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【中国戦記】郵便物は忘れたころにやってくる 2005/9/3

8月の始めのころだ。
実家からちょっとした荷物を送るから1週間待ってしかるのちに確認せよという連絡を受けた。
小型包装物扱いで送ったので安かったのでうれしいと言っていた。

さて、日本から中国に荷物を送る手段は大きく分けて3つある。

・EMS,DHL等の国際速達便
企業などがサンプルや少量の商品を送る場合これが一番一般的で、料金はなるほど高いが送り状番号でしっかり追跡ができ万一の不着事故の際も補償が付いてくる。
配達まではおおむね1週間だがOCSなどは中2日で着く場合もある。

・郵便局の小型包装物
これは安い。
小さなものであれば郵便物と同じ扱いで出すことができる。
もっとも保証も何もなく不着事故になった際は泣くしかない。
荷物の破損の懸念もある。

・必殺人間ハンドキャリー
ずばり人間が直接持ち帰るので、中国を出るまでにタクシーにだまされていらんところに連れて行かれない限り、若しくは税関で根性が悪い税関吏にあたらないかぎりまず確実である。
ある意味もっともカネのかからない発送方法であると同時にある意味もっともカネのかかる発送方法である。

さて、郵便局の小型包装物であるがコイツは時間がまったく読めないので困る。
盆あたりにそろそろぼちぼちかと思っていたがまったく着く様子もない。
それではと20日過ぎ当たりかと思っていたがそれでもまだ着かない。
月末に到るも物は届かず、これは不着事故だなとあきらめていたところであった。
中には内地で手配してもらった1GBのCFメモリカードもはいっていたのでかなり残念であったが小型包装物扱いでは仕方がない。
そういうわけですっかり荷物のことは忘却のかなたに忘れ去っていた。

ところが先ほど事務所に戻ってみると事務机の上に茶色い封筒が載っているではないか。
ハハアこれが例の荷物かと直感し、開封してみるとまさにそうであった。
恐ろしい事にSEA MAIL(船便)という判子が押してあり、遣唐使の時代じゃあるまいし、いまどき手紙扱いの郵便を船で送るのかと思ったが、とにかく本日着いた。

配達履歴の詳細を見てみよう。
まず切手の代わりに貼付されているスタンプは福井新田塚局8/2付けの消印がある。
裏には広東東莞局の消印がダブルで入っているが日付はかすれてよく読めない。
途中で開封された形跡は見当たらないのでどうやら純粋にまる一月かかったようだ。
実は大昔の93年に留学していた時に西安から日本に出したエアメールが検閲に遭ったことがあって、どうも具合の悪いことを書いたせいかその後3か月日本からの郵便物が一切届かなくなり(国際電話で日本に聞いたら何度出しても戻ってきたとのこと)、大学の外弁(外国を相手にする渉外担当部署)経由で公安に烈火のごとくクレームを付けたら再び届くようになったということがあって、それ以来私は中国の政府を全く信用していないのだけれども、どうやら今回はそういうことではないらしい。
しかし遣唐使の時代ならともかく月面に人間がブッ飛んでいく時代に何で日本から中国までの船便におよそ一月もかかるのであろうか。
大体港で便船待ちのために集積しておくとしてもせいぜい3,4日であろう
定期便は少なくとも週に1,2便はあるはずなのである
フネに積み込んだ後もそれほど時間がかかるとは思えない。
大阪-上海の鑑真号などは2泊3日で、しかも3日目の朝には揚子江の河口に着いてしまうのである。
広東まで来たとしても5日もかかるまい。
すると問題はその先か。

なにせ中国の一般郵便物の扱いは恐ろしく悪い。
郵便局あたりでは、緑色の郵便トラックからばかでかい郵袋をほり投げて積み上げるくらいのことは日常茶飯事で、まるでドンゴロスに入れたマニラ麻を扱うようなものである
人足の中には郵袋の上に土足で上がっている奴すらいる。
つまり小型包装物で送った場合、運が悪ければ荷物はそういう扱いをされるのだ。
荷役もひどければ、配送のダンドリもひどいであろう。
これできちんと届くというのがフシギなくらいである。

ともかくも8/5に福井市新田塚郵便局から差し出された荷物は約1ヶ月ヒデエ目に合った末に本日常平のあて先に無事届いた。
郵便物の流れを当の郵便物の視点から追跡するとかなり面白いドキュメンタリーになるのではないかと思う。

【追記とあとがき】
本稿を書いた2005年当時は比較的物流もよかった時代で、コロナ禍の現在からみればウソのようなスムーズさだ。
何せDHLのような国際クーリエ便なら発送した明後日には日本の本社に届くのが当たり前で、物流も航空会社も正常に営業していた時代というもののありがたみが今となってはとてもわかる。
現在Amazonの出品業者で中国から商品を直送する業者も珍しくないが、大体1ヶ月弱くらいの時間がかかることを考えると、なんだか時代が変わったような気がする。
むしろ中国からの発送にそのくらい時間がかかるほうが、日本の業者が生き残る細い糸が残されていると考えると喜ぶべきなのかもしれない。
日本国内からの発送だと概ね翌日から翌々日の配達になるのだが、もし同等の商品でこれよりもっと安い上代のものが5日程度で届くとなると、そちらを選ぶ人は多いのではないか。
今は中国郵政の普通郵便で発送してもトラッキングが可能なので、デリバリーの日数がもっと短くなってきたら、中国から輸入して国内で在庫している業者は商売が厳しくなるに違いない。

さて、中国から日本に荷物を運ぶ第3の方法として紹介したハンドキャリーだが、この会社では帰国のたびにこういうことをよくやったもので、むしろ大変急ぎのサンプルのタイミングに合わせて帰国日時を決めていたようなものだ。
ただし駐在時の一時帰国のペースは大体年2回程度、ひどい年になると一度も帰国しなかったということもあったのだが、そういうわけなのであまり頻繁に実施するわけにはいかない。
では出張者はどうかというと、これがまことに理解に苦しむ話で、当時月に1回定例出張ということで中国に仕事をサボりにきていた直属の課長などはサンプルはおろか出張先で自分が使う書類までEMSで別送するような人物で、帰国するときに何かを持って帰ってほしいというと烈火の如く怒り狂う始末でどうにも往生した。
なんでも機内預けの大型スーツケースを持っていると帰国の時関西空港でバゲージクレームに荷物が出てくるまで待たなあかんのじゃ、ほうすっと関空特急「はるか」に間に合わんのじゃという呆れた理由で、この人物の頭はどうかしているに違いないと思ったものだ。

ならば社長はどうかというと、社長も大型のスーツケースを持ち歩くようなことはせず、というかそもそも自分が身を労するようなことはやらないような人物なのでハナから期待したことはなかった。
それよりも、火急の荷物があって私自身がハンドキャリーできないような場合、「お前これ香港空港まで持っていって関空行きの飛行機に乗る人に持って帰ってもらえや、1000円くらいお礼しとけばいいやろう」という目の覚めるようなことを仰る。
冗談じゃあない、見ず知らずの他人に荷物を委託するということはイケナイお薬を密輸する業者の常套手段じゃないか、そんな非常識なことができるか、なるほどあの課長も課長なら、そいつを雇っている社長も社長だ。
中国に駐在しているときに仕事でドッと疲れを感じることは多かったが、実はその原因の半分以上は中国由来のものではなかったことを白状しなければならないだろう。


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