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【木工屋】全てはここから始まった① 〜掃除機用スタンド〜
早いもので来年の2025年は工房黒坂製作所を始めて10年目の年になります。
思えばかなり無茶なスタートでしたが、9年目の現在もなんとかやれておりますので、こういうことは思い切りも必要なのかも知れません。
そこで、私が起業した時のことをシリーズ記事で書いてみようと思います。
これから起業される方の参考になるかどうかわかりません。
これから起業する方のご家族を安心させる読み物になるかどうかもわかりませんが、自分で独立して商売を始めるということへのハードルを少しでも下げることができればと思います。
どうぞお付き合いください。
最後のサラリーマン生活
私は30代から40代にかけての約10年間中国で仕事をしていました。
人生山あり谷ありの日々を深圳で楽しく過ごしていたのですが、2014年の10月に勤めていた会社が突然消滅しました。
社員200人ほどの中国の電子メーカーでしたが、経営者逃亡による倒産というか消滅劇は当時の中国でも目を引いたようで、現地の新聞にも載る始末、給料未払いで頭に来た一部の社員が決起して労働争議どころか一向一揆のような騒ぎになりました。
董事長(日本でいう会長職)がカネを払わないなら日本人が代わりに払えというわけでなぜか私含め3名の日本人スタッフが監禁され、決起した徒党と睨み合いが続くという日本ではなかなか味わえない体験ができたのは今となってはいい思い出です。
それで2015年に中国から地元の福井県に引き揚げてきて、地元の機械メーカーに入社しました。
モノづくりの経験があって中国語と英語が使えるということでそれなりに重宝されたようですが、フタを開けてみたら地元では有名なスパルタンな社風で知られる会社で、新入社員の平均寿命が約半年という目の覚めるような仕事が待っていました。
私はその3倍、つまり1年半働いて最後のサラリーマン生活を終えたのですが、今から思えばよく指が10本揃ったまま退職できたもんだと思います。
木工を始めたきっかけ
さて、帰国してしばらくは実家住まいだったのですが、なぜかここで木工を始めることになりました。
というのは実家の両親から棚を作って欲しいとか収納を作って欲しいというようなことを頼まれるようになり、特に木工に心得があったわけではないのですが、もともと公私共にモノづくりをやっていたせいか、なかなかどうしてちゃんとした棚が出来上がりました。
安くいろんなものが作れるぞというわけで両親の依頼はどんどんエスカレートし、ついには庭にパーゴラ(あずまや)を建てるに至りました。
あの頃は週末が来るたびにホームセンターにSPFの1×2材を買いに行っては庭に道具を並べ、粉だらけになっていろんなものを作っていたものです。
その時に建てたパーゴラは30豪雪を経て10年経った今でもしっかり実家の庭に立っています。
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ダイソン掃除機は日本家屋では使いにくい
家内は仕事の引き継ぎの都合上まだ中国に残っていたのですが、いずれ引き揚げて来る日のために色々な家財道具を揃えており、その中にダイソンの掃除機がありました。
これがまさかまさかその後の私の人生を大きく変えることになるとは全く想像もしておりませんでした。
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画像はのちに買い替えたもの
ダイソンの掃除機は普段壁掛けタイプの充電器に引っ掛けておくものですが、この充電器が実に悩ましく、壁に直接ビスどめするのが前提となっているものです。
ところが日本の家屋の壁は大抵が石膏ボードに壁紙を貼ったもので、下地がないところにビスを打ってももぎ取られるようにすぐに抜けてしまいます。
また、家内が来たら外にアパートを借りる予定なのですが、賃貸住宅で好き勝手に壁にビスを打つわけには行きません。
なのでしばらくは部屋の隅に立てかけておいたのですが、トップヘビーなスティック掃除機は何もしなくとも大音響を立てて倒れてしまうので、これはたまりません。
寝かせて床に置くにしても邪魔で、いちいちしゃがんで持ち上げるのも面倒、せっかくのコンパクトで手軽に使えるスティック掃除機のメリットを活かせません。
ダイソンはイギリスの会社ですが、どうも日本の住宅事情には合わないようです。
充電器をネジ止めできるスタンドを作ろう
そこでどうしたものかと考えたところ、垂直に板を立ち上げて充電器をビス留めできるスタンドを設ければいいのではないかというアイディアが浮かびました。
重量のある掃除機を支えるだけでなく、充電器から着脱する衝撃にも耐えることが必要ですので、単に板と台座を90度に接合すればいいというものではありません。
