マイナ保険証への一本化 ~マイナンバー法等の改正が生活にもたらす影響は?~
1.はじめに
皆さんは、マイナンバーカードを持っていますか?
6月2日、マイナンバー法[1]等の改正法案が参議院本会議で成立しました。2024年秋に現行の健康保険証を廃止して、原則マイナンバーカードに一本化する「マイナ保険証」等を目的としたものです。
しかし、マイナンバーカードをめぐっては、昨今、他人の情報が紐づいていた等のミスやトラブルが相次いでいます。
果たして、マイナ保険証に一本化することによって、私達の生活には、どのような影響が生じるのでしょうか。
そこで、今回は、マイナンバー法等の改正やその影響についてご説明します。
2.そもそもマイナンバーカードって何?
マイナンバーカードとは、マイナンバー(日本に住民票を有する全ての人(外国人も含まれます。)が持つ12桁の番号)が記載された顔写真付きのカードです。
マイナンバーカードは、プラスチック製のICチップ付きカードで券面に氏名、住所、生年月日、性別、マイナンバーと本人の顔写真等が表示されます。
マイナンバーカードには、例えば、次の用途があります。
本人確認書類になる(携帯電話の契約、ライブ会場の入場、会員登録等に使える。)。
コンビニで各種証明書(住民票の写しや課税証明書等)が取得できる。
健康保険証として使える。
総務省の発表によれば、全国におけるマイナンバーカードの交付率は、令和5年4月末時点で69.8%となっています[2]。
3.改正法案のポイント
このように、従来、マイナンバーカードは健康保険証としても使うことができていましたが、今回のマイナンバー法等の改正案では、健康保険証を廃止して原則マイナンバーカードに一本化することになりました。
この点も含め、改正案の主なポイントは、次のとおりです。
※1 マイナンバーカードによりオンライン資格確認を受けることができない状況にある人とは、例えば、マイナンバーカードを紛失した・更新中の人、介護が必要な高齢者や子供などマイナンバーカードを取得していない人です。
※2 登録された口座は、給付金等の支給にのみ利用されます。そのため、公金受取口座として登録されることにより、当該口座が税の徴収等に使われることはありません。また、口座残高や取引履歴を把握されることもありません。
4.マイナンバーカードと健康保険証の一体化により変わること
マイナンバーカードと健康保険証が一体となることで、例えば、次のようなメリットがあります。
①医療機関での受付の自動化
受付窓口に顔認証付きカードリーダーが設置されると、ICチップから読み取った顔写真データと窓口で撮影した本人の顔写真を照合して、非接触で素早く自動で本人確認ができます。
②データに基づく診療・処方
過去の薬の処方や特定健診等のデータが自動で連携されるため、口頭で説明する必要がなくなります。はじめて受診する医療機関や薬局でもデータに基づく正確な情報を共有することができます。また、旅行先や災害時等でも、薬の情報等を連携することができます。
③マイナポータルでの健診や薬剤等の確認
ポータルサイト「マイナポータル」から、特定健診情報(40歳から74歳までの人を対象に、メタボリックシンドロームに着目して行われる健診結果の情報)、薬剤情報、医療費を確認することができます。
④確定申告が簡単になる
マイナポータルをe-Taxに連携すると、医療費の領収書を管理する必要がなく、医療費控除が自動で入力できます。
5.近時の混乱
しかし、一方で、マイナンバーカードをめぐっては、次のようなミスやトラブルが相次いでいます。
コンビニで他人の証明書が発行される。
マイナ保険証に他人の情報が登録される。
マイナ保険証に他人の情報が登録される。
マイナ保険証に他人の情報が登録される。
本人が希望していないのにマイナンバーカードと健康保険証が一体化される。
このうち、マイナ保険証に他人の情報が登録されたことについて、加藤厚生労働大臣は、5月26日の記者会見[3]において、他人の情報が登録された事案は2022年11月末までに7312件あり、このうち他人の薬剤情報や医療費通知情報が閲覧された事案は2022年11月末までに5件あったことを公表しました。
これは個人情報の漏洩であり、自分の与り知らないところで情報が開示されたとして、プライバシー侵害にもなり得ます。
また、もし他人の情報をもとに診断がなされてしまった場合には、間違った治療により症状が悪化したり、最悪の場合、命を落としてしまう危険性も考えられます。医療に関する手違いは、私達の健康や生命に重大な影響を及ぼしかねません。
岸田首相は、6月6日、総理大臣官邸で第4回デジタル社会推進会議を開催し、「マイナンバーカードへの信頼確保に向け、一連の事案に関する全てのデータやシステムの再点検を行うとともに、インシデント等への対応に関する体制を強化し、ヒューマンエラーを防ぐデジタル化を徹底するなど、対策を強化してください。」と発言しましたが[4]、果たして、トラブルは改善されるのでしょうか。
6.最後に
いわゆるマイナンバー制度が、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するか否かが争われた事件に関し、最高裁第1小法廷令和5年3月9日判決[5]は、判示の中で次のように言及しています。
この事件では、最高裁は、上記のような具体的な危険が生じているということはできないとして、いわゆるマイナンバー制度は、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではない、と判示しました。
しかし、運用が混乱した状態で、今回の改正案が施行されてしまうと、ともすれば、最高裁が指摘する上記の具体的な「危険」が生じてしまうかもしれません。私達は政府の運用を注視する必要がありますね。
以上
[1] なお、世間では、「マイナンバー法」と呼称されていますが、正式な法律名は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」です。
[2] 総務省「マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(令和5年4月末時点)」
(https://www.soumu.go.jp/main_content/000879993.pdf)
[3] 厚生労働省「加藤大臣会見概要(令和5年5月26日)」
(https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00560.html)
[4] 首相官邸「デジタル社会推進会議(令和5年6月6日)」
(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202306/06digital.html)
[5] 裁判所「最高裁判所判例集」
(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/846/091846_hanrei.pdf)