
鎮遠といえば日清戦争前までは極東で最大の軍艦であり、甲板に洗濯物を大量に干したまま日本に威力外交で寄港してオドシをかけていたりしたわけで、明治の弱小日本海軍の最大の懸念であったのだが、その威容に反して日清戦争では同型艦の定遠は沈没、鎮遠は座礁の後に日本海軍に鹵獲されるという、まあ中国側にとっては恨み忘れじがたく候といったフネだ。
まあ普通に考えれば19世紀の過渡期の産物である装甲巡洋艦がプラモになるなんてことは、マイナーすぎてまずありえないのだが(最近内地では「ありえない」という言葉をでたらめに使いすぎだ)、なんせ大陸では清国海軍が誇るモダンな軍艦である以上に、一時期は海軍の戦略的スタンスを大いに支えていた誇りであるとともに、こいつを含めた清国海軍北洋艦隊がわりとあっさり海の藻屑になってしまったためその後の清国の衰退にモロにつながったというわけで、わりと有名だったりする。
そういうわけで、これが大陸の今はやりの愛国主義教育に直結してプラモ化されているという次第なのだが、このシリーズのバリエーションもものすごい。
箱に出ているだけで、同型艦の定遠はもとより、致遠に靖遠までがキット化されており、あたりまえだがまるで違う国の話のようだ。
こんなマイナーなものが、ニチモの30CM軍艦シリーズよろしくモータライズでリリースされているので、やっぱ海を越えたところには変わったものがあるものだと感心させられる。
パーツ構成は船体のほかにランナー2枚とモータライズ関係の金具にデカールがついているが、手すりや甲板の表現はずいぶん大味なので、一見1/150くらいの水雷艇ではないかと思ってしまう。
今ではKITECHもわりとシャープなモールドを表現できるようになったが、このキットは割りと旧いので、1/700をそのままスケールアップしたようなパーツ展開になっているのはしかたなかろう。
さて、パッケージには作例の写真が出ているが、どうも30サンチ砲の砲身が長すぎやしないかというのがちょっと疑問に思った。
というのは私の場合この艦をまともに知ることになったきっかけが宮崎駿「雑想ノート」で、缶詰のような砲塔から申し訳程度にちょびっと突き出した砲身が印象的だったからで、やはりこれは「大砲とチンチンは長いほうがえらい」という幼稚な発想からこうなっているのかと思った。
ともかくケチをつけるならちゃんと寸法を測ってからつけるべきであろう。
この砲は30サンチの20口径なので、砲身の長さ(ドイツ艦であることから薬室込み)は0.3×20で6メートルとなり、スケールが1/300であることからキット上の寸法は2センチ、ドレドレちゃんと2センチかとおもって見てみると、ちゃんと薬室込みで2センチではないか。
よしよし、そういうことなら問題ない、疑って悪かったのうと思いながらもう一度宮崎駿「雑想ノート」をマユにツバをつけながら見てみると、ちゃんと本には「この本には資料的価値はありません」と断ってある。
なるほど、資料的価値はないのか、そうであるか、なら問題ない。
何事もハッキリしないのはいけないが、ちゃんとハッキリしているのならいいのである。
しかし、この砲塔には上面に戦車のハッチのようなものがついているが、この大きさだと1/72の戦車ならちょうどいいが1/300となるとめちゃめちゃにばかでかいハッチである。
本当にこんなものがついていたのかしらないが、とりあえず宮崎駿「雑想ノート」にはこんなものは描かれていないが、実際のところはどうなんだろうか。
ところでこのキットはモーターライズだと書いたが、ニチモの30センチシリーズと違うのは、豪華にもモーターひとつでスクリュー2基を回す構造になっていることで、しかもしゃらくさいことに左右の軸がそれぞれ逆に回転することでトルクを打ち消しあう構造になっている。
もともと水に浮かべるつもりはなかったが、こういうぜいたくな構造となれば、ちゃんと作って工場の噴水池で浮かべてみたくなるもんだ。
しかしそうするならばちょっと問題がある。
キットの構造上ハル(水線下船体)は甲板の上からネジ止めするようにになっていることから、喫水線部分を接着することができない。
これはデンチを交換したりするためにはずせるようになっているのだが、こんな部分を接着しなかったらすぐに水が入ってきてオシャカになり、轟沈してしまうであろう。
また模型製作上の制約からもこの部分はきっちり接着して段差を整形してやらなければならんのだが、そうすると今度はデンチの交換ができなくなる。
まあ、そうそう水に浮かべて遊ぶようなこともなかろうと思うので、実際に作るときは電池をハメ殺しにするよりほかあるまいと思う。
それにしてもゴツいフネだ。
ラムがついているだけでかなり迫力があるが、とてもイマドキのフネには見えない。
まるでタンカーかチョロQのようにデフォルメしたキットのようだが、こういう浮かぶアイロンみたいなのが19世紀末の軍艦の特徴といえる。
こんなものがニチモの30センチシリーズみたいな気軽さで手に入るというのも実にフシギな感じがする。
せっかくなので、エスメラルダと一緒に並べてみた。
そういえば日清戦争前は日本海軍にはロクな軍艦がなく、ヘタをすればこういう帆船すら第一線で艦隊を組んでいたわけであるので、山本権兵衛が必死で軍艦を買い入れまくっていたのもうなずける。
明治時代は諸外国に対する綱渡りのような安全保障の連続でようやく国が成り立っていた時代だが、こうやって鎮遠と3000t級フリゲート艦を並べてみると、なんだかその時代の縮図のような気がするのである。
この艦がドイツより清国海軍に引き渡されたのが1885年だから西南戦争が終わってほんの8年後、1894年の日清戦争を待たずに清国がその勢いで日本に攻めて来ていたら、我々は間違いなく今頃中国語をしゃべっていたに違いない。
つくづく中国人の作る政府が無能でよかったもんだ。
2023年3月4日加筆
これは今は昔のようなお話で、今から15年前の中国は安かろう悪かろうの最後の時代だったと思う。
まあいろんなことが過渡期で、模型にしたところでこのような安物の粗悪品が出回っていたのだけれど、こういう基礎から今のMeng Modelやgreatwall Hobbyに繋がる流れができたのだと考えると、そういえば日本だって日本初のプラモデルはモノグラムかどこかのパチモンだったじゃないか。
このように歴史を評価する場合はある程度のスパンを見た上で判断する必要があり、単なる点だけをみて「ああ中国は安くて質が悪い国だ」と軽々に決めつけると2023年の現在えらく恥をかく羽目になる。
さて当時は確かに品質が悪かったので、中華プラモをちゃんと完成させるためにはパーツの成形やその他あらゆる模型テクニックを駆使する必要があるため習作にはもってこいなのだけれど、苦労させられる割に見栄えは大したことがないので、どちらかというと報われないプラモだった。
そんな中でも中国メーカーでC.C.LEEというメーカーは個人的に気に入っていて、ここでは帆船エスメラルダ号を出しているメーカーなのだけれど、ここのプラは妙に柔らかくて色も半透明っぽい色なのがプラモデルらしくなく、他のラインナップでは「ドイツの家」といったようにオリジナルの教材っぽいものもあって好きだった。
なおこのエスメラルダ号は完成させたのだけれど、プラ材質がとにかく柔らかいのでマストやヤードがすぐに曲がって往生したのを覚えている。