柱が掃除機の重量に負けてしならないように細い側板を両側に取り付け、これがぴったり収まる溝を2×4材に彫って固定、さらにこの両側に足を取り付けるのですが、これも2×4材の厚みに合わせて溝を切り、何があっても壊れない頑丈な構造を木組みで作りました。
早速充電器をビス留めすると、それまで恐る恐る立てかけていた掃除機が見事に安定し、好きな時に手軽に取り外して掃除機が使えるという本来の便利さを体感することができました。
こうなると、もっと使いやすくしてやろうと考えるのは自然なことで、見苦しくブラブラしていた配線を板の後ろに回してスッキリさせてやろうと思い充電器の下に配線孔を開け、さらに掃除機に大量に付属していたオプションノズルもうまいことまとめて収納できるように、オプション収納用のピンも立てることで、いよいよ完成度は上がってきます。
工夫して考え手を入れれば入れるほどどんどん使い勝手が良くなるという楽しさはモノづくりならではのものです。
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※画像は製品初期型のもの
スタンドを売ってみた
この時はまだサラリーマンをやっていたのですが、こんなものを作ったぞと同僚に話したところ、「黒さん、これ売れますよ」という返事が帰ってきました。
私は10年も中国にいてすっかり浦島太郎になっていたので日本国内の事情や流行にはまるで疎かったのですが、当時はダイソンのスティック掃除機が全国を席巻する勢いで売れていたのだと初めて知りました。
それで、私と同じような不便な思いをしている人が全国に大勢いるとのことで、素人が日曜大工で作ったようなものでもヤフオクやメルカリで結構売れているのだそうです。
きつい仕事と安い給料に辟易し、この先歯を食いしばって定年を迎えたとして俺に何が残っているのだろうという暗い将来に暗澹たる思いをしていた時期でしたので、ではちょっとやってみようかという気になりました。
早速家に帰った後にネットで調べてみると、なるほどそういう製品が出品されています。
メーカーが事業として生産して供給している商品も幾らかありましたが、見ると私が当初懸念したL型の接合部が単に板を継いだだけのものが大半で、これはいくらも保(も)たんだろうというような構造です。
私のスタンドはとにかくL字構造を保つべく耐久性に徹底的にこだわったものなので、これなら十分戦えそうだと感じました。
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さて、他人様にお金を出して買っていただく以上は、物としてちゃんとしたものでなければならないのは当然です。
それで、自分の部屋で使っていた掃除機スタンドをよく眺め、製品化するならどのように改良すべきかを考えます。
元々は頭のイメージに従ってノリと勢いで作ったものですが、きちんと製図し寸法を設定して、数を作ることを前提のモノづくりの準備を進めていきます。
そうして最初の4台の製品が出来上がりました。
これを販売するためには発送に耐える梱包も必要です。
スタンドは軽い割には結構かさばる物で、箱に入れるとものすごく大きなものが必要となり、空気を運んでいるような感じになります。
そこでホームセンターでエアキャップ(俗にいうプチプチ)のロールを買ってきてぐるぐる巻きにして梱包、充電器の取り付け方についても簡単な説明書をつけました。
メーカーでいうところの梱包設計というやつです。
こうして、手作りで作ったスタンドが初めて「売りもの」になります。
販売は手っ取り早くヤフーのオークションでページを立ち上げるところから始まります。
ネットでの販売は写真が成否の大半を制するので、なるべく素人さが出ないよう、また使いやすさが伝わるようなものを撮影、説明文も買い手が納得しやすいようなるべく長く詳しいものが良かろうと思い、寸法や適合機種などの仕様のほか特徴やメリットについて書き連ねます。
その際、他の出品者の出品ページを参考にしました。
というのは、他の人の出品ページのようなイメージにしたくなかったからです。
私はどうも性格が硬いのか、浮ついたキャッチーな文言や無駄に派手な商品写真には今ひとつ共感できません。
しゃらくさい造語のようなネーミングもそうです。
見ていただく方に安心して買っていただくには、朴訥で飾り気がない写真や説明文こそ信頼を得るために肝心なのだと考えました。
それで、類似の出品ページの真逆をいくようなページを立ち上げていよいよ出品となりました。
ヤフーのオークションは週末に動くという傾向があるので、平日はページビューとウォッチ数が伸びていくのをのんびり楽しんでいればいいかと構えていたところ、予想に反して、週末を待たずして最初の4台はあっという間に売れました。
サラリーマンのヤミ商売の木工屋がこうして始まりました。
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つづく
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