【木工屋】全てはここから始まった⑦ 〜掃除機用スタンド〜
起業してすぐの2016年12月には、Amazonでもっとも商品が動く年末を迎えます。
これはとんでもない勢いで注文が殺到する時期で、当時ダイソンの掃除機は売れに売れていましたのでスタンドの需要も大きく、できたばかりの工房黒坂製作所にとって大変ありがたいものでした。
起業して1ヶ月ちょっと過ぎた12月の初頭には、一度に40台くらいを生産するペースで仕事をしており、月産が120台くらいだったと思います。
少しずつロットサイズを増やし、面倒な工程は加工方法や設計を見直して少しでも作りやすく、同時に使い勝手や完成度も上がるような変更を加えていきます。
この時は作れば作るほど習熟度も上がり、ロットごとに出来栄えが進化するような有様で、といっても日曜大工レベルからのスタートなので、今の目から見れば30点でスタートしたものがロットを追うごとに5点ずつ上がっていくようなものです。
ともかくも「今作っているロット」が最高の品質で、翌週作るものはさらにそれを上回るという感じです。
よほどスタート位置が低かったと考えるべきですが、上達していくということは大変なモチベーションの向上につながります。
こうして、ヤミ商売でやっていた木工屋の仕事ははっきりと「事業」らしくなってきます。
12月の1週目が終わった頃だったと思いますが、Amazonでスタンドが売れるチャリンという音がやたらに鳴るようになりました。
それまでは一日大体3−4台くらいが平均出荷数だったのですが、この時期になると7−8台、ピークでは14台ほどを出荷する日も出てきました。
Amazonはどうやら年末に一気に売り上げが上がるようで、これは大変、倉庫には何十台も在庫を置いていましたがこのままではあっという間に払底してしまいます。
そこで、大幅な増産を行う事にしました。
20台程度を作るのであれば加工と組み立て、オイルフィニッシュまで1日、オイルの乾燥に2日おいて4日目に梱包となるので最短リードタイムは4日です。
今までメーカー勤務だった時には、納期というものは60日くらいだというのが常識でしたので、投入から完成まで4日なんていう短納期はとんでもないスピードです。
工場直売で納期4日なんていうのはハタから見たらものすごくチートな条件のように見えますが、これは木工だからできるメリットともいえます。
ところが月産80台程度では今目の前で始まったゴールドラッシュにとても対応できません。
それで、一度に投入するロットサイズを100台として、とにかく部品加工を先に進めておきます。
段取り替えで時間がかかるのは圧倒的に部品加工で、これを一度に進めておくことで一気に効率化を図ることができます。
後の組み立てやオイルフィニッシュはかかる時間が概ね生産台数に比例するので、都合のいい時間に必要な分だけ組み立てて仕上げればいいだけです。
やがて、もっとも騒音が出る加工の作業を日中に行い、比較的音が出ない(ただしインパクトドライバのガリガリ音は出る)組み立て作業は夕方から、完全に音が出ないオイルフィニッシュは深夜時間帯に行うということがルーチンワークのようになりました。
この頃の1日はこのようなものだったと思います。
朝起床してから9時くらいまでは、それまでに入っているオーダーを処理し送り状発行を行うなどデスクワークを家で行います。
これがすみ次第工房に向かい、材料を切ったり削ったりという作業で粉だらけになります。
夕方までには倉庫から出荷する製品を積み出して近所のファミリーマートに行き、発送を行います。
夕方になると完成した部品の中から組める状態になったものをセット組みして組み立てを行い、それからオイルフィニッシュを行なって夜10時くらいに帰宅します。
帰宅した後は再びデスクワークで出荷した製品の出荷連絡と、その他事務仕事を行い、夜2時くらいに就寝です。
絵に描いたようなブラック勤務ですが、ともかくも起業して3年は死に物狂いでやると決めました。
自分の限界がどこまでなのかを知っておく必要もありますし、努力を極限化した状態で出てくるアイディアもあるはずです。
幸いにして私は若い頃からブラック勤務慣れしており、さらに子供の頃は実家の縫製工場の手伝いという児童労働で育ってきましたので、こういう事には慣れています。
あまり一般におすすめできることではありませんが、自分の限界に挑戦してみるということは決して意味のないことではないのです。
出荷についてですが、当時はファミリーマートで扱っている宅配サービスで「はこboon」というものがありました。
これは伊藤忠とヤマト運輸が組んで行なっている宅配事業で、とにかく安いのがメリットでした。
160サイズ(縦横高さの総和が160cm以内)の荷物の場合、ヤマト運輸の宅急便だと一番近い地域でも1800円くらいはしたはずですが、はこboonだとなんと803円、これはとんでもない廉価でした。
私にとっては大変ありがたいので盛大に利用していたのですが、よくよく考えてみるとヤマト運輸が単独でやっている単価の半分以下の値段で、しかも伊藤忠が絡んでくるマージンを抜いたら、ヤマト運輸の取り分は一体いくらなんでしょうか。
宅配業者の負担増が問題になる少し前の話です。
起業してからというもの値段を見ると原価や粗利はいくらなんだろうと考えるのが癖になってしまったので、ヤマトさんに申し訳なく思いつつも、毎日大量のスタンドをせっせとコンビニに運んでは全国に製品を送り出していました。
12月も20日を過ぎると雪がちらつきだし、とりあえず一旦仕事をひと段落させる事にしました。
本当に売れ出すのは年末年始なのですが、一度ここで製品の仕様や仕上がりを改めて見直す必要があるのではないかと感じたからです。
一般販売する以上日曜大工のような出来ではいかん、うちは工場なのだ、手作り感満載なんてものは腕が悪いと思え、という方針でやっていたので、時々こうやって落ち着いて振り返る機会が必要です。
大量に販売したものに対するカスタマーレビューもちらほらと届くようになってきました。
もったいないといえばもったいないですが、そういう決断に慣れる必要もあると感じたからです。
ともかくも起業した年の12月はとんでもない勢いで製品を作り送り出したもので、売り上げはなんと100万円を超えました。
ダイソンのブームはまだ続きそうな勢いです。
つづく
